第7話 ジュティの決意③

夢中で走るジュティが足を止めたのは、淡い光が止まったからだった。

前方には木々があった。それが見えたのは、更にその奥地が薄暗かったからだ。

今日は月が出ていない。真っ暗であるはずなのに薄暗いなんておかしい。


ゆっくり足を進めた。淡い光がついてくる。地面には枯れ葉が積っていて、割れる音やつぶれる音がした。

木々の先にある薄暗い空間は視界が開けている。

湖がある。ここは、ヒゲのおじちゃんが通って居た場所だ。

まるで月明かりが差し込んでいかの様に、湖とその周辺は明るい。


ジュティは振り向く。

獣が追って来ているはずだ。

耳を凝らす。何かが追ってくる音は聞こえない。


湖に近づいて、水面を覗く。透き通った水で地面が見えている。昼間であっても、もちろん透き通ったきれいな水ではあるが、今この目の前にある水は特別に神秘的だ。

水そのものが淡く光っている様に見える。


ジュティが湖面に見入っていると、突然後方の木々の奥から強風が吹きこんで来た。

ハッとする。肌がチクチクするような、とても禍々しい風だった。

慌てて振り向いた時、そこには敵意に満ちた目を持った獣が居た。


目は赤く、禍々しく輝いている。

なんの動物にも見えない。人の様に2つの足で立ち、両手もある。足は鹿の様な形をしているようだった。

鹿人間!

ジュティは思った。顔も人の様だが、ツノが2つ生えていて、頬辺りにも毛が生えている。

山羊人間!

ジュティは再び思った。


獣は荒々しく息をしており、動く時は自分を殺そうとする時だろう。


獣の目を凝視する、それしか出来ない。すると、獣の視線が少しずれた気がした。引きずられるように、視線が向いた方をジュティも向く。


目の前を、何かが物凄い勢いで移動して行った。右から左へ!

獣の方へ向かったそれは、そのまま獣を貫いてしまう。

一瞬だった。


おそらく急所であっただろう胸に、その勢いあるものは突き刺さった訳だが、突き刺さったと同時に消えてしまった。

消えゆく瞬間、それが何だったのかがわかった。水だ。水だったのだ。


獣は立ったまま、後ろへ倒れて行く。倒れて地面に着く前に、淡く光り、閃光となってジュティの後ろの方へ飛んで行った。

ジュティも勢いよく振りむく。視界に入ったものを見て、ジュティは目を見開いた。


「精霊様ですか?・・・」


ジュティの前に。湖面の上に人間の様な姿をした精霊が浮かんでいた。

服は着ていない。けれど、まるで服のように水を纏っている。

そして姿はとても美しい。精霊に性別があるのか不明だが、どちらかと言えば女性の様に見える。

髪もとても長くて美しい。髪は体より長く、体に巻きつき、毛先の先端は湖面に触れ波紋を作っていた。

「そうだ、精霊様であるぞ、娘」

顔は表情が無いのに、とても優しい声だった。それになんだか、とても嬉しそうだ。

「はじめましてと言った方がいいか?」

嬉しそうな声色の精霊を前に、なんと言えばいいか、答えに困った。

「はじめまして、精霊様・・」

あいさつは大事だ。ジュティの言葉に、無表情な精霊がほほ笑んだ様な気がした。


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