第5話 ジュティの決意①
「元気だしなって」
慰めにもならない事は重々承知していたが、そう声かけるしかなかった。
外はすっかり真っ暗で、家の中では暖炉の火が揺れている。昼は温かいが、朝と夜はとても寒い時期だった。
大きく立派なテーブルには椅子が6脚設置され、小さな少女ジュティはその一つに座っていた。ジュティは10歳だったが、その割に体が小さい。
いつも笑顔で前を見て歩く子だったから、そんな小ささも目立たず大きく見えていたが、今は実際の大きさ以上に小さくなっている様な気がした。
声をかけた青年は、昼間、子供達に授業をしていた青年だ。
本当は実家に泊まる予定であったが、ジュティの話しを聞いて、母と共に彼女の家に泊まる事に変更した。
ジュティの家は広い。
元々5人家族が住んでいた家だったから、生活道具も寝具も、数人分はある。青年も母親も、晩御飯の素材だけ持ち込んだ形だ。
青年はカルロといった。
子供達からはカルロ先生と呼ばれている。彼もまた幼い頃はジュティと同じく好奇心旺盛で、色んな事を知りたがる子だった。ジュティに対して親近感を感じていた。
「ほら、変わった人だったから。きっとまたふらっと立ち寄ってくれるさ。」
ジュティは顔を上げてカルロを見た。
「旅してるって言ってたけど、もう一年くらいここに居たよね。自然を調査する仕事だって聞いてたけど、ほら、報告しに帰らなきゃいけなくなったとか、そう言う事じゃないかな」
これが慰めというやつだ。ジュティは知っている。
だって、嘘だもの。
ジュティは何も言わず、泣きそうな顔のままカルロを見つめた。
台所の方から、カルロのお母さんが晩御飯を作ってくれている音が聞こえてくる。スープを煮込む音と、匂い。
時計の音も聞こえてくる。時を刻む針。その針に宿る精霊の話しを、ヒゲのおじちゃんはいつだったかしてくれた。
バルバルがジュティの足元で丸まっている、寝てはいない。彼の視線は、ジュティのつま先にある。床につかない彼女のつま先はいつも揺れているが、今日は揺れていない。
カルロは困っていた。
どんなに言葉を言っても、ジュティには届かないと思った。
ジュティは両親を亡くしている。しかも突然に。
ある日突然、自分を守る人が失われる。彼女にとってはその消失の再来に近いのだと思う。
ヒゲのおじさん、マルコス。
何か理由があったにせよ、とんでも無い事をしてくれたものだ。
”おじちゃんが居なくなったの”
泣きながらそうとだけ言ったジュティ。
2年くらい、ほぼ一人で暮らしていたはずだが、しばらくどこかの家で預かった方がいいかもしれない。自分が都会に出ている訳だし、うちでもいいのではないだろうか。
母親に打診しようと、台所へ向かった。母はスープを煮込みながら、肉を焼く火加減を調整していた。
母に考えを伝えると、もちろん、と言って母は快諾した。
ジュティはテーブルにノートを置いた。
ヒゲのおじちゃんがくれたノート。おじちゃんが持っていたのは事典といって、ノートではなかった。
だけど、とても嬉しかった。難しい字が沢山書かれていて、まるで自分が凄い学者さんにでもなった気分になれた。
ノートを持って歩く時、いつもより自信を持って歩けたのだ。
「それは・・?」
戻って来たカルロはノートの事を聞いた。
「ヒゲのおじちゃんがくれたノートだよ。精霊様の場所が書かれてるって。」
カルロはすぐに意味を呑み込めなかった。
「カルロ、私、旅に出ようと思うの」
「え・・・?」
「精霊様を起こす旅だって書いてた。私、ヒゲのおじちゃんを助ける」
「え・・・?」
喋り出すジュティの言う事を上手く理解できず、カルロはこう言うしかなかった。
「え・・・?」
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