第3話 ヒゲのおじちゃん
ヒゲのおじちゃんが好きだった。
旅をしていると言うだけあって、世界各地の話しを沢山してくれた。
ヒゲのおじちゃんはかっこよかった。
背が高くて、細くて、・・この村では絶対生活していけなさそうな感じ。
ヒゲのおじちゃんは、髭を生やしてた。
この村にも髭を生やした人はいるけど、髭のおじちゃんの髭はそんなんじゃなくて、特別だった。
この村の人の髭は、剃り忘れか、処理するのが面倒で伸ばしっぱなしの場合が多いと思う。聞いた事はないけど、その人がどんな人かなって思ったら大体わかる。
ヒゲのおじちゃんのお髭は、長さが全部そろってた。何かで測って切っているのか、気になって聞いた事があるけど、掌を急に見せてくれて、それっ切り何も言わなかった。秘密って事だと思う。
ヒゲのおじちゃんはおしゃれだった。
村には絶対いない人。まず帽子をかぶってた。村のみんなも帽子をかぶっているけど、そういうのじゃなくて。
みんなは麦わら帽子をかぶって太陽様の光を避けているんだけど、ヒゲのおじちゃんの帽子は全く別物だった。まず麦わらじゃないし、触ると板でも入ってるのかなってくらいに堅くて、布が張られていて、頭にしっくりくる丸型じゃなくて、筒状で、つばはちゃんとついてたけど、こげ茶色の帽子なんて誰もかぶってない色だった。風が吹いたら飛んで行かないのかな?って思って、聞いた事があるんだけど、そうしたらヒゲのおじちゃんは帽子を頭から取って中を見せてくれた。
頭にフィットする様にちゃんと丸型の型が入ってて、だから大丈夫なんだよって教えてくれた。
その時は、へーって返事をしたけど、やっぱり風が強かったら飛んで行くんじゃないかな?無駄に長いもん。
ヒゲのおじちゃんは着ている服もキレイだった。
綿でも麻でもなくて、触るととってもなめらかな布。ちゃんと力を入れて持たないと、きっと手からすべり落ちちゃう。前に来た行商の連れの人が都会から来たっていう人で、その人が着てた服にそっくりだった。
そして一番驚いたのは、ヒゲのおじちゃんはとっても強いってこと。
見た目は細くて、クワも持てなさそうな人なんだけど。
ヒゲのおじさんはよく一人で森の中に入って行ってたから、イノシシなんか出たりしたら、どうするんだろう?って思って、ジュティとバルバルが守ってあげようと思ってよく一緒に行ってあげてた。
ジュティ達は戦えないけど、近くに何かいる時って、絶対痕跡があるの。足跡とか、木の皮の擦れてる所とかね。その痕跡を見つけたら襲われないように離れるんだけど、ヒゲのおじさんはきっとそんな痕跡わからないから、教えてあげようと思ってね。
でもほんと、心配ご無用だったの。
ヒゲのおじちゃんは、手から不思議な光を出す事が出来て、えっと精霊術?って言うんだって。その光で獣達は近づかないようにしてたみたい。確かに、森の中を歩いてたヒゲのおじさんの周りには、小さい淡い光の玉がいくつも浮かんでた。
だから一度も襲われた事ない。
襲われた事はないんだけど、襲われたジュティとバルバルを助けてくれた事があったの。
その時もヒゲのおじちゃんは、森の中にある湖の周りで何か探してた。
毎日そこに通って、何か探してた。虫かな?って思ったんだけど違うみたい。一緒に探してあげようと思って、何探してるの?って聞くんだけど、絶対教えてくれなかった。
おじちゃんが夢中で何かを探してる間、お腹すいちゃって、木の実を取りに少し離れちゃったんだ。
木の実がなる所へ行って、ちょっとだけ木に登って、枝から実を取って食べてたの。
実は食べごろになると枝から落ちるんだけど、落ちちゃった実には虫は入ってたりするから、まだ枝についてるのを食べるのが好き。
夢中で木の実を食べてたら、なんだか変な声がしたのね。変な声っていうのは、現実を認めたくないからの表現っていうか、そう、聞こえたのは獣の呻き声だったの。
3,4本くらい離れた辺りの木の枝に、猿みたいな生き物がぶら下がってこっちを見て唸ってた。
普通の動物じゃなくて、獣だった。動物の事を獣って言ったりもするけど、動物じゃないものを獣って言ったりもする。言葉って不思議。
獣に会ったら、大けがもしくは死んじゃう。
だから獣に会わないように、村の人はみんなお守りを持ってる。
それは精霊様の力が宿っていて、それを持っていれば絶対に襲われない。
お守りは肌身離さず持っている。
なのに、あの獣はこっちを見て唸ってる。なんで?どうして?
身動きとれなかった。
木から飛び降りた瞬間に、襲ってくるような気がしたから。
怖くて体が動けない。
自分に向けられた敵意、悪意。視線から感じるそれが体をこわばらせた。
その時、後ろの遠くからバルバルの吠える声がしたの。向く事は出来なかったけど、バルバルがこっちに向かって走ってくるのがわかった。
ダメって思った。
バルバルが殺されちゃう。
バルバルは普段、吠えない。きっと異変を感じて向かって来てるんだと思った。
でもダメ、獣が居るの!来ちゃダメ!
何とか体をひねって、どんどん近づいてくるバルバルを見た。
「バルバルだめー!」
その場で大声で叫んだ。
ガサガサって、枝と葉っぱが動く音がした。バキって枝が折れる音もした。風じゃなくて、獣が移動したせいで生じた音だってわかった。
やられちゃう。
ひねった体をもどして、正面を見た。正面には獣の顔があった、目に溢れる敵意。
ああ、死んじゃう。
そう思った時、風が吹いた。風は私と、目の前の獣の毛を揺らした。
「・・・?」
獣は空中で、止まってた。
私に飛びかかって、あと1秒もあれば絶対届いてた。
時間が止まったの??本気で思った。
だってこの獣は、もう自分を仕留めてるつもりだと思う。敵意に満ちて、勝ち誇った目をしてるもの。
バルバルが弱々しく鳴いた。
木の下にいるバルバルに視線を向けると、そこにはヒゲのおじちゃんがいたの。
目の前の獣にもう一度目をやったら、動かないまま、淡く光り初めて、形が線みたいになって、おじちゃんが前に出した右の手のひらに向かって飛んで行ったの。そのまま手のひらの中に入り込んで、光は消えた。
ヒゲのおじちゃんは、大丈夫?間にあってよかった、って言って、降りておいで、もう大丈夫だからって。
木の下まで、幹をつたって降りたの。いつもは飛び降りるんだけどね。
それでヒゲのおじちゃんに抱きついて、ありがとう、ってお礼を言ったの。
バルバルはひざをぺろぺろ必死に舐めてくれた。心配かけてごめんね。
おじちゃんはとっても温かくて、ジュティにはお父さんもお母さんもいないけど、もしも居たら、こんな人が良いなって思った。
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