第5話 常田家2

 常田家の中によそ者のわたし一人。なんだか緊張しちゃう。でも常田家の人々はお菓子を食べたり、コーヒー飲んだりとても寛いでいる。

「梛さんも食べて食べて。浩二もありがとうね、これが食べたかったのよー。たまに送ってくれててね」

「あ、はい……いただきます」

 うちの地元では有名なお菓子なんだけども、あえて食べることはなかったからこんな味なんだと。そこまで気にいる味なのかな。


「あ、あのさ……みんな」

 常田くんがそう言うとみんなの手が止まった。彼と目を合わせる。


「改めまして、僕の……その、おつきあいさせてもらってる東雲梛さんです」

「東雲梛です。よろしくお願いします」

 改めて挨拶する。みんなニコニコとしてくれている。わたしの正体を知っている慶一郎さんも。

 ちゃんとわたし、常田くんの恋人に見えるかな。淡いピンクのニットにグレーのワンピース、髪の毛もふわっとさせて来たんだけど……。


「まぁまぁ緊張せんでもええで。美波もこれくらいべっぴんさんで気品があったらなぁ」

 とお父様。美波……常田くんの妹のことかな。

「娘の美波は看護師でね、サバサバしてて化粧っけないのよ。スカートも履かないし。わたしもだけどね……まぁ楽だから……ってだめよねぇ」

 ふふふふ、と笑うお母様が可愛らしい。たしか市役所で働いてるんだよね? 彼女もとても品があるとは思うけど。間違いなくうちの母さんや輝子さんに比べたら全然素敵な女性だ。


「浩二も素敵な嫁さん見つけたもんだな」

「まだ嫁とかやない……っ」

 常田くんが顔を真っ赤にしている。


「お父さん、まだ結婚とかなお話じゃないんだから。でも一緒に住んでたし、それに通院の送り迎えもしてくれたって……ご迷惑かけました」

「いえ……」

 やっぱり緊張して喉が乾く。


「浩二の病気のことは理解してくれているとは慶一郎から聞いておるが……並大抵なことやないで、梛さん」

 ……お父様も、慶一郎さんと同じようなことを言ってる。


「でもそれなりに覚悟してついてくれたんやな。本当に梛さん……ありがとな」

 覚悟か……。常田くんがコタツの中でわたしの手を握ってきた。わたしには顔を向けずに。ぎゅっと握り返した。


 たわいもない話をして、常田くんの子供の頃の写真を見たり、チラッとお笑い芸人たちが出てくる番組を見て、初詣に行くことになった。お昼は神社の近くのご飯屋さんにも行くとのこと。少しお腹空いてる。


「じゃあ着物に着替えましょうね。浩二の部屋に着物用意してあるから」

 常田くんの部屋に入れるんだ。居間も台所もだけど物も少なくてきれいである。やはりお母様はきれい好き、そして常田くんのことを考えているのだ。

 わたしは立ち上がってコーヒーのカップを台所に持っていこうとすると、慶一郎さんが大丈夫だよと代わりにカップを持っていく。

 こういうのはわたしがやらなきゃと思ってたんだけど……。

「梛さん、やらなくていいのよ。あなたと浩二は着替えなきゃ」

「あ、はい……ではお願いします」

 慶一郎さんとお父さん二人で部屋を片付けていた。


 常田くんの部屋は一階の奥にあった。和室なんだ……ますます昔のわたしの家の頃を彷彿させるわ。

「おかん、用意するで呼んだら来てくれや」

「あ、うん……でも早くしなさいよ」

 と、常田くんはわたしを部屋に入れる。家具はタンスとベッドと学習机だけ。シンプル。緑色と青色のきれいな着物や小物が広げてある。


 パタン


 ふすまが閉められたと同時に常田くんが後ろから抱きついてきた。

「ちょっと、常田く……」

 声を出した途端にわたしの口は彼の口に塞がれる。後ろから胸を弄られ、ベッドに押し倒された。


「声出すなよ……二人きりになりたかったん」

 常田くんっ……昨日の夜あんなにしたのに。彼は眼鏡を外してたくさんキスをしてきた。そして一気に服を脱ぎ出した。

「そのピンクのニット、余所行きの梛……いつもよりも色っぽいで」

耳元で囁かれるとドキッとしてしまう。スカートに手を入れられて……太腿を触られ、お尻を触られる。本当に変態!!!


「浩二ーっ、これって梛さんの……って!!!」

 お母様に見られてしまった。慌ててふすまを閉められてしまった。部屋の中にはわたしが忘れてたポーチが……、これを届けてくれたのかな?


「おかん! 呼ぶまでくるなってゆうたやろ」

「は、はやくしなさいよっ」

 顔を真っ赤にしてる常田くん。わたしも恥ずかしいよ! 


 そういえば……着物着るからわたしの下着姿見られちゃう……どうしよ。

「とりあえず長襦袢着たらええやろ。あと母さんに着付けしてもらう時にあそこが勃たんようにな」

「だ、大丈夫よ……」

 そこなのよ、自然現象だからなぁ。困った。慶一郎さんしかわたしの正体しらない。こういう時に自分で着物を着れたら……と思うのよね。

 常田くんはテキパキと服を脱いでササッと長襦袢を着ている。

「てか僕が着物着付けてもええけどな」

「え、着付けできるの?」

「まぁな。ばあちゃんが教えてくれたんや。帯はわからんけども途中までは」

 と言いながら常田くんは着替えていく。……ど、どういうこと。手つきも器用。


「昔はな、親戚もよう来とったん。おとん長男やから。じいちゃんばあちゃん生きてた頃は正月とか夏祭りとかそういう時はみんな着物着てさー。お茶会とかもやっとったんや」

「お、お茶会?」

「ばあちゃんが茶道の師範やったんよ。自分でも着物着れたら準備とか手間かからんやろと思ってな」

常田くんはさっさと着替え、整えている。すごい……。そしてわたしの着付けをしてくれる。手際良すぎるんだけどぉ。

「すごいね……」

「そうか? まぁあとは……おかんー、入ってきてええで」

 お母様が顔を真っ赤にさせて入ってくる。二人がかりで着付けてくれた。


 ……常田くんが入院してる間に着物教室通おうかな。

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