第2話 愛の巣から巣立つ君は
常田くんからクリスマスにもらったこの指輪……そしてそのあと過ごした初めての濃密なクリスマスナイト。
とても良い一夜だったけどもうそれは夢のようにあっという間に覚めて、職場では早急に常田くんは引き継ぎ、家では引っ越しの荷造りでわたしもそれを手伝うために慌ただしく、本当に「師走」と思えるような一週間。
反対にあの一週間でできたわよねーと思う。途中送別会もあって半日寝込んでしまったし。
常田くんの家具やら荷物を彼の実家に送りガランとした部屋。
居間も物が減った。わたしも春前には追っかけて引っ越すからこの部屋から何もなくなる。
玄関前には大きなスーツケースとボストンバック二人分。
元旦の朝にわたしたち二人で、常田くんの実家に行くのだ。そしてそのまま彼は実家、そして病院で過ごすことになる。
はじめての常田くんの実家訪問が正月って! しかもあっちに着いたら着物を着させてあげるとか言われたし……ある意味食事会じゃないっ。あああ、目の前に美味しいすき焼きあるのに喉に通らないー。
「この部屋も今日で最後か。あっという間だったね……」
「うん、でもね……常田くんいなかったらわたし一人だったし。また一人になっちゃうけどさ」
寂しいよ……常田くん。去年まではネネがいたし。数ヶ月後にはわたしもこの部屋から出て行く。
クリスマスツリーも片付けられて寂しく感じるが、たぶん常田くんいなくなったらすぐ散らかす自信はある。
現にわたしの部屋は汚いし。ダメだなぁ。
大阪でもまた二人アパート見つけて暮らすけど互いの勤める図書館の近くかなーってくらいしか目星つけていないし……それまでは常田くんは実家にいるらしい。
まだ先のことは決まっていないけど、でもその先の先は彼の手術も成功して大阪で仕事が決まり、二人でまた一緒に暮らす、そしてずっと添い遂げる。そうでありたいって。
いや、その前に常田くんのご両親にどうご挨拶しよう。慶一郎さんにはわたしが男ってバレてるけど、結婚は同性同士で結婚できないからその辺は隠して一緒に住むでも良くない? いや、ダメか。お母様とはまだ会ってないから……うーむ。
「梛、いろいろ考えてもしょうがないで。せっかくええ肉買ったし。食べや」
常田くんはもうご飯二杯お代わりしてバクバク食べてる。手術怖いー梛ぃーって泣いてた彼が何も気にもしないで良く喉が通るわね……。そりゃーあんたはわたしの家族いないから挨拶とかしなくていいから気が楽だし、自分の実家に帰るだけだし。気持ちが全然違う。
「明日早いではよ食べて寝よな」
「そうね……運転しなきゃだし」
常田くんはジッとわたしを見る。少し寂しげな顔をしてる。
「クリスマス以降しとらんな」
「!!!」
そう、クリスマスの夜以降は忙しすぎて寝ちゃって……。今日も早く寝たいし。
でも明日以降は常田くんの実家だから……無理だ!
「梛は声でかいからな……」
そこかい! ……だってさー、なんというかさ。常田くんはニヤニヤ笑ってる。変態!
「……もうしばらく会えなくなるし、な」
「うん……」
なっ、て言われてもさ。ストレートにしたいって言ってよ。わたしが押し倒すパターンじゃん。
「梛が他の人に心移りしないか心配なんや……そばにおらんかったら他の人にフラっと行きそうでな」
そんな軽い人だと思ってるの?
「ごめん、そんなこと思っちゃって。まぁいいや。その指輪あるしな」
「この指輪?」
「他の人が梛に近づけないようにするための指輪」
……そのための?! そうだったの?!
「怒ってる?」
「……別に」
「怒っとるやん、すまんな。あとは片付ける、お風呂入ってきてや」
「わかった」
わたしの中で何か突っかかってた常田くんの言動は慶一郎さんが言うには口下手でキツイ言い方だった彼はそれをバレないようにチャラいキャラ演じて隠してて、付き合ってから本性が見えてしまったのよね。
わたしだって心の中ではたくさん言い返してるのに口にして言い返せない。常田くんもそれはわかってる。でも口にして言ったら? なんて言わない。お互いそこがうまくいかないけどなんとか今までやってきた、と思う。
不器用なのよ、彼もわたしも。
お互いそれぞれお風呂に入って、紅白を炬燵に入って見て、寝室へ。もう常田くんのベッドとお布団は送ってしまったからわたしのベッドの中で二人。珍しい。
そっと腕枕してくれる常田くん。この腕枕もしばしのお別れ?
一年が終わろうとしている。スマホのネット中継でカウントダウンを見る。
「5.4.3.2.1……」
「ハッピーニューイヤー!」
「ハッピーニューイヤー!」
来年の今頃もこうやって祝ってるのかな? 常田くんの顔が近づいてくる。
「チューするとな、襲うかもしれん」
「しなくても襲う気でしょ?」
するといつもの笑顔で常田くんは笑った。
「バレた? もう一週間もしとらん!!」
「でも寝なさい……チューだけはいいよ」
ちゅっ、とわたしからすると、常田くんはわたしを引き寄せ、わたしに覆いかぶさった。
「やばい、襲いそう」
「もぉっ」
……やっぱりダメだった。わたしも抑えきれなかった。
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