第21話 クリスマス2

 そして閉館後、クリスマスツリーは残ってたスタッフたちで手早く解体される。

 それもみんなそれぞれのクリスマスのため、作業も早く帰っていく。


 わたしと常田くんは車に乗っていつものように帰宅。いや、今日はモールの喫茶店でディナー。昨日の昼休みに電話したら予約できますよって言われて向かう。常田くんは横で少しソワソワしている。

「夏姐さんの息子さん、女の子といたよね」

「常田くんも見た? あの子、彼女かなー」

「だよね、そう思った。でも夏姐さんは知ってるんやろうか」

「どーだろ……そいや夏姐さんは誰とクリスマス過ごすんだろ」

「楽しそうに早番終えて帰ったからさ、男でもできたんやろ」

 ……仙台さんと? なわけないよ。わたしたちのことは詮索してしてきたのに、あれからどうしたかは教えてくれなかった。

 またなにかあったらどこかの居酒屋に連れられてグダ撒いてベロベロとお酒に酔いながら愚痴るだろうしね。それまではそっとしておこう。


 今夜は私たちのクリスマスを楽しもう。


 喫茶店はなかなか賑わっている。クリスマスの装飾も出しているけどいつもの喫茶店である。

「なんかクリスマスやけどもふつうやなぁ」

「そうね、ふつう」

 二人目を合わせて笑い合う。あんなに楽しみにしていたのにねぇ。

「でも梛とはじめてのクリスマスや。嬉しい」

「わたしもよ、常田くん」

 ちょっとドキドキしてきた。そうよ、こういう感じ。クリスマス、特別なクリスマス。

 出されたハンバーグプレートに、ビーフシチュー。いつもよりスペシャルなメニューを注文して


 するとさっきよりソワソワしてきた常田くん。そしてちょっとニヤニヤ。なんなの?

「梛、僕からさ……クリスマスプレゼントあるんだ」

「あら、わたしもよ」

 常田くんは、えっとした顔をする。一応プレゼントは用意しておいたのだ。悩んだけどこれかなって。わたしから先にあげることにした。常田くんが目の前で開けた。

「カバン。あなたが使ってるのボロボロだったし……ボディバッグにもなるし、ウエストポーチにもなるし。これから使いやすいかなって」

 ちょっとしたブランドもの。撥水加工もする。見た目小さくてもたくさん入るし、鍵を繋げる紐もあるし。常田くんは喜んですぐ身につけてくれた。


「こういうの嬉しい。カバンの中でよく鍵を無くすからさ」

「これならすっと出せるから便利よ」

「体にフィットするし助かる。ありがとう、梛」

 すごく喜んでくれた。プレゼントってなかなかしないし、男の人になんて……どんな反応するかドキドキしたけどさ。良かった。


 で、常田くんからわたしには?

「も、もうさーご飯食べたし……モールの中歩かない?」

 ……そうね、結構料理がボリューミーだったし。散歩でも。いつも以上にソワソワした常田くん。はじめてのデートの時みたいな感じ。手を繋いでモールの中を歩く。半年前に改装されてモールの中はどこか海外の街を歩いているかのよう。


 所々にカップルが手を繋いで歩く。やっぱりそうよね、そうしたいよね。みんなここからどこへ行くの?ラブホ? ホテル? おうち?

 幸せなクリスマスを過ごすんだ、このカップルたちは。なんかそう考えるとドキドキね。

 わたしたちもおうち帰ったら……ふふふ。って横に常田くんがいない?! 

「こら、梛。こんな時もまた何か妄想して!」

 あちゃちゃ……。常田くんはわたしの背後に立ち止まってた。噴水の前に立っていた。わたしは慌てて戻った。でも彼は進もうとしない。


「常田くん、そろそろうちに帰ろう」

 常田くんは首を横に振る。もぉっ、どーしたのよ。なんか手を後ろに回してモゾモゾしている。落ち着きのなさが尋常じゃない。

「梛っ!」

 いきなり大きな声を出す。周りが見てるじゃない。恥ずかしい……。

「なあに? 常田くん……」

「あのさそのさ」

 すっとわたしのまえに何かを差し出した。箱……。


 ま、まさかこれは! ……これは妄想じゃないよね?

「……梛、僕と一緒についてきてください」

 いつも関西弁の彼がたどたどしく標準語で。かわいい。


 その箱が開けられると、指輪……。妄想、じゃないよね? 何度も確認してしまう。常田くんは箱を開いてミッションを達成できたと安堵していたものかわいい笑顔を見せてくれた。……妄想じゃない、本当だ。


「はい、もちろん」

 指輪のサイズもぴったり。なんでだろう。いつの間に指輪? 彼なりに頑張って用意してくれたんだろう。ほんと嬉しい……。


 わたしは幸せになれる。あれから母さんは夢の中に出てこない。常田くんを思いっきり抱きしめた。




 おうちに帰って耐えきれなくて玄関でたくさんキスをした。カバンから次郎さんからもらったプレゼントが落ちた。


「そういえばその中身、なんなん?」

「そうよね、なんだろう」

 はやく常田くんとラブラブしたいけど二人でプレゼントの中身を見てみた。


 ……。




 !!!!



 総レースの真っ赤なランジェリー!!!! スケスケで隠すところがない……。


「す、すごいな……これ」

「ね、ねえ……ショーツも面積狭い……」

「Tバック……やないか」

 常田くんが下着をマジマジと見ている。

 そして袋から

『メリークリスマス☆好きな人と幸せな一晩を

 一晩だけでなくずっとこのまま二人歩んでいけますよう、わたしは応援しています。 J』

 と書いてあるメッセージカードが落ちた。


 J、は次郎のJだ。わたしは笑ってしまった。あの女装でこの下着を買いに行ったのかしら。それを考えただけで笑える。

「梛、これ着てみ」

 変態……。わたしは下着を持って浴室に行く。少し冷静になって一人で下着を見る。……これ着て常田くんの所に行くのね。



 これが、彼氏のいるクリスマス???

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る