第20話 クリスマス1

 図書館の児童書スペースに置いてある大きなクリスマスツリー。これも明日朝には撤収しなくてはいけない。ああ、家のクリスマスツリーもしまわなきゃ。

 そして門松や図書館年始みくじの用意、展示企画もお正月の絵本を用意しなくてはいけない。やることはたくさん。

 クリスマスでウハウハしてる場合ではないのだ。そもそもクリスマスだからリア充してる人たちはここには来ない。


 あ、そんなこと言ってたら……。

「梛さん、こんにちはー」

 はにかむ門男さんの横にニコニコのさくらさん。二人とも仲良しね。


「そうそう梛さん。こないだここで募集していた読み聞かせのボランティアの募集見てね、私たち来月からやりたいと思ってお話し聞きたくって」

 あ、児童書スペースに小さく貼ってあった読み聞かせボランティアのポスター。


 もう数人はいるんだけども集まるのは高齢の主婦や司書を目指す学生さん、なかには中学生の子もいる。平日の午前中が月数回、あとは土曜日なんだけど、人それぞれでられる日にちも限られるから地味に募集を掛けていた。まさかそれをさくらさんたちが……。

「わたしたち夫婦でやろうかと」

「お二人でっ?!」

「そう、久しぶりに舞台に立ちたいと思ってね、あなた」

 門男さんも頷いた。そうだ、この人たちは元役者である。いい人材がいたではないか。

 だけどせっかく二人がボランティアをやろうとしているのにわたしはもうこの図書館からいなくなってしまう。いつ言おう……。二人からボランティア申請用紙を受け取った。



 夕方すぎるといつもよりも早い時間に制服を着た学生さんたちがちらほらやってきた。


 そういえばよく隅っこで本を読んでいた女の子……あ、いたいた。久しぶりに一人で来てるところ見た。あれ、前一緒に来ていた彼氏はどうしたのだろう。

 クリスマス前に別れたのかな。だからまたこの図書館に戻ってきたのね。


「おいー莉花」

 そんな彼女の元に、どこかで見た男の子が駆け寄ってきた。

「泰造、図書館では静かにしなさいっ」

「すまんすまん、なんだよ……ここに呼び出してさ」

 あの男の子、夏姐さんの次男坊の……あ、わたしを見て会釈してくれた。


 長男の潤くんもだけど次男の泰造くんもかっこいいのよねぇ。にしても泰造くんはあの女の子と仲良さげね。まさか二人付き合ってたりして。お似合いよ。

 そう、35歳で年増のわたしよりも同世代の女の子とのほうがいい、絶対。


「梛さんっ」

 はっ! また仕事中にボーッとしてしまった。ダメだ。後ろを振り返るとわたしより背の高い女性が! って次郎さん!! あのデート? から数回、女装してくるようになった。みんなあの次郎さんだなんて……うーん、わかるか。


「今日はいるか心配だったけどいて良かったわ。ちょっと渡したいものがあって」

 渡したいもの? カバンからクリスマスラッピングをされた包み。


「……彼氏さんと良いクリスマスを」

 と、足早に去っていった。何かしら、これ……って、ネネの服屋の袋と同じ。外から触ると柔らかい。これ渡すためだけに来たの? そして女装もこれだけのため? 次郎さんは好きな人とクリスマスじゃないけど週末初めて会うとか言ってたけど……いいクリスマス過ごせますよう……。


「梛、さっきのは……?」

 常田くんが返却カートひいてきた。彼はここしばらく事務所で作業をしているのだが、スタッフが少ないために手伝っていたようだ。わたしは慌てて変わる。

「大丈夫だよ、これくらい」

「ダメだって。高いところの本とか危ないでしょ……あ、これはなんかプレゼント貰っちゃった」

「さっきの人は梛の友達? 背が高いから男の人だよね?」

 ……ジロウとはわかってないようだ。さすが、女装のプロ、次郎。わたしは女装じゃないんだからっ。

 常田くんは怪しいって顔をする。嫉妬が酷すぎるぞ、あなたは。


「わたしの友達。ほら、これ……ネネのお店の袋。常連同士だから」

「ふぅん、ならええけど。てか僕がやるって」

「だめ、もし怪我とかしたら……今夜クリスマスなのに、ねっ」

「う、うん……そやな。たのむで」

 ちょっとにやける。やっぱり今夜、常田くん……クリスマスだからってフフフっ。でもいつもと変わらない、チキン買って、ビーフシチュー用意してあるだけだし。

 夜もおうちで過ごすから特に何も変わりもないけど、ラブラブイチャイチャは確定かしら、ふふふ。


 ドン!


「キャッ」

 わたしが早速本棚にぶつかってしまった。よかった、人じゃなくて。ちゃんとしなきゃ。

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