第13話 デート
「よりによってここですか」
「いいでしょ。デートしたくないの?」
「したいっす、寺イイっすね!」
イイっすね! の顔をしてない常田くん。わたしは仙台さんと話していたあのお寺に向かって急な坂道を下っている。険しい道だけどいろんな植物も生息していて。夕方近くもあり、人なんていない。
仙台さんとの下見デートの下見よ。常田くんとのデートじゃなくてあくまでも。
若いくせして下り道に足をプルプルさせてて。わたしはいつも出勤はズボンにスニーカーって決めてるし。
これはちょっと小学生には向かないわね……薄暗いし。そしてデートにも、向かない。
わたしたちはなんとかして寺まで降りていった。少し人がいるけど年配の人たちしかいない。
広い境内、池にさらにかかる大きな橋、大きなお寺、紅葉した木々たち。真ん中には大きなイチョウの木。下にはいっぱいイチョウの葉が落ちていて黄色の絨毯になってる。
「綺麗……」
「そやな。この季節に来たの初めてや」
わたしはイチョウの葉を一枚拾った。……しおりにぴったり。もちろんラミネート加工してだけど。図書館と同じ施設内にラミネートができる機械が置いてあるのよね。職場のはあえて使わない。
わたしは数枚拾ってティッシュにくるんで鞄にしまった。作ったら仙台さんにあげるの。
「それなににするん?」
「ちょっとね」
「可愛い趣味あるんやな」
「まぁね」
常田くんには理解できないかな。あげるわけない。
「綺麗や……」
さっきまでチャラかった彼がこの風景を見て立ち止まり魅了されてる。あなたもこんな景色を愛でることができるのね。
するとスマホを取り出して撮影している。さすが若い。これは確かに映える。ってことはSNSやってるのか? バシャバシャ撮りすぎ、常田くん。自分は映らないの?
「一緒に撮りましょ」
「いや、わたしはいい……」
「ええやん。減るもんじゃないし」
って常田くんは私の肩に手をやって顔を近づけて……そう長くもない腕を伸ばして自撮り。私は顔を背ける。
「笑って」
「……」
「カメラ見て」
画面にはイチョウの木(の幹)と犬歯剥き出しの常田くんの笑顔と上目遣いのわたし。まともな写真じゃない。
「はいチーズ」
何枚か連写。
「可愛いカッコしてるんだから梛さん、ここ立って。スマホで撮ってあげます」
……確かに今日の着ているアウターはネネのお店の新作のダスティピンクのレザージャケットにトップスもそれに合わせてネネにコーディネートしてもらったタートルネック。ジーパンのボトムにも合う。可愛いって言ってもらえてうれしい。
「そろそろあたりも暗くなったし帰ろか」
「そうね」
わたしたちは顔を見合わせた。言いたいことはわかってる。
「行きは下ったけど」
「帰りは上らなかん」
前来た時は20代後半だったし、その時よりもきつい。常田くんも最初は余裕余裕とか言いながらも中盤で何度か足を止める。わたしよりも若いくせに!
すごく息が切れる。メイク崩れてないかしら。
いったん休憩。わたしが手をついたところは大きな木。その木は穴が開いていた。
仙台さんと一緒に見たあの本にも載っていた。裏側には樹洞もある。奥まで見えない。何か落としたら取れなさそうだし、自分から落ちたらどこかに繋がってて戻って来れなさそうだ。
「そこに落ちたらどこにいっちゃうんやろな」
「……どこ行くと思う?」
「世界の裏側」
疲れてても笑って冗談言えるのね。するとすっと手を差し出された。
「一緒に入る?」
はっ? なに言ってんのよ……。わたしをじっと見てる。すごく真剣な顔している。さっきまで笑ってたのに。それに薄化粧のわたしの顔をそんなにみないで。顔を逸らしたかったけどその真剣な眼差しに惚れた。
何でそう思ってしまうの……。彼の手がじわじわ温かくなる。わたしが妄想してドキドキしたネタが伝わってしまったのかな。
「なんてな。さぁ休憩は終わり。上まで登るで!」
「う、うん」
少しは余韻持たせてよ。いつも以上にドキドキしてかなり息切れした。歳かしら、それとも恋……。
わたしたちが参道の入り口に戻ったときには周りは薄暗くなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます