特殊な部活がある学校生活の話みたいな奴

「そう、あれは今から三年前のことだったーー」

「おい、何回想に入ろうとしてんだ」

 茶髪の少年と、黒髪眼鏡の少年。特徴といえばそれくらいの物で、それ以上の特徴はない。

 茶髪の少年は高橋たかはし。黒髪の少年は佐藤さとう

「俺が中学生の頃の話だ」

 何を言っても無駄だと感じた高橋は口を挟むことはなくなった。

「俺は二つ上の恵美えみ先輩に恋をしていた」

 昔を懐かしむ様な表情の佐藤に反して、高橋の顔は何も感情が浮かんでいる様には見えなかった。

「そして、俺は一度もやったことがなかった将棋部に入った」

「…………」

「一ヶ月で辞めたよね」

 佐藤は片思い相手のいる将棋部に入ったものの、全く持って理解できずにすぐに将棋部を辞めてしまったのだ。

「その事を反省した俺は茶道部に入った」

「…………」

「二週間も持たなかったが。和菓子は最高だった」

 佐藤は甘いものが好きなタチであった。

 だからどうしたと言う話なのだが。

「そして、弓道部、剣道部、空手部と渡り歩いたが全然だった……」

 高橋は密かに思っていた。

 佐藤は向いていないと。

「そして、俺は一つの真理に辿り着いた。俺ができる部活が無いなら作ってしまえ。それが、ビークールカッコ良くなれ部だ!」

 その言葉を聞いた瞬間に高橋の頭には一つのツッコミが思い浮かんだ。

 

 ビークール頭を冷やせ

 

 中学の頃からの付き合いだが、ここまで酷いことになっているとは。

 なまじ、頭が良かったのか。様々な作戦を思いついては実行する。それが佐藤という男だった。

 そして、謎のカリスマがあった。つまりはビークール部が出来てしまったのだ。

「一先ず、それは良いんだ」

「…………」

 良くねえよ。

 そう思ったが、口を噤んだ。

「恵美先輩の誕生日がもう直ぐだと聞いてな。一緒に買い物に来てくれないか?」

「…………」

 その前に、佐藤が恵美とそこまで仲が良かったのか。それが甚だ疑問である。

「ビークール部の同士。協力し合うのが部活だ。友情、努力、勝利」

「どこの週刊少年誌だっての。その少年誌でもそれはもう古いって。才能がいっちゃん凄いんだっての」

「なんて夢の無い……」

「で、行くのか?」

 床にあぐらをかいていた高橋はため息を吐きながら立ち上がった。

 そして窓の外を見る。

「ちょっと天気悪くないか?」

 雲がどんよりとかかっている。

「大丈夫だ、傘を持ってきている」

「準備いいな……って、番傘?」

「ビークールだ」

「関係なくない?」

「ビークール部は町の平和も守っているんだ」

「うん、で?」

「パトロールに必要なんだ。怪しまれにくいし、武器にもなる」

「別に普通の傘で良くない?」

「ビークール!」

 突然、佐藤が大きな声で叫び出すもので、高橋はびっくりして肩を震わせた。

「ひったくりとか痴漢とかを撃退したら、カッコいいだろ?」

 眼鏡をクイと持ち上げて、佐藤は不敵に笑った。

 だから、関係ねぇだろ。

 そう言いたかったが、面倒と感じて高橋は口を閉じた。

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