世界で一番愛する人(仮称)

「この世界で何よりも君が美しい!」

 歯の浮くようなセリフ。

 演技臭く、仰々しく、格好をつけながら一輪の花を差し出しながら黒色のキッチリとした服を着て、男は告白した。

「私と結婚してくれ!」

 顔は二枚目。

 キザったらしい、その立ち振る舞いを除けば優良物件と言うものだ。だが、それでも彼と結婚するものはいない。

 彼が告白した相手の答えは酷いものだった。

「おいおい愛の告白の返事が蹴りなんて酷いだろ、『魔女』さんよ」

 彼はそう言いながら上を見る。

 アゲハ蝶のようなはねをはためかせる、人の顔の皮膚を剥ぎ面積を広げて貼り付けたかのような筋繊維が剥き出しの女が浮かんでいた。

 グロテスクに見えるその体と、魅惑的な羽が混ざり合い、混沌とした美が君臨する。

 『魔女』。

 どのような原理で生まれたのか。どのような理由があったのか。それはひとえに愛を持たなかったからという理由で片付けられる。魔女とは愛されぬ者、愛さぬ者。生物として愛を育めなかった者たちの事だ。

 愛を欲して、愛を求めて、愛に歪んで、愛を妬んで。手を伸ばす。

 その手を誰か取る事はできなかったのか。

 魔女になってしまった者達の運命は破滅のみ。

 魔女を愛せば、魔女は崩壊する。

 存在する理由が消失してしまうから。

 一度、魔女になってしまった者達に救済はない。

「哀れな魔女よ。俺は君を愛そう。君が何よりも大切で、好きで、離したくない!」

 そんな愛の叫びは届かない。

 そこには愛がないから。

「ーー俺の愛は受け取れないらしい」

 迫り来る魔女の攻撃を軽々と避けて、銀色のナイフを魔女の胸に投げつける。

「けど、こいつは受け止められるんだろ?」

 それは魔女の胸を穿った。

 仕留めたのだ。

 魔女の体はボロボロと崩れ落ちていき、裸の女性が地面に落ちた。

 その顔に微笑みはない。

 その顔に苦しみはない。

 胸に突き刺さった銀の短剣を抜けば、血が溢れ出るだろう。

 どこかで聞いたことがある。

 最後まで魔女を攻撃せずに、愛を叫んだ女がいただとか。結果として、その女は魔女を愛した。魔女はその愛を受け止めた。

 そんな女に憧れた。

 だから、愛を叫ぶ。

 しかし、今回はナイフなどという浅ましい道具に頼ってしまった。

 そんなつもりはなかったのに。

「次こそは愛してみせる」

 一つの疑問。

 それは何故彼が魔女にならないのか。男だからなどという理由ではない。愛を叫ぶが、愛はない。

 しかし、彼は愛を持っている。

 単純に彼は誰よりも自己愛に満ち溢れているだけの話なのだ。




***


 チラッと浮かんだ程度のものです。多分今までで一番、設定が適当かもしれません。

 まあ、思いつきです。

 ファンタジーです。歴史、現代ドラマ、ファンタジー。次は何でしょう。

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