現役女子高生アイドルの姉はネット動画配信者の俺のファンだった!? 的な奴。タイトル長いなー

『お前ら。準備はいいか?』

 などと画面の向こうで合図をすると、そこに現れた一人の少女が指を擦り合わせ打ち鳴らした。

『盛り上がって、行くぞー!』

 熱狂を支配する。

 そこにいたのはただ一つの偶像アイドルだ。マイクを持って、汗を流しながら彼女は笑う。

『俺に着いてこい!』

 アルトボイスの声がその会場には響き渡ったことだろう。

 それを一人の少年はソファに座り眺めていた。動きやすいジャージに着替えアイスキャンディを口に咥えながらだ。

「またか」

 画面に映る彼女を少年は知っていた。

「ただいまー……」

 少し遠くの方で扉が開く音がしたが、顔をそちらに向ける程度で少年はそれ以上に気にしたそぶりを見せない。

「あれ、健吾けんご?」

「姉さん、おかえり〜」

「あー、また私が出てるの見てる! 一番、家族の目の前で見られるの恥ずかしいんだからね!」

「生き生きしてるくせに……」

 シャクリとアイスキャンディを噛んだ。

「実際さ、歌歌ったり、何か役を演じたりして楽しいの?」

「うーん」

 冷凍庫の中を漁りに行って、彼女はアイスキャンディを手に持って戻ってきた。

「楽しいよ。大変だけどね」

 そう言って疲労の色の見える顔で彼女は笑った。

 高校生アイドル、柏木かしわぎ未来みらい。今をときめくアイドルで、少年、健吾の実の姉である。

「そうなんだ……」

「興味あるの?」

「冗談。俺は興味ないよ」

 同じ黒髪、似たような顔立ち。双子でもないというのに、その見た目はよく似ていた。

「大体、姉さんは知ってんだろ」

 どうしようもない柏木健吾の内情を。

「歌も運動もできない。ノースキルの俺は誰からも認められないんだよ」

 そう呟いてテレビを消すと未来は若干残念そうな顔をした。

「え、消しちゃうの?」

「流石に毎日見てれば見飽きるし、テレビで見るほどの特別さもないから」

「さっきまで見てたじゃん」

「偶々だっての」

「寝るの?」

「明日も学校だし。姉さんは学校大丈夫なの?」

「うーん」

「全然、行けてないみたいだけど?」

「私も疲れたし寝る。学校も行かなきゃね」

「そっか、お疲れ。お休み」

 そう言って先に自分の部屋に入った健吾はパソコンを起動させる。

「始めるか」

 ヘッドフォンをつけ、マイクに向かい声を発する。ここからが彼の本番。

 年齢不詳の男性動画配信者。

 ギーコ。

「さあ、お待たせしました。ギーコです。深夜のゲーム実況、始めていきたいと思います」

 顔見えない誰かが柏木健吾を待っていた。

『待ってました!』

『ギーコさんんんんん!』

『愛してるぅうう♡』

 大量のコメントが流れていく。

 その全てを見ることは不可能ではある。それほどに彼の人気は高かった。

「時間は限られるんでサクサク行きましょう」

『未来ちゃん出てたけど、見た?』

『可愛かった』

「あれ、俺もしかして未来ちゃんのファンっていう設定になってます?」

『今日もすごかったよー(^^)』

 それに対して健吾は笑い声を上げた。しかし、それは出来る限り小さくだ。

「あー、今回は見逃しました。一応、録画はしてありまーす」

『リアタイでみた方が感動は大きかった』

『勿体ない』

『勿体ないなー』

「はいはい。えー、それより俺の実況始めますよっと。今回はですね、ホラーゲームの実況を……」

『寝るぴえん』

『お風呂入ってきます』

『だ、大丈夫だってみんなで見れば、、、:(;゙゚'ω゚'):』

「何で皆んなビビり散らかしてんですか」

『ビ、ビビってません』

『怖くないの?』

「まだ始まってないんで」

 そう言いながらもゲームを起動させる。

「PCゲーの『廃墟探索はいきょたんさく』です。ガッチガチのホラーらしいですね」

 健吾がゲームの紹介をした瞬間に、

『あっ……』

 という文字が大量に送られてくる。

「え? そんなヤバいの? どうしよう、止めよっかな?」

 周りの反応に臆して、そんなことを口走る。

『男に二言はない! 見守ってるから! 画面の向こうから! 足ガクガク』

「は、はい、じゃあ始めますよ」

 大量の絵文字が投下されていく中、健吾がスタートと表示された場所をクリックするとドォンという音が大きく響いた。

「ひぅっ!」

 しゃくり上げるような声が出てしまう。

 少しばかり高い声。

『え、何今の声』

『ギーコ?』

『ギーコ、きゃわわ。。。』

「……コホン。改めて始めていきます」

 少しばかり恥ずかしさもあってか、早口でそう言った。

「ホラーゲームならゾンビシューティングとかやった事ありますけど……」

『洋ゲーとかゾンビ物は敵を倒せるアクション要素あるけど……』

 残念なことに『廃墟探索』というゲームは所謂、逃げゲームという物だ。

 初めて五分ほど。

 未だにホラー要素のある展開はないが、電灯がバチバチと明滅をする度に健吾は「ひっ」と小さな悲鳴を上げている。

「く、来んなよ〜……」

 ゆっくりとプレイヤーキャラクターを進めていると、ガタンと突然何かが飛び出してきた。

「うひゃあっ!」

 心臓が跳ね上がるほどに驚き、瞬く間に追いつかれ、画面には『GAME OVER』の文字が表示された。

「ちょ、もう無理……」

『諦めないでギーコ!』

『ギーコ、頑張れ!』

「無理だって、もう寝れないって」

 あまりの怖さと部屋の暗さのせいで不安がより掻き立てられる。

「勘弁してくれよぉ」

 そう言いながらも視聴者の期待に応えるためにマウスカーソルはコンティニューに向かって進む。

 先ほどよりは小さくなった音が鳴り、再びセーブスロットを選びゲームが始まる。

「よし、やってやるぜ……」

 尻すぼみになり消えていく声に自信はないと言うことは分かる。

「ほら、ここで来るんだろ! 分かってますって!」

 そう言って部屋をでようとするが、キャラクターは扉の近くでもたつき、また、ゲームオーバーになってしまう。

「もう嫌だ。何これ、やりたくない。怖えよぉ」

『出来る出来る! ギーコなら乗り越えられる』

 多くのコメントが流れていく。

 もはや、恐怖でそれを見ることが救いになっているが、そのどれもが励ましばかりでまだ続けることを期待している物だ。

 そのために後、一時間と時間制限を設けて健吾は実況を続ける。

「お、お休みなさい……」

 深夜一時を少し回ったばかり。

 限界を迎えたギーコは配信を止めて、しっかりと確認しながらパソコンの電源を切った。

「ドMなのか、俺……」

 怖いものは苦手な筈なのに。




***



 動画配信者に関しては詳しく分からないので、適当です。あと、投稿しているサイト名なども考えていません。

 この出落ち感。姉がリスナーであることに気がつくのはもう少し先になるでしょう。

 具体的にはテレビで言う感じですかね。

 書きませんが。

 

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