前半戦、ミアがリード
今後の展開を僕は薄っすらと察している。そして、こういった流れの時は抗うだけ無駄、という諦めもある。
回避しようとしても、なぜかそれが裏目に出るか斜め上の展開の到来によって、男と女の関係になってしまうのだ。
ただ、どうしてもそうなってしまうからといって、『仕方ない』で片づけて良いわけがないのも確かである。
最近の僕は快楽に溺れている。
新入生対抗戦で優勝した事と、”使徒”となったベニスを救った事を除けば、僕が基本的にしているのはえっちだ。
僕自身が受け入れている赤ずきんちゃんとの関係以外にも、理由はあれどティティや王女殿下ともいわゆる睦事を致してしまった。
女の子とイチャつく為に魔専に来たのではないか? と問われれば否定のしようもない事実だけが積み重なっている。
ここで一旦僕のスタンスを明確にしておく必要がある。僕が魔専に通っているのは、決して肉欲を満たす為ではない、ということだ。
よい成績を残して将来の自分が生きやすくする為であり、ここまで育ててくれた父上の期待に応える為なのだ。
だからこそ、すけべな雰囲気や展開になっては結果的に行為に及んでいる今の自分を、僕はとても恥ずかしく感じている。
負の連鎖を止めなければ――そんな気持ちがあるのだ。
(僕は赤ずきんちゃん、ティティ、王女殿下と寝てしまった。残っているのはミアだけだ。せめてミアとだけは普通の学友という仲でいたい)
僕は頭の中をフル回転させ、牡と牝という関係にだけはならずに済むような方法を考える。
だがしかし、中々どうしてよい案は思い浮かばなかった。
方法が無いことも無いけど――ただ、それらの手段を取ることを躊躇わせるくらいにミアが繊細な性格をしているのがネックだった。十分に配慮した方法でないとすぐに傷つけてしまうのだ。
「あの……よくわからないんだけど、何かあったの?」
僕がミアを抱きしめながら悩まし気にしていると、ティティが会話に割って入ってきた。経緯を知らないから理解が追い付いていないようだ。
諸々の事情を教えた方がよいのか、それとも隠したままにしておくべきか? 恐らく後者がベターだ。
経緯を教える場合、先日の諸々のことも開示する必要が出てくる。王女殿下からの頼み事の説明から始まり、自ずと”神”のことや”使徒”という名の化け物の件にも触れる必要が出てくる。
それらを教えるということは、必然的にティティも巻き込むことに繋がる。それは避けたい結末だ。
というところで……僕は今回、会話でうまく適当な言い訳を言うよりも、秘匿したままの方がよいという現実的な選択を取ることにした。
「なにもないよ。ミアどうしちゃったんだろうね……」
「なにもないよって……絶対に何かあったでしょ⁉」
「大丈夫。気にしなくていいから」
僕が渇いた笑みを浮かべると、ティティは「ぷぅ」と音が鳴りそうなくらい思いきり頬を膨らませる。
「なによ。……ふんっ!」
ティティは機嫌を悪くして、そのまま校内へと入って行った。何かしらの事情を隠されたのが面白くない、というのがその後ろ姿から伝わってくる。
少しだけ心が痛んだけど、これが最善の方法なのだ。
一応後でティティには別途でフォローを入れた方がよい気がするので入れるけど、今はひとまずミアとの関係を”友達”のまま継続させることに集中だ。
「ミア、ほらもう離れて」
「ヤですぅ……」
ミアは甲高い声音で言うと、僕の胸にぐりぐりと顔を押し付けて来た。大人しい性格のミアが、好意をこうも前面に押し出してきている。
ここから、以前のような”友達”という感覚に引き戻すことが僕にできるだろうか?
難しい舵取りになるのは明らかであったけど、ここで諦めるわけにもいかないので、頑張ってどうにかする以外にはないのだ。
僕はなんとか『今のお互いの関係が友達であり、その状態をこれからも続けたい』ということを柔らかく遠回しに伝える。
「ミア……周りの人が変な勘違いをしてしまうから離れないと」
「……勘違いってなんですか?」
「その、こんな風に抱き合っていたら……」
「……恋人みたい?」
「そ、そうだよ。ここは学校だし、勉強をしに来るところでしょ? 男女がこうやって抱き合うような場所じゃないと思うんだ。僕とミアは魔術を学ぶ学校での良い友達で、それをこれからも続けたいと思っているから、周りから変な目で見られたりしたらさ……。ミアだって変な風に見られたら嫌じゃない?」
「変な目で見られるって、具体的にどーいう目ですか?」
「えっと……その……」
「別にいいじゃないですか。普通に付き合っている学生って結構見ますし、何も問題なんかないんですよ。……固く考えすぎですよ。学生だから友達のままでいようなんて、そんなことは考える必要ないと思います」
回避する所か、余計にミアの気持ちを頑なにさせる方向に進んでしまった。僕なりに色々と言葉を選んでいるのに、どうしてこうなるのだろうか?
いつもそうだ。
なぜか女の子の気持ちを余計に頑なにさせてしまって、そして気づいたらえっちをせざる得なくなる。
今回だけはそうならないようにしたいのに……僕になにかあるんじゃないだろうか? 実際問題、よくも悪くも”魔法”という概念に近づき続けた僕に、何かしらの補整力や強制力のようなものが働いている可能性は十二分にある。
いや、さすがにそれは考えすぎか。
「……きょう、私バイトが休みなんです。学校が終わったら、一緒に遊びたいなぁって」
ミアは嬉しそうに瞳を潤ませながら、上目遣いでそんなことを言ってくる。完全に”好き”が止まらない状態であるのが丸わかりであったので、これは長期戦になるだろうと僕は覚悟した。
遊びの提案には取りあえずは乗る。
一緒にいる時間を増やせば、少しずつ今の関係性を維持できるように持っていけるチャンスも増えるからだ。
「わかった」
僕はゆっくりと頷いた。すると、ミアは顔に帯びた赤みをさらに濃くしながら頬を緩ませた。
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