まだまだ終わらない女難
行為が終わったあと、僕は王女殿下は送ることにした。腹部に違和感が残っているのか、内股でひょこひょこと歩く王女殿下の後ろ姿が印象的であった。
あっという間に一番寮の前に辿り着くと、王女殿下は頬を赤く染めたまま、なぜか僕の服の裾を掴んだ。
「どうかされましたか?」
「その、また近いうちに私を抱い……いえ、なんでもありません」
王女殿下はきゅっと下唇を噛むと、くるりと回れ右をして、寮の中へと入って行った。
一体何を言おうとしていたのだろうか?
分からない。
ただまぁ、とりあえず、とにもかくにも諸々の事柄が全てが丸く収まったことだけは確かだ。
王女殿下は、行為が進むにつれ徐々に羞恥が薄れ始め、最後には両手両足を使って僕を逃がさないように捕まえては夢中で求めてくるようになった。そのまま快楽を貪るようになり、最終的に『心まで寄り添うのがどうこう』という言葉も出さなくなった。
王女殿下の姿が見えなくなったのを確認してから僕が弐番寮の自室へと戻ると、ニヤニヤと笑う赤ずきんちゃんが待ち構えていた。
「おかえり♡」
王女殿下に対して僕が心までは動かさなかったことに、赤ずきんちゃんは一種の優越感のようなものを感じており、それが余裕となって表情に現れている。赤ずきんちゃんの意識を探ってそれがすぐにわかった。
「それにしても、襲ったように見えても実際は随分と優しいえっちだったねぇ。もっと乱暴に扱ってもだいじょーぶだったと思うけど? 自分が気持ちよくなることだけ考えてもよかったと思うな」
透明な状態で僕と王女殿下の情事を眺めていたこともあってか、赤ずきんちゃんは、第三者としての意見や感想を出してくる。
なんとなく何かを言われる気はしていたので、僕は焦ることも戸惑うこともなく答える。
「王女殿下は初めてだったようだし……」
「本人が抱かれたいと思ってきていたんだから、口でなんと言おうと多少は乱暴にされるのも覚悟の上だったと思うけどね」
赤ずきんちゃんは「やれやれ」と肩を竦める。まぁ確かに……なんとなく王女殿下がそういう心情であった可能性はある。
話がまとまる前に、半ば強引に僕から行為に及んだと言うのに、王女殿下は最初に少し困惑したくらいで強い抵抗は一切見せなかったのだ。
心も寄り添ってくれないと嫌だ、と言っていたことを考えると、それはおかしな態度と言える。
暴れても不思議は無いのに、すぐに僕の行為を受け入れた。その理由として考えられるのは何だろうか?
それこそがまさに、赤ずきんちゃんの言っているような感情ゆえになのだとすると、腑に落ちるのだ。
もっとも、そうした行動原理には合点を得る一方で、そういった感情に至るまでの思考回路の方はやはりどうにも分からないものである。
――女の子という生き物はやはり謎だ。
僕はそう思いながらも、いくら考えても答えが出なさそうな気がしたので、無理に結論を出さずに瞼を伏せて眠ることにしたのだった。
※※※※
翌日――僕は以前と同じ日常生活への復帰の為に魔専へと向かいつつ、最初の講義を受ける前にミアを探し始めることにした。王女殿下との諸々が終わった次は、ミアへのフォローが必要だ。
少し時間に余裕があったので、のんびりしながら校内を探し歩いていると、ティティと一緒にいるミアを見つけた。
僕は早速声を掛けようとした。
しかし、それよりも先に、僕に気づいたミアが涙を浮かべながら駆け寄って抱き着いて来た。
「ぶ、無事だったんですね⁉ ちゃんとお医者さんも呼んだんですけど、いなくて、どこに行っちゃったのかなって心配で心配で……誰にも相談も出来なくて……」
「余計な心配を掛けさせちゃったかな。見ての通りで、僕は全然大丈夫だよ」
僕が微笑むと、ミアは堰を切ったように声をあげて泣き出し、それを見たティティや周囲の人が驚いてこちらを見た。
あまり注目を集めるのは個人的に好きではないので、どうにか泣き止んで欲しいと思い、ひとまずミアが落ち着くまで背中をさすってあげることにした。
すると、講義が始まる前に、どうにか泣き止むところまで持って行くことができた。
「……私のせいであんな怪我をさせたんだって思ったら……涙が止まらなくて。……ごめんなさい」
「謝る必要は無いよ。守らない助けないという選択肢もあったのに、僕はそうはしなかった。僕自身がミアを守ってあげたいと思って、だから動いたんだ。謝って欲しいから守ったわけじゃない」
「……」
「僕はミアに笑顔でいて欲しいから、そんな顔をされたら、どうしたらいいか分からなくなるよ」
「……わ、私に笑顔でいて欲しいんですか? つまり……その……もしかして、守ってくれたのも笑顔が見たいから?」
「そうだよ」
誰だって、泣いている顔なんかよりも、笑った顔の方が好きなハズだ。
僕は人として当たり前のことを言っている。
しかし、そんな道徳的に当然の僕の発言を聞いたミアの反応は、少々変わったものであった。
「そっか……そうなんだ……」
顔を真っ赤に染め上げて俯くと、ミアはちらちらと上目遣いで僕を見る。場の空気が妙に甘ったるくなる。
僕は何だか嫌な予感がしてたまらなくなり、それは見事に的中することになった。
今までの経験上、こういった予感は大体がえっちな展開であり、今回もそれは例外では無かった。
結果的に、そういう方向へと話が転がることになる。
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