王女殿下を抱く以外の選択肢が僕には無かった……
『前にも言ったと思うけど、体の浮気は許すけど心の浮気は絶許だからね……?』
滲み出る赤ずきんちゃんの怨念のような殺気が、僕の背後で徐々に勢いを増して立ち上っている。
変に勘違いされる言動を取れば、後で何をされるのかわからない。僕の額に冷や汗に混じって油汗も浮かんでくる。
一挙手一投足に注意を払わなければいけない、綱渡りのような状況に陥っているのだ。
「お、王女殿下、ご自分を大切になさって下さい」
僕は慌てふためきながら、王女殿下に引き下がって貰えるように誘導を試みるものの、王女殿下の決意は固かった。
決して首を縦には振ろうとはしなかった。
「そのような言い訳は聞きたくありません。報酬を受け取ると言ったではありませんか」
「こんな報酬だとは知らなかったからですよ」
「もう一度言いますが、私のことを、お願いを聞いてくださった方に褒美の一つも取らせない悪辣な王女にさせないでくれませんか?」
お互いに一歩も引かない状態のまま時間が過ぎる。すると、話が平行線のままであることに業を煮やしたのか王女殿下が涙ぐみ始めた。
「ひっく……」
「ど、どうして泣くんですかっ?」
「私に女としての価値が無いと……ひっく……そ、そう言われているような気分で」
「そんなことはないです。王女殿下は、まれに見るほどの美しさをお持ちです」
「そう仰るのであれば、なぜ抱かないのですか?」
「あの、それは、ですからご自身の体を大切にと伝えたいわけでして……」
「そうやってまた煙に巻こうとしますのね。美しいなんて口先だけ。だって本当にそう思っているのならば、もう理性が飛んでいるハズですもの……ぅぅ……折角勇気を出したのに……」
王女殿下はそう言うと床にぺたんと座り込み、小さな子供のように「うぇぇぇん」と声を上げた。
これは、非常にまずい状況だった。
扉を開けた状態の玄関先は声がよく通り、廊下にも一斉に響いてしまうので、早くなんとかしないと誰かが来てしまうかも知れない。
(赤ずきんちゃんの殺気はまだ消えていないけど、このままだと別の意味でもピンチになる。王女殿下が泣いている場面を見られたら、どんな噂を立てられるか分からない。対抗戦でも変態という噂を立てられたし、今回もまた絶対におかしな噂が立ってしまう……)
混乱気味の頭で、僕は最悪の事態を回避する方法を考える。
そした、どうにか辿り着いた答えは――肉欲を満たすだけのえっちを目的として王女殿下を抱く――であった。
今すぐに取れる最善の方法がそれしかなかった。
肉体関係のみに留まり、心まで動かないのであれば、まず赤ずきんちゃんが納得してくれる。えっちを楽しむだけなら他の女とシテもよい、というスタンスだからだ。
ただ、”心まで寄り添って欲しい”、という王女殿下の要望は叶えられないことになるけど……でも、当人が危惧していた、酷い王女という話に繋がる原因はそれでも取り除くことはできる。
これ以上の解決方法は恐らく存在しないし、悩めば悩むだけ過ぎた時間によって他の寮生に見つかる危険が高まるだけだ。
僕は不本意ながらに王女殿下の手を掴むと、強引に部屋の中に連れ込みベッドの上に押し倒した。
「えっ……あ、あの……」
「分かりました。王女殿下を抱きましょう」
「……ほ、本当……ですか?」
「はい。ですが、僕にとってはあまりにいきなり過ぎることなので、心まで寄り添うことはできません。なので、今回はお互いに一匹の牡と牝として楽しむ形になります」
言葉だけを切り取れば、”えっちだけしよう”と言っているのだから、僕はとんでもない男だ。
でも、どうしようもなかった。重ねて言うがこれ以上の最善手がないからだ。
『体だけの関係、ね。……それならまぁ』
どうやら、僕の予想通りにまずは赤ずきんちゃんがなんとか怒りを収めてくれたようで、殺気が薄まるのを感じた。
ひとまず第一段階がクリアできたので、次は王女殿下に体だけのカンケイであることを納得して貰うように動いていく。
「……か、体のみの関係は私としては嫌です。気持ちも一緒でないと」
王女殿下は、不安混じりな表情で、震えた声でそう言った。お互いに気持ちを通じあわせていくような、例えるなら恋愛小説のような雰囲気で肌を重ねたがっているのが見て取れる。
色々と積極的な行動や姿勢が目立つ王女殿下であった。
しかし、それは単に性格の問題というだけであり、中身はと言うとただの純情な女の子であるようだ。
僕は決して鬼畜ではないので、下手に怖がらせないようにしたいと思っている。
具体的にどうするかというと、他のことは何も考えられなくなるくらいに、ただただ快楽に溺れさせていく方法を取る。
そうすれば、怖いとか理想とかそういった感情が吹き飛ぶからであり、僕は手始めに勢いに任せて王女殿下の唇を奪った。
「――っ⁉ い、いきなり口吸いだなんて、びっくりしました。私、ふぁーすときすなのですよ……?」
「安心して下さい。そういった余計なことを考える余裕が無くなるくらいに、しっかり気持ち良くなって貰いますから」
「そんな急に――」
「お喋りはもう必要ありません。その唇から出して良いのは、喘ぎ声だけですよ」
僕は王女殿下にこれ以上喋らせないために、今一度にキスをすると、ネグリジェの隙間に手を入れてその肢体に指を這わせた。
びくり、と王女殿下の体が驚いた。
唇を塞いだまま、何度も何度も優しく触れると、次第に慣れてくれたようで王女殿下は脱力していく。
(そろそろ大丈夫……かな)
一旦キスを止めて更に一歩踏み込み、首筋やお腹、太もも等を舐めてあげると、卑猥な声が止め処なく漏れて来た。
「……ぃゃ……んっ……」
快楽に抗うことは難しいものであって、だから徐々に、徐々に王女殿下は一匹の牝へと変貌していった。
僕は流れるように本番に移行した。
すると、王女殿下は茹蛸のように顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。こうした行為が始めてというのが本当のようで、最後の一線を超えることに羞恥を抱きはじめたようだ。
赤ずきんちゃんやティティと違って、僕の成すがままに、徐々に快楽に溺れ行く女になっていくその姿は少しだけ新鮮であった。
可愛らしい反応……ではある。
「ぁ……ぁぁ……私、私ついにお花を散らすのですね……」
もう後戻りはできない。僕は王女殿下の処女を奪い初めての男となったのであった。
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