お友達になってください!
対抗戦の日が着々と近づきながらも、魔専では講義も本格的に始まり出していた。
魔専の学びシステムはシンプルで、2学年までは教養課程として全員が同じ講義を受け単位を一定数取り、3学年に上がる時に専攻を選ぶというものだ。
2学年までの教養課程で取る単位は、魔術式学、魔術史学、魔術力学等々の基礎的分野の理解が主軸のものである。
どのようなペースで単位を取るかについては、色々と自由なところもあり、個々人のやり方次第。
講義は一定サイクルで複数回行われ、どの日のどの時間に取るかは生徒の意思が尊重されるので、早めに全て取り終える人もいれば、のんびりやるような人もいる……という話だった。
ただ、2学年までの成績や適性によって選べる専攻が変わることもあって、希望通りの専攻を選択した場合には、それに沿った成績や適性を目指す必要もある感じだ。
「で、あるからして……」
入学して一週間が経っており、少しずつ、僕も今の生活にも慣れ始めてきている。
毎日は何事もなく基本的には順調満帆。
まぁその、同じ新入生の友達が中々に出来ない、という悩みもあったりはするけれども。
今のところ、友達と呼べる存在がティティしかいない。
「――今回の講義はここまで」
魔術史学の講義が終わり、僕はごそごと勉強道具を仕舞い始める。
いつもティティも一緒に講義を受けているけど、今日は用事があるとかで講義には出ない、と言っていたので僕一人である。
ちなみに、赤ずきんちゃんもいない。
人混みにまだ慣れていないこともあってか、人が集まる講義にはついて来ないのだ。
「今日は魔術式学も取る気をしていたから、次はそっち行かないと……」
もぞもぞと別の講義室へと向かう。
と、その時だった。
僕が廊下に出ると、一人の女の子が急に目の前に現れた。唐突過ぎて思わず僕はのけぞる。
「――あ、あの時はありがとうございました! ずっと探してたんです!」
あの時……?
「えっと……」
「列車の中では助けて頂いて……」
列車の中で助けて頂いて――そう言われ、僕は思い出した。確かこの子はベニスに絡まれていた子だ。
「本当に本当に嬉しかったです。それで、お礼を改めて言おうと思って、制服着ていたのを覚えていまして、それで一般寮全部の男子棟に行って話を聞いて回ったりして探してたんですけど、いなくて……」
「一般寮を探してもいないと思うよ。一応僕は弐番寮だから」
「弐番寮⁉ き、貴族だったんですか?」
あの時のベニスと僕の会話で、その事は分かりそうなものではあるが……まぁあんな絡まれ方をしていたのだから、そこまで考える余裕が無かった、というところだろうか。
「まぁ、貴族といっても男爵家だけどね。一番下だよ」
「そんなことは……」
「あとお礼も別に要らないよ」
「い、いえ、ちゃんと言わないとと思って……」
女の子は、しゅん、とすぐに縮まった。
「あの、私、地元にいた時から、こういうオドオドしちゃう癖があって……。魔専学校に来たら心機一転って思ってたんですけど、それも上手く行かなくて……」
ベニスに絡まれた理由が、なんとなく分かった気がした。気弱な雰囲気で、よく見なくても小柄で顔も幼さがあって、いかにも『絡んでください』という感じなのだ。
ちょっかいをかけてやろう、と思う気持ちにさせられるというか。
「それで、友だちも出来なくて……」
ところで、お礼を言いたいとかっていう話で、それを僕は拒否したのだからもう話は終わりな気がするんだけども……なぜか、徐々にこの子自身の境遇とかそういう変わってきている。
よく分からない違和を僕が感じていると、女の子が目を瞑ってがばっと手を差し出してきた。
「お、お友達になってください!」
……。
…………えっ⁉
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