練習と本番

 もともと、小太陽は僕自身が創った術式による魔術ということもあり、制御についてはほぼ完璧に扱える。なので、もとから高い精度をさらに高くしていく、という方向で練習を行った。

 成果はすぐに出た。

 微妙な感覚の祖語を微調整し続けた結果、小太陽を手足のように扱えるまでに至ったのだ。

 ただ、何事にも限界はある。僕が扱う小太陽も、特殊ではあっても式で動く以上は魔術という枠から逸脱は出来ず、無制限に使えるというわけでは無いというのが分かった。

 魔術を使うには魔力がいる、というのが魔術の基本的な構造と言われている。つまり、僕の小太陽もしっかり魔力を消費している。

 どのくらい小太陽を出せるのか試したところ、千発目くらいから、異様な疲労感が出始めていた。

 かなり疲れたので、僕は肩で息をしながら、練習を切り上げて部屋へと戻った。すると、部屋の中で、赤ずきんちゃんが待ち構えていた。

『ダーリンのお帰りー』

 いつのまにか、僕の呼び方がダーリンになっている。まぁでも……別にそういう言われ方をしても、嫌な気分にはならなかった。

 だいぶ赤ずきんちゃんに手懐けられてしまっている自覚はある。

「ただいま」

『うんうん。……ところで、今更なんだけど、ジャンバが創った小太陽について一つ忠告』

「……忠告?」

『そう。あの小太陽だけど、厳密には魔術じゃない、というのを教えておこうかなと。術式で成り立たせている以上は、区分上は確かに人間が言うところの魔術。でも、組む段階で自分で干渉して曲げた法則とかもあるから、そういう意味では魔法側の要素もあって凄く曖昧な感じなの。……普通の人間が使ったらその瞬間に間違いなく死ぬ代物だしね』

 僕以外が使うと脳みそが焼き切れる、と少し前に話して貰ったのは覚えている。でも、僕は大丈夫という話であったハズだ。

『……あの小太陽が”魔法”に片足突っ込んでいるってことを、ジャンバはあんまり気にしていないでしょう?』

 気にしていないというのは、その通りだ。恐らくは魔法に近い代物だというのは、感覚的に理解はしていた。

 でも、実感がないのだ。

 当たり前のように創り上げてしまった術式だからこそ、おかしい点がわからないというか。

『……気をつけないと、人間辞めることになるからね? 小太陽みたいな術式の改変くらいならまだ大丈夫だけど、例えば完全に一からの創造構築する場合とかには気をつけないと……自分自身の存在がわたしと同じ”魔法”になっちゃうかもよ?』

 赤ずきんちゃんが妖しげに笑い、僕は少し怖くなって思わずびくりと震えた。その結末は考えたことがなかった。

 さじ加減一つで、自らが人間ではなくなってしまうかも知れないことをやっている――そう捉えてはいなかった。

 しかし、それはよくよく考えれば、当たり前のことだ。法則に干渉しているのだから、僕はいわば事象そのものを支配下に置いている存在に成り得る、といっても過言ではないのである。

 仮にそこまで至ってしまえば、もはや僕という存在は人間とは呼べなくなる。人の身の限界を超えてしまえば、それは概念から違う存在になったということであり、まさに赤ずきんちゃんが言う通りに”魔法になる”ということである。

 人間であり続けたいのならば、そういった点にも気をつけていく必要があるんだよ、と赤ずきんちゃんは言っている。

 そういう忠告なのだ。

(……さすがに、今の僕に人間を辞める覚悟は無い)

 生前からの僕の望みはあくまで”人生をやり直したい”である。”魔法になりたい”あるいは”人外になりたい”ではないのだ。

 人間を辞める気は最初から無い。

『まぁ、今のところは大丈夫だけどね。自分自身が魔法になっちゃうくらいって、それかなり踏み込んだ状態だから、普通にしている分にはそうならないわ。ただ、知っておいた方が良いかなって思ったから、今回教えたの。それよりも……戻ってきたんだし、本番、ね?』

 極端に逸脱するようなことをしなければ大丈夫、と赤ずきんちゃんに言われ、僕はホッと一安心する。そして、誘われるがままに、赤ずきんちゃんとのえっちを楽しむことにした。

 まず最初に、一緒に浴室に入って体の洗いっこをしながら、そのまま一回戦に突入だ。

「やだぁ、すけべさんなんだからぁ」

「だって……」

「しょーがないなぁ」

 それから、お風呂から上がってからは、ベッドの上でもう一回戦である。今回は僕なりに、お猿にならないようになるべく欲望を抑えた。

 ただ、その結果、時間をかけて絡みつくような行為になってしまい、逆にもっとえっちになってしまった。

『そんなに一生懸命我慢して……。もう、ジャンバはかぁいいんだから。これからも気持ちいい事いっぱいしようね? わたしから心を離しちゃ嫌よ?』

 こんなに気持ちいい事がずっと出来るなら、赤ずきんちゃんから心を離すわけがない。

 僕は息を荒げながら、腰を何度も何度も振りながら、「うん」と頷いた。

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