応援団
僕の応援をする、と言って憚らないティティとの会話は、夕暮れ時に差し掛かった頃にお開きとなった。
「じゃあね!」
「うん」
お別れの言葉を交わして、僕は帰路についた。そして、僕は道中で、ティティが本当の本気なのかについて悩んだ。
応援を実際に行動に移されるとなると、かなり目立つのは間違い無いので、ティティが自分の寮の他の生徒から白い目で見られるのでは無いだろうか?
対抗戦は、寮の代表が競い合う魔専の最初の大きなイベントだ、というのは既に聞いている。
そう――”寮”の対抗戦なのである。
であればこそ、どこの寮もまずは自分の寮を応援するべき、という雰囲気であるのが普通ではないだろうか?
他の寮の代表を応援と言うのは、あまり良くは思われない気もする。
応援してくれる気持ちは確かに嬉しいものの、それが原因となってティティが大変な目に遭うようであれば、僕としては看過は出来なかった。
ティティは僕の友達になってくれそうな子だ。そんな子が酷い目に遭うところを、僕は見たく無いのである。
※※※※
僕が東館へと戻ると、入り口のところに沢山人が集まっているのが見えた。何事だろうかと近づくと、中心部から、”ドン”と太鼓を鳴らす音が聞こえて来た。
「――死ぬ気で応援しろ!」
何かの応援団のようだ。
とても人数が多いけれど、一体何の応援団だろうか?
「――新入生対抗戦は我が弐番寮東館の勝利ィイイイイイ!」
あっ、これ僕の……。
「――新入生諸君も気張って応援しろ! それと、壱番寮西館の代表が出てきたら盛大にヤジ飛ばせよ! 連中は金と権力をあぐらに我々のような下級貴族を舐め腐ってやがる! 殺せ! 殺せ! 卒業した後にヤジを飛ばせば社会的に抹殺されるが、今なら、学生時代なら許される! 存分にこき下ろしてやれ!」
「よっしゃあああ! 殺せ! 殺せ!」
「跪かせるぞ!」
お、恐ろしい言葉が飛び交っている。
西館に対する負の感情が爆発しているような、そんな感じだ。
寮の格差が外観からも分かる通りに酷いので、そういった面で気に食わないと思っている人も多いのかも知れない。
そういえば、ゴルドゴも「鼻もちならない連中」と言って、西館を激しく嫌っていた。
ちょくちょく応援団をスルーする人も見えるので、気にしていない人もいるにはいるようだけれども、そういった人は少数だ。
多くは血走った目をしている。
なんだか怖かったので、僕は思わず後ずさった。
すると、『ジャンバ』と書かれた小さな旗を、どこからともなく赤ずきんちゃんは取り出し、『ふれっ! ふれっ!』と振り始めた。
『なんか盛り上がってるから、わたしも応援するよー!』
「あ、ありがとう」
『ふれっ! ふれっ! ジャ・ン・バ! いえーい!』
赤ずきんちゃんは楽しそうだった。人混みは苦手でも、お祭りは好きなのかも知れない。
しかし、それにしても応援団のあの雰囲気……もしも負けたら、僕は何をされるか分かったものでは無い。
万が一にも足元を掬われないように、慢心しないで挑もうと僕は心に誓った。
※※※※
慢心せず、という心構えをより強固にする為にも、僕は念には念を入れて魔術の練習をしようと思い、夜更けになってからこっそり外へと出た。
寮生なら演習場を24時間いつでも自由に使えるけれど、今回は使わない。
現時点で僕が扱える魔術の小太陽は、長時間使用すると演習場の壁を溶かしてしまうし、熱気も溜まる。
魔術を見せるだけ、といったような短時間なら構わないけれど、修練のような長時間の使用は他の寮生にとってはただの迷惑だ。
『あれ? ジャンバ、こんな夜遅くにどこ行くの?』
「ちょっと魔術の練習をしようと思って」
『練習……?』
「対抗戦に備えて、少しね」
『なるほどね。……ジャンバなら、別に練習なんかなくても大丈夫だとは思うけど、まぁそれで納得するならやった方がいいかもね』
なんだか、赤ずきんちゃんが急に優しいお姉さんみたいな感じになった。
まぁその、存在が魔法だから、生きている人間は大体が赤ん坊も同然に見えているのだろうと思うと、反発心の類も出ては来ないけど――って、そういえば、赤ずきんちゃんって何歳なんだろうか?
見た目は僕と同じくらいの歳に見えるけれど……。
『うん? わたしのことじっと見つめて、どうしたの? もしかして今日えっちしたいの? じゃあ、今日魔術の練習をいっぱい頑張って、その後わたしとベッドの上でえっちの本番しよっか?』
……いや、歳なんて考えても意味が無いことである。
見た目が美少女なのだから、それで十分だ。そんなことよりも、赤ずきんちゃんの提案がどうにも僕の心をくすぐる。
(ベッドで本番だなんて、そんなことを言われたら……)
反応してしまう自分が少しだけ情けなく思えた。
しかし、そうは思っても、快楽を貪って良いと言われれば逆らえるわけもなく、気づいたら僕は頷いた。
頭を冷やしても、効果があるのは一瞬だけだ。
赤ずきんちゃんのすべすべな肌はまた触りたくなるし、えっちの気持ち良さは病みつきだし、もう僕は完全に溺れているのだった。
諦めて認めるしかない。
僕はえっちが大好きなのだ、と。
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