解ける糸と絡まる心

よく考えればそうなのかもしれない。私は昔から、自分を責めていた。何度も死のうとした。


一番恨んでいたのは自分自身だったのかもしれない。

「お前はいつも邪魔ばかり。今回のアリスも失敗だったからいいけどね。噛車の洗脳にも失敗した、というか洗脳を解かれたんだがね。君に。」

「そのやり方を、赤の女王は望まないと何度も言ったじゃぁないか。それなら僕は、邪魔するさ。笑猫もいい仕事をしてくれた。噛車とアリスをオチャカイに連れてきてくれた。君のところではなく、ね。」

話を聞く限りだと、噛車さん、識さんは白の女王側。道化さんと、笑猫さんは赤の女王側といった感じだろう。全然中立じゃないじゃないか。

「さあアリス、君は赤の女王を殺した。いま、海の国では、発狂しながら海の中にとびこんで自殺する人で溢れている。自分達の指導者を失って希望も失ったのだろう。崩壊さ。君のせいだよ、どうする?」

近づいてきた識さんは一段と甘いにおいが強い。

「君はまだあんな合成麻薬に頼っているのか。臭い臭い。」

「失礼ね。私が作った、幸せのお薬よ。もちろん、私が作っているのだから合法だしね。」

白の女王が割って入る。合成、麻薬?白の女王が作った…?

「君は吸ったことがないからわからないんだよ。こんな幸せなもの他はない。吸うだけで嫌なことなんて考えなくてよくなる。まさに女王様の与えてくれた幸福だ!」

あれほどまともだと思っていた識さんが、イカレていく。白装束の奴らと同じように。


あまりに強くなったニオイにくらくらしてきた。

「あまり吸ってはいけないよ。これを。」

渡されたのはあの紅茶のにおいのする小包。そのにおいをかぐと少しめまいが収まってきた。しかし喋れるほど、思考ははっきりしない。

「失敗作のアリスをどうする気だい?白の女王は空の国に受け入れてあげるとおっしゃっているよ。」

「彼女はすごく頭がいい。私は今までのどのアリスより好きよ。まあすべて彼女なのですけれど。」

「当然、元居たところに返す。そしてもうここには来させない。もう彼女はもたない。だからこそ返さなきゃいけないんだ。」

不思議な会話が進んでいく。


私は何度もここに来ていた。心がおかしくなってから、何度も。

そのたび何かをしようとしてここで生きたいと思っていた。だから現実も乗り越えてきた。

「思い出したらいけない!」

道化さんの大きな声が聞こえる。

「あら。うまくいったようね。」

「そりゃああれだけ濃いものを吸ったからね。」


ふわふわと視界が霞んでいく。

「またおいで」

そう言われて、識さんのにおいが強くなる。何かを手渡される。


それは小さな、ラムネの瓶だった。


だんだんと混濁していく思考の中で自分が何者だったかを考える。


彼らが何者だったかを考える。


赤の女王が私、道化さんは理性、笑猫さんは自分の憧れ


白の女王は嫌いな人、識さんは心の闇、噛車さんは自分の悲劇性


そして私は、識さんに飲まれてしまった。ここは本当に夢だったんだろうか。


考えることさえ億劫なほど、体が気持ちいい。



ソウ、私は アリス。


そこには、うつろな目で何かをつぶやく、抜け殻がいた。

暴れまわったのか部屋の中には物が落ち、けがをして流血もしている。その痛みすら感じていない。


手には空になった複数の市販薬の空瓶。


その空間には法で禁じられていたはずの、甘い香りのハーブが充満している。


うつろな目をした抜け殻はパソコンを開く。

[このセカイでアリスはホンをカいて、ミんなに、アイサレました]


彼女はそういいながら、「少女水色世界」という物語を書き始めた。

もっとも、彼女にとってその世界は物語でも何でもない。ただの幻覚で、現実の夢だった。

今そこにいるのは、アリスでも水色でもない。ただの、自我のない抜け殻、薬物中毒者だった。



[オチャカイを、シマショウ?]




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少女水色世界~Alice addiction~ 幽山あき @akiyuyama

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