少女と私とこの世界
謎の少女について識さんに聞きに行くと
「アカの女王だね。その人は。少女といっていたがもう20歳は超えていたはずだよ。」
驚愕の事実。少女じゃなかった。いやそっちではない。あれが、女王?識字能力がない、少女のような彼女が?独裁者?
「驚くのも仕方がない、かな。海の国では識字能力のない人なんてたくさんいるよ。ここに人が少ない理由の一つだね。国の方針で、身分に必要な学習しか受けない。女王は政治について、国については学んでいたようだが、それ以外はまったくだ。一生懸命学ぼうとしていても、あの国じゃ、ね。」
環境のせいで、真面目なものが損をする、そういう環境は大嫌いだ。
…過去の自分と、赤の女王をどこか重ねてしまった。
「そんなに興味があるなら」
識さんがそういって案内してくれたのは、空の国についての文献のある所だった。
白の女王は、どの本においても“美人、博識、愛国心に溢れている”そんな反吐が出るようなことしか書いていなかった。
そしてたいていその本では赤の女王は、“怠惰、傲慢、独裁者”そんなようなことしか書いてない。
「少し席を外すよ。好きに読んでいてくれ」
識さんはそういってどこかへ行ってしまった。はてさて、ここには本はあるが本しかない。空腹や暑い寒いは夢の中だからないものの、時間感覚と、覚めない不安で落ち着かなくなってきた。
「あら、新顔さん?」
声を聞いて振り返ると、途轍もなく顔の整った女性が立っていた。
その人は、先程まで本で見ていた女性だった。
「うふふ。そんな嫌そうなお顔をしないでください。本を借りに来ただけよ。わたしの事を殺そうとする姉に、悪知恵をつけさせないために、ね。」
そんなことをいいながらふらりと、先程まで赤の女王と私が読んでいた本を取りに行く。まるですべて見透かしたような動きをする彼女。
彼女から、最初に識さんから感じた甘いにおいを感じた気がした。
そのまま特になにも言わず、図書館のレンタルサービスを使いこなして彼女は帰っていった。
それと入れ違うように識さんが帰ってくる。
一段と甘いにおいが強い。
「その顔は…そうかい。シロの女王が来たんだね。」
彼女もまた見透かしたようなことを言う。
この世界は、私の意識の場所。それなのに嫌いなタイプばかり。見透かしたようにいう、見下したように言う、顔がすべての女、後先考えないやつら。
私の人生と同じじゃないか。
覚めても覚めなくても、どうせ同じなのか。
それなら私は、私に似ているあの子を応援したい。赤の女王。
顔だけの白の女王に潰されてほしくない。
識さんの甘い匂いにくらりとして、思考があまり正常にまわらない。
しかし何かしたいと考えたとして、来たばかりの私になにかできるはずもない。しかしなにかを遂げなければ覚めることすらないのだろう。
うんうんと唸る私に
「疲れているのかな。それとも、私のにおいが影響しているのか…」
[その甘いにおいは…?]
「シーシャ、水たばこだね。少し特殊なフレーバーだから慣れていないと少しきついかも」
シーシャ…。紙たばこの私からしたらそこそこな贅沢品である。ここの世界は物価と給料どうなっているんだ。そういえば、クルイモノの皆さんは働いているのだろうか。
そんなことより、この夢から覚める方法。私が助けたかった自分自身。ここでは赤の女王。助けるため、ここでの解決策を考えなければいけない。どうなることが彼女の望みか私の、望みかを考える。
殺したかった。つまり、それほど白の女王を恨んでいた。自分が1番になりたかった。それなら、殺さずとも白の女王を引きずりおろせないものか。
「お前はいっつも難しそうな顔をしてるにゃあ。なぁにをそんな真剣に考えてるにゃ。」
またもいきなり現れた猫ちゃんに驚かされる。
クルイモノの中でも一番中立であるだろう彼女になら話してもいいのだろうか。しかしどこかこの夢の人物たちは信用しがたい。きっとやるなら一人でやるしかないのだろう。
「なんかやるつもりなのかにゃ。」
彼女から出たのは、意外にも本気で心配そうな声だった。私が驚いていると
「ま、関係にゃいんだけどにゃ。」
いつもの調子に戻った彼女はふらりと消えてしまった。ほんとうによくわからない。
数時間たっているのか、はたまた数日たったのか。だんだんと時計が読めなくなったような、読めるのに時間という概念が消えたかのような感覚になる。しかし彼女が戻ってきたということは、かなり時間がたったということなのだろう。そう、赤の女王がまた来たのである。
キョロキョロと本を探すが、白の女王が借りて行ってしまったことでお目当ての本はここにはない。困ったようにほかの本を探すが、彼女には自分が探している本すら見つけることができないようだった。
[また、花の本をお探しになっているんですか?]
「…うん、でも…」
きっとほかの本にも載ってますよ、そういいながら、ほかの本を手に取って教える。
そこに載っていることを一つ一つ教える。
数時間たって複数の本を読み終わった。
「帰ります。…ありがとう」
私はとっさに
[人を殺しても、何にもならないんですよ!]
大声で叫んでしまった。驚いて固まる彼女。
「殺したりなんて、しない。」
小さな声でつぶやいてそのまま彼女は去っていった。私は予想外の答えにその背中を見ているしかなかった。
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