クルイモノ
木から降りてきた猫ちゃんはいかれてしまったウサギちゃんをひょいっと持ち、ふわりふわりと軽い足取りで森の中を進む。その間も、アリス、オチャカイとうわごとのようにつぶやくウサギちゃん。ついて行っていいのかも考える隙もなく、猫ちゃんは進んでいってしまう。
奥に行くにつれ獣道のようになっていく森の中を軽々歩く猫ちゃん。
私はついていくことでいっぱいいっぱいだった。妙にリアルな疲労感と森の中の湿気た空気に、これが夢であることを疑うほどだ。そういえばさっき足をかすめた木の枝もやけにリアルな痛みだった。
獣道を進むと、一気に開けた場所に出た。さっきまでのごちゃごちゃした風景とはかけ離れた、じめじめして薄暗く、肌寒いところ。
でもなぜか、ここは落ち着く、ような気がしたのだ。
「遅かったね。」
薄暗い中から唐突に現れた少年のような人物。ニッコリ笑顔を浮かべながら、その目はしっかりと私に向けられ、刺さるようだった。
「笑猫、この方は?」
「アリス、だにゃ。たまたま噛車で遊んでいたら見つけたんだにゃぁ~」
「アリス、オチャカイ。トケイ、オカシ!!!」
混沌とした会話の中で、唯一まともそうな少年が私の前まで歩いてきた。
ぐるりと私の周りを一周みたあと、ふふっと笑い始めた。
ここにはまともな人間はいないようだ。
「君がアリスかぁ。ふぅん。なんとも独創的なファッション。」
イヤミを言われた。
[わたしはアリスではなくアリスガワ、有栖川水色です。]
「ほう。僕は冠 道化(クワン ミチカ)。きっとこの二人のことだ、何も話してはいないんだろう。立ち話もなんだ。僕らのオチャカイでゆっくり話そうじゃぁないか。…時間はたぁっぷりあるのだから。」
薄暗い中を進むと、その先には、お洒落テーブルと、椅子。しかしあまりにも席が多い。ここが森の中であることが信じられなくなる。
まるで用意していたかのような、人数分のお菓子。まるで出来立てのようなにおいのするそれらは、しばらく困窮していた私からすると、あまりに豪華だった。
ちゃっかり席についている猫ちゃんと少年、私の周りをうろうろするウサギちゃん。
「噛車。アリスから離れて。オチャカイを始めるよ。」
その声で、はっとしたように我に返るウサギちゃん。
「あれぇ…私は…何でここに?今日はオチャカイでしたっけ…」
またマイペースな感じに戻った彼女を少年は席に座らせる。
「さぁて。今日はスペシャルな、【何もなかった日】になりそうだ!だがしかし…僕の旧友は今日もいらっしゃっていないようだな。実に残念!!!」
【何もなかった日】?確か、アリスの中では【なんでもない日】じゃなかっただろうか。スペシャルな何もなかった日とはまたなんとも矛盾している気もする。
なんだか、甘いにおいがする。お菓子ではない、もっとすっきりしたいい匂い。
「私の勘は実に優れているな。道化、君の誘いに乗ったんじゃない。今日は何かいいことがありそうだと思って、きてやったんだ。やはり、来てよかった。この席に座っているということは、彼女は アリス、だね」
「おぉ!!我が愛しき旧友ではないか!!そうなんだよ、アリスが来たんだ!識もきてくれるなんて、今日は本当にスペシャルな日だ!!」
状況が読めずポカンとする私に、甘いにおいのするきれいな女性は微笑んだ。
「歓迎するよ。アリス。来てくれてありがとう。こいつらに失礼なことはされていないかい?」
一番まともそうである。
[ありがとうございます。失礼なことはされてないのですが、いかんせん状況が分からなくて。]
「では、ゆっくり自己紹介から始めようか。」
きれいな女性は、そういって席に着いた。
「道化、君から始めてくれ。」
「あぁもちろんさ!僕は 冠 道化(クワン ミチカ)。帽子屋をやっている。正確にはやっていた、かな。そんなことはどうでもいい。僕が帽子屋であると思っていれば帽子屋なのさ。」
「…しゃべり過ぎだ、道化。次はそうだな…噛車。君の番だ。」
「あのぉ…えっと。卯ノ花 噛車(ウノハナ カムル)です。よく忘れっぽいっていわれますぅ」
「このお菓子たちは噛車クンが作ってくれたのだよ!!!彼女はお菓子屋さんだった!!そのことさえ忘れてしまったがね。」
道化さんが自慢げに話す。それを見て女性はため息をつく。割って入るかのように、
「では笑猫、君の番だよ。」
「にゃはは。オレは桃縞 笑猫(モモジマエネコ)。自由気ままに暮らすのが俺のモットーにゃ。どこに行くかも、どこに行かないかも、なにかする、しにゃいも、俺の自由にゃぁ」
「つまり、ニートだろ。さて私。私は煙糸咲 識(ケムシザキ シキ)。道化とは腐れ縁でね。ここに一つしかない図書館をやっている。なにかあったらたよってくれ。」
では。
[私は、有栖川 水色(アリスガワ ミイロ)。アリスではなくミイロが名前です。ここではないところから来ました。そこで、私は…]
私は何をしてたんだっけ。
小説家になろうとして、ずっと、何をしていた?
「ミイロくん。どうかしたかい。」
識さんに話しかけられてハッとする。夢の中でこんな暗いことを考えても仕方がない。
[ここは、どこなんでしょう。いつもお茶会を?]
「おぉ!アリ…ミイロクンから聞いてくれるとはまたうれしいね。ちょうど説明しようと思ってたんだ!」
そういって道化さんが説明を始めてくれた。
「ここは、ミズイロセカイ。総称してそう呼ばれている。その中で、2つ、いや、3つの勢力がある。【海の国】【空の国】そして僕たち【クルイモノ】。【海の国】は赤の女王、赤城嵩嶺(アカギカサネ)が納めている。元々はそれだけだった。しかし、何ともかわいらしいワガママ女王に嫌気がさした人々は、女王の義理の妹である白城美麗(シラキミレイ)を祀り上げ【空の国】を作り上げた。噂によれば、民主制ですごく平和らしいね。そしてそのどちらにも属さない僕たち【クルイモノ】。僕ら以外にもこうやって、隠れながら生活している人々はいたみたいだが消息は不明だね。」
飄々と怖いことを言う道化さんの言葉を一生懸命理解しようとしてみるが原作と違い過ぎてなんともむずかしい。
なぜ、未だに海の国に人が残っているのか。義理の妹…?クルイモノはなぜ協力せずに隠れながら生活をするのか。
謎がたくさん出てきた。
「はやくオチャカイを始めようにゃぁ。眠くなってきたんだにゃ。それに、ニオイにつられてシロのやつらが来そうだしにゃ」
「「そうだな」」
声がそろってしまってばつの悪そうな識さんと嬉しそうな道化さん。この対局な二人が腐れ縁。何とも良いコンビのようだが、今一つ二人の本性は読めないままだった。
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