2章 Teen's Music Servival 予選
6話 1次選考
曲の完成後は個人練習一日、合同練習二日のペースで演奏を研ぎ澄ませたリズの二人。時には高校で人を集め、演奏を披露したりもした。
そして迎える『第3回
九月十八日(土)・関東Dグループ。
全国からエントリーした総数五〇六組のうちの五組が、東京会場であるキャパシティ五十人規模のライブハウス『
出場バンドが集う控え室では、
「さぁ本番だね。今日までの成果を存分に見せてやるぞ! って、リカちゃん?」
各バンドが打ち合わせをする中、リカは強張りを表情に見せている。編んだ両手の指も落ち着きがない。
「…………」
「ひゃうっ!?」
なこがリカの脇腹を軽く揉む。低めの地声に似つかわしくない悲鳴を上げたリカ。
「ちょっとなこ!?」
「緊張すると喉が強張るからね。なんならもう一回揉んであげようか?」
「い、いいってば」
「コーヒー飲んでくる?」
「さっき飲んだ」
「じゃあ大丈夫だ」
なこは笑う。釣られてリカも口元を緩めた。
(なこだって緊張してるはずなのに。結成から今日までなこに引っ張ってもらった。だから……しっかりしろ、私!)
なこのためにも、そして“変えたい”自分自身のためにも、今日は絶対に勝つ。
「お、気合注入? 準備はOK?」
「おかげざまで。私たちなら突破できる。そういう時間を過ごしてきたんだから」
「だね。んじゃ、リズの“売れる
抽選の結果、演奏順は【すいまーず】、【
観客席で開始を待つ女子高生のマナは、会場に連れてきた友達のカナコへ得意げに、
「今日のエントリーバンドなら有力候補は男五人組の【キングス】かな。粗削りだけどパワフルな演奏が評価されてるね。あたしも気になるバンドだったりして」
「どうせボーカルの顔が好みなんでしょ?」
「なっ!? ち、違うもん! そ、そんなんじゃないんだから!」
昨年のグランプリ【
「【すいまーず】はメンバー全員が中学時代に水泳部だった四人組のガールズバンドだっけ。他には……リズ? 聞いたことないな」
まあいい。勝ち進むバンドがあるとしたら【キングス】だろう。贔屓にもしてるし応援してる。
そして定刻の十四時。進行役の説明後、一組目【すいまーず】の演奏が始まる。MCはなく五分以内の一曲のみを披露するルール。【すいまーず】のほか、各バンドが演奏で個性を表現してくる。
四組目の【キングス】まで終わったが、しかし、
「緊張してたのかな、演奏が硬かったというか。これじゃあ……勝ち抜けないぞ」
【キングス】の演奏は悪くはなかったものの、緊張は否めなかった。演奏だけなら他のバンドも及第点と言えたし、どうだろうか?
「これならどこが勝ち上がってもおかしくないし、全滅もありえる」
「みんなよかったもんね。たかが高校生だと侮ってたけど、どのバンドも満足です」
そう話していたころ。ステージにライトが灯され、五組目のバンドが光を浴びる。たしかバンド名は【
「……って、なこ!?」
「知ってるの?」
「うん。【パラレルタイム】ってバンドのギターボーカルだったんだけど、ちょっと前に解散しちゃって。新しいバンド組んだんだ。……でも、二人だけ?」
そう。なこの左にはショートヘアのマイクを持った女子。それ以外はいない。すでに演奏を披露した四バンドは最低でも四人以上の構成であり、全国からエントリーしたバンドの中でも二人組は異色の構成だろう。
(プロでも二人体制のバンドはあるし、まあ。メンバーが集まらなかったのか、狙ってそうしたのか)
マナがそう考えていると、横のカナコが、
「ギターの子もかわいいけど、ボーカルの子もかわいくない?」
「ほんとだ。かわいいし、クールって感じでカッコイイかも。服のセンスもいいな」
ボーカルは半袖シャツに短パンのブランド服、ギターのなこは半袖シャツにジーンズ。色は二人とも黒で統一している。
ステージの二人に見惚れていると演奏は始まった。
(なこはギターに専念か。ギター以外の楽器は打ち込みね。演奏で魅せるつもりはないのか? なこは無難にしてもボーカルは……お世辞にもうまくはない)
サビの前で音を外したのは素人でもハッキリわかってしまった。ボーカル初心者だろうか。あのなこと組むのなら、どこかで経験を積んだボーカルだと思っていたが。
まあでも、
(歌う姿はカッコイイ。ミスしても堂々としてるし、凛とした振る舞いは今日の他のボーカルにはない個性。なこの横にいても存在感がある)
【パラレルタイム】の時は、他のメンバーには悪いがなこワンマンのバンドだったと記憶している。“なこ”と“それ以外”。けれど、目の前で音を奏でるリズは違う。
二人だからこそのバンド。
そして観客側に立つマナがリズを見て、聴いて、最も印象深いのは、
「いい曲」
何よりも、耳に残る素敵な曲だ。
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