ゲーム
「よし、みんな渡ったね?」
生沼は俺たちの前に配られたカードを一見しながら確認した。
「おう」
「うん」
「よし! じゃあ自分のカードを見ていいよ」
俺は自分に配られたカードをめくって、今回の役職を確認した。
〈初めての告白〉
ほお。なかなか悪くないお題だ。
俺はちらりと隣のあかりに目をやった。こういうゲームにおいて彼女のポーカーフェイスは最強に近いのだが、俺からしたら丸見えの極み。
[ふぁ♡ こ、これっ……]
分身はちっちゃな紙を見つめて
「よし。じゃあ討論開始!」
生沼はスマホのタイマーを付けてベッドに投げた。
「え、二人はこれさ。どっちからだったの?」
俺は生沼に向かって聞いた。
お題は恋愛からだから、俺のこのお題が狼側だとしても、これくらいの質問だったら当たり
「え、えっと……茂くんからだったかな」
時田は唇に人差し指を立てながら彼氏の方へ目を流した。その頬が赤らんでいるのは、どうやらお風呂ばかりのせいではないようだ。
「うん、そうだね」
「せ、積極的なんだね……」
あかりは胸に手を当てながら呟いた。
「あぁ、まあ好きだからそりゃあさ。で、お前らは? あ、でも幼馴染だとあんまりか?」
これは生沼は同じ札を引いてそうだ。
「そ、そんなことないよっ。浩くんからだったもん」
あかりは俺の袖をちょこんとつまんだ。分身もカードをぎゅっと握りながら布団の上で跳ねている。
「確かそうだったかな?」
俺の情報を確定させないために曖昧に濁した。
[えー! 忘れちゃったのぉ!? あんなにドキドキしたのに……]
分身は正直に引っかかる。
「でも浩輝からってのは意外だな。普段見てると、どう考えても柚瀬がガンガン行ったと思ったんだけど」
「そ、そんなかな」
[もちろん浩くんのことは好きだけどぉ、私からは恥ずかしい]
まあ確かに、いざとなると超恥ずかしがり屋だからね。こりゃあかりも同じ札かな。
「え? これホントに一人違うお題持ってんの? 全員同じじゃね?」
あまりにも見えない狼の姿に俺は頭を抱えた。
ワードウルフ。多数派と少数派に分かれた二つのお題が配られて、それぞれ討論を行い、少数派、つまり狼が誰かを当てるゲーム。今回は四人の内一人だけが狼のお題を持っている。
ちなみに、配られた時点では自分のお題が多数派か少数派かわからない。
俺のは多分多数の方だと思うんだが。
「私は茂くんと同じだと思うよ」
「俺も」
生沼と時田は勝手に同調しあう。
「俺も生沼とは同じ気がするんだけど、もう一つのお題が分からないからなんとも言えないなぁ」
「んーじゃあ絞り出しヒント使う?」
「そうしよう」
生沼はカードセットの中からヒントカードを引き抜いた。
「えっとね、これをしたのはいつ?」
「えー、いつだったかなぁ」
俺の言葉に隣の分身はぴくりと跳ねる。
[え、覚えてないってことは、私のと違うの……?]
おいおい。心の声が丸聞こえなんだけど。いや、でも俺がただ詳しく覚えてないだけかもしれないな。
「記念日は覚えてるんだよ。クリスマスの日。だけど、何年生だったっけな」
「えっ……」
[く、クリスマスじゃないよぉ。やっぱ違うんだぁ]
分身は早くも目をうるうるさせている。
「あかり?」
「ふぁっ。な、ナンデモナイヨ」
「なんで片言なのよ」
時田は悪戯っぽく微笑んだ。
「もしかして、愛しの彼氏とは違うお題を引いたのかしら?」
「そ、そんなことないよっ。浩くんとは一緒だもんっ」
認めまいと必死に首を横に振る。
[うぅ、ばれちゃうよぉ]
もうばれてるよぉ。
「うーん、あかりっぽいかなあ」
「えっ、浩くんっ……」
おいおい、そんな顔で見ないでおくれよ。ごめんね、そういうゲームだからさ。
「これは投票に移っていいのかな?」
生沼が時間の隙間に糸を通すように口を開いた。俺と時田はもちろん、あかりも渋々頷いた。
「はいじゃあ、狼だと思う人を指差して、せーのっ、はい」
あかり四票。満場一致。
「あかり自分で入れてるじゃん」
「だって……」
「じゃあ柚瀬。持ってるお題カードを開いて」
あかりは正座していた太ももの上のカードを、白い綺麗な指でめくってみんなの真ん中に裏返した。
〈ファーストキス〉
うわ、なるほどっ! そりゃ確かに俺が覚えてないはずないもんな。
「柚瀬と同じお題の人は?」
俺たちはそろって首を振った。瞬間にあかりはしょんぼり小さくなってしまう。
「まけたぁ」
「いや、まだだよ」
「え?」
そう。少数派が当てられてしまうのはよくあること。
このゲームはここからである。
「俺ら三人の、まあ要は多数派のお題を当てられたら、柚瀬の単独勝利」
「あ、そっか」
「解答チャンスは一回ね。さあ柚瀬、何だと思う?」
あかりは両手で唇を挟んでタコさんシンキングタイムに入った。あかりが何かを考える時にやるポーズだ。俺の部屋で物理を勉強してた時もよくしてた。
分身は俺の所へとことこ歩いて来て、俺が裏返して持っているカードをめくって中を覗こうとしていた。俺はすかさず腿の上のカードを胸の位置まで上げる。
[むぁぁ、そんなぁ]
カンニングはダメよ。
小さなあかりは諦めまいと俺の服をよじ登ってくる。その様子を見て俺は思わず吹き出してしまった。
「お? どうした浩輝」
「いやっ、何でもない……」
可愛すぎだろそれはさすがに。でも、ダメだよ。ゲーム崩壊しちゃうもん。
[うぅ……]
分身にそれが伝わったのか、彼女は登山を諦めて俺の太ももの上に座り込んだ。でもその表情はどこか嬉しそうである。
「まあクリスマスなら、あれしかないかな」
本体はそう言って俺の手を握った。
「こ、告白?」
「おー正解!」
生沼は自分のカードの表を向けてベッドの上に置いた。それに続いて俺と時田もカードをめくり三枚の〈初めての告白〉が並んだ。
「よくわかったね」
「当たり前じゃん。すっごくよく覚えてるよ。中学一年生の時だったかな。クリスマスイブの夜に、浩くんがサンタクロースの格好して私の部屋に来たの」
「はぁ!? なんそれ!?」
「中一だったか。そうそう。クリスマスイブの夜って本当のサンタクロースがずっと起きてるからさ、玄関からじゃなくて、窓からこっそり入ったんだよね」
時田は目を丸くした。
「ま、窓から!?」
「うん」
「私と浩くん、家が隣で、二階の窓同士に脚立で橋作ると行き来できるの。それで浩くんこっそり来てくれて、私にプレゼントくれたの」
「で、初めての告白もそこなのか」
「そうだね」
あかりは懐かしむように胸に手を当てて目を閉じた。
「ずっと好きだった浩くんから好きだよって言ってもらえて、嬉しくてその夜眠れなかったんだ。おかけでサンタクロースの正体知っちゃったんだけど、でも、私にとっては浩くんが最高のサンタクロースだったんだ」
[確かギリギリ日付超えてたから、記念日はクリスマスなんだよね♪]
生沼は首を振ってお手上げした。
「俺はそれを超えるサプライズを聞いたことがない。浩輝、お前ぶっ飛んでるよ」
確かに、ちっちゃい頃からよくそうやって遊んでいたとはいえ、恋人でもない中学生の幼馴染の部屋に行くなんて頭おかしいどころの騒ぎではないけどな。ばれたら普通にやばいし。
ちなみに当時のサンタクロースのコスプレはあかりが大事に持っているらしい。
「んー、てかこれお題が良くないよっ。私、浩くんのことになったら嘘なんて付けないから、ばれちゃう……」
あかりは俺の袖をちょこんとつまんで、申し訳なさそうに俯いた。
「それ私も」
時田も腕組みながらうんうん頷いた。
「じゃあ、ジャンル恋愛を外して、他のお題でもう一戦してみよっか」
「そうだね」
[今度こそ勝つもんっ!]
小さなあかりは両手をぎゅっと握りながら、ふんすっ、と鼻を膨らませた。
今回君が一人勝ちしてるんだけどね。
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