第23話 術と道と法、それに史

しかし、脅威がないのに、壁があるのはなんでだ?壁なのか宿泊施設で囲っただけなのかもよくわからないが。いや、特区として囲っただけか?自由に出入りできたら身分証の発行と説明の機会がないか。

ん?


「魔法を使う動物が魔物なら、魔法を使う人は魔人?それとも魔法使い?」


「ああ、そういう言い方もしますが、魔人はいくらか忌避された呼び方ですね。あまり言わないほうが良いです。魔法使いといっても熟練度は様々ですから、先ほどの級数で言えば5級以上で見習い、専門の教育機関では3級以上が魔法使いとしての認定要件ですね。」


質問したことに丁寧に答えてくれるラルタさん。


「となると、セルジさんらは3級以上ということですかね。」


「セルジはそうですね。1級の上の段持ちです。職業として魔法を使うのを生業とするものはある程度の経験を積むと段の認定がされるのですよ。そして、そうなると魔法士を名乗ることが許されるようになります。」


「魔法士ですか。それに段、級の上に段ですか。もしかして最高位は十段ですかね。」


「はい。もしかして同じ仕組みがありますか?」


「剣道や柔道などの武道とか、囲碁や将棋のような盤面の競技の世界ではよく使われてますね。細かいところはものによって違ったらしいですが、まあ10級から始めるなら10段までかなと。」


「なるほど、剣道、柔道なのですね。」


そうか。そもそもこういった言葉も競技も通じない可能性があったか。


「もしかして、剣術、柔術、武術といったほうが通じたりします?」


「いえいえ、剣道、柔道で通じますよ。ただ、冒険者というのを探求者と呼び変えるように時代が移り変わったとき、同じように術ではなく、道に変わっていったと伝えられています。つまりマモルさんのいた世界もそういった変化があったのだなと思ったのです。」


あれ、そうすると


「魔法って、なんで魔法なんですかね。昔は魔術でしたか?そうだとしたらなぜ魔道にならなかったのですかね。」


道なのか導くなのかで意味も変わる気はするが。


「魔術はそうですね。昔はそういった言い方だったみたいです。魔法は元となる魔素を操る法則みたいな意味がありますから。ちなみに、一定の魔法使いの指導をしたと認められれば、魔導師と名乗れますよ。魔を導く師匠の意味ですけどね。だいたい三段以上の方々になります。そういえば、歴史の中では剣術を剣法と呼ぶことがありますね。法を使うときは、個人の技術というよりかは体系的な意味合いなんだと思います。私もそこまで言葉の定義はわかってないので想像ですが。あ、道を使うのはそれらを通じて人としての精神修養みたいな意味合いがありますね。でも魔というのはもともと惑わすものみたいにあまり良い意味では使われないものですから、それで道は説けなかったのではないですかね。」


「おお、なるほど。」


ん?これ翻訳されててこの言葉なのか。魔って仏教用語のマーラだっけ?

魔法はマジック?あれ、手品と同じか。魔術だとなんだ。アルファベットの文化圏でこの辺の使い分けあるんだ。言葉知らないからなあ。魔法使いはなんでウィザードとかウィッチとかなんだろうな。ゲームだとソーサラーとかもあったか。

ウィザードは優秀なハッカーにも使ってたな。はは。人の生産性は0と1で違うのは当然だが、1と10くらいならまだしも、1と100くらい違うときあるんだよな。まあ、99の修練を積めば追いつくのかもしれないが、知的好奇心だけで99をあっという間に積み上げてしまう人は、凡人からしたら魔法使いに見えるわな。追いつこうとする頃にはそういう人は桁が違うレベルになってる感じだし。


「あのー、なぜそんな難しい顔をしてるのですか?」


おや、顔に出ていたか。


「魔法使いって言葉は、とある分野でとびきり優秀な人をさす場合もあって、ちょっと仕事のことを思い浮かべてしまいました。自分はそっち側にはいけなかった人間なので。」


ラルタさんが少し引いた感じがする。


「多くの人がある時期に感じる内容ではありますね。特に子供のうちに競技に関わった人はそれを味わうのが大半でしょう。勝敗がつくものであれば特に。」


今までしゃべらずに聞いていたゼーラさんが口を開いた。何かあったのかな。


「ゼーラさんもそういった経験が?」


「私は体操競技をやっていたのですが、その分野では凡人であることを自覚させられましたね。」


「体操ですか。評価点での勝敗ってことですかね。」


「そうですね。でもそれ以上に、多くの人ができる技が単純に自分にはなかなかできないという状況で自覚した感じですね。」


「二人とも、自分への期待が高かったのね。でもまあ、競技というのは優秀な人を選抜していく仕組みだから、大半の人が最後まで勝ち残れない経験を持つのは当然と言えば当然よね。」


ラルタさんはそういう挫折みたいなのを、いや見せないだけかな。


「それにしても、剣道や柔道みたいな武道があって、それを知っているということは教育の一環だったのですか?」


ラルタさんが話を戻してきた感じ。聞いた以上に説明してくれる人だけど、本筋に戻すのは早いな。


「そうですね。教育の一つの科目としてありました。剣道か柔道かの選択制で、自分が選んだのは柔道でしたが、まあ、今振り返ると、自分にとっては向いてないことがわかっただけに思いますよ。ああ、選択という点では高校では美術と音楽はどちらかの選択だし、化学・物理・生物とか、世界史・日本史・地理とかも選択でしたよ。」


「なるほど、ちなみに、何を選択されましたか?」


「美術、生物、世界史ですね。」


「世界史というのはどういった内容をどこまで学ぶのでしょうか。」


ん?もしかして主目的はこのあたり?えーと正確なものじゃなくて良いよね。俺そんな覚えてないぞ。


「あー、中国四千年の歴史とか言われるのですが、私のいた時代の4・5千年前あたりから文明が起こったというところから学びますね。ああいや違うな。もっと前の人間の祖先にあたる原始人の話から始まってたかな。私の世界では人の種族をホモ・サピエンスという言い方をするのですが、何十万年とか前まではネアンデルタール人とかがいたんだよというところの話も聞きましたね。」

「で、えーと、とある宗教のもとになった人物の生まれた年を西暦の紀元として、紀元前の歴史とその後の歴史を第二次世界大戦、いや冷戦までやったかな。世界史として学んだことなのか他で知ったことなのか、ちょっとわからないですが、まあ自分が生まれた頃までの歴史を大まかに学んだ感じです。」

「内容は、アフリカという地が人種の紀元とされてて、そこから世界に広がって、大河の近くで文明が発展していって、あとは各地方ごとに国ができた、統一された、分裂したなど、理由や背景や文化の変遷を交えながら年表を覚えて、それがほかの地方にはどんな影響があって、その結果何が起きたかを覚えて、っていうのの繰り返しですかね。あんまり覚えてないですが、世界に影響を与えた変化をその都度おさえていく感じで授業を受ける感じでした。自分の後の世代は、その結果今にどう影響してるかを重視した教育に変わったみたいなことも聞きましたけど、自分のときは何年に何が起きたとか、年表覚えて書けるようにしないと試験の得点は良くならなかったかな。あ、この国の歴史7000年越えだと、教育内容多そうですね。」


うん、ざっくりいうと、歴史は繰り返される、なんだが、この国何か繰り返されたのだろうか。

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