第21話 仮想現実という現実

「改めまして、今日は入出管理局ではなく、生活支援局のラルタとしてきました。ゼーラは生活支援局の所属となります。さっそくですが、昨夜は施設内容や教育内容はどの程度ご覧になりましたか?」


ラルタさんが質問から入ってくる。生活支援局ね。入出管理の役割ではないってことか。そして兼務ありか。仕事はできる人に集まるのは同じか?


「施設内容は一通りさっと目を通したくらいです。教育内容は生活の初心者教育と言語の初心者教育を少し見た程度ですね。」


「そうですか。では、初心者教育の最後の部分を先にお伝えしておきましょう。教育を受けることが義務であることは昨日お伝えしましたが、義務教育の範囲は7級以上を維持することになります。7級に満たない科目がある方は生活に困る可能性があるため、一人暮らしの方は補助をつける場合があります。」


「そうなんですね。その7級というのはどうやって測るのでしょうか。何か試験みたいなものがあるのですか?」


義務教育と聞くと、子供向けと思ってしまうが、生活保障を受ける人全員向けなんだよなこれ。


「はい、月に一度、習熟度確認を受けることが義務の一部となります。まあ、義務とは言っても生存権のほうが優先ですから、それで生活保障を切らすようなことはありません。補助をつけると言いましたが、人によっては監視みたいに捉える方もいますね。本来は病気とかで本当に一人では生活できない方向けの仕組みなんですけど、皆が教育の義務を確実に受けているとは限らないのでそうなってしまうようです。」


「なるほど。それにしても、芸術とか仮想現実とかいう項目もありましたが、それも7級が必要なのですか?」


あまり生活というか、ただ生きるのには関係しそうにない項目どうやって級を確認するのか気になってしまった。


「芸術は最低限度の文化的な生活に必要な教養という名目ですね。実際は娯楽の要素が強いですが、社会の仕組みを補完するのにも必要ですからね。何より、絵を描くのも、音を奏でるのも、物語を紡ぐのも、詩を記すのも、才能を発揮すれば十分社会に貢献できる技能になりますから、それが仕事になる人はたくさんいます。7級を必要としているのは、誰にでもその機会を設けるという意図があります。あとは仕事に従事しない方では時間を持て余してしまう可能性がありますから、教育という名目の中に入れて、やれることを提供しているという側面もありますね。仮想現実は外に出なくても運動ができますから、健康を維持してもらうためにはある程度やってもらう必要があるのですよ。」


「そうですか。7級はどれくらいのことをするのですかね。」


「それは順次進めてもらうしかないですが、この街で生活するのに支障がなくて、仕事しようと思えば仕事が見つかるくらいの技能を保証し、施設が提供している娯楽を楽しめるようになるくらいというのが基準ですね。」


「あー、じゃあ、逆に言うと7級以上じゃないと仕事見つからなそうですね。」


「それはそうですね。基礎的な知識や計算の理解力は必要ですし、仕事によっては体力も要しますからね。分野により様々ですが、応募資格として条件に加えている職場は多いですね。」


教育を受けて、それに級の認定があったらまあ、そうなるよな。高卒とか大卒とかってのと意味合い的には同じことだろう。

そういえば、


「魔法に関してはどうなってるのでしょうか。ここのメニューにはなかったようですが、何か特別な素養がないと使えないとかなのでしょうか。」


ラルタさんは少し微笑んでから話始める。


「魔法に関しては、理論的には誰でも使えるとされてますが、各科目の7級で初めて触れる内容ですね。この街の仕組みを理解するのにどうしても必要であると同時に、好奇心のままに探求されると周りに迷惑をかけてしまう可能性が高いのが魔法ですから。それと、生活の上では魔法でできることにはほとんどの事柄に代替手段というか、より便利な道具や手法がありますからね。使えることの優位性は特定の職業に限られてますよ。」


おお、使えるようになるんだ。それに火とか水とか出せたらまあ、規模によっては周りに迷惑かけるかもな。つーか、魔法より便利な道具って、魔法が生活に密着してたのを通り越して、だれでも使えるようにしてるな。魔法の技能そのものは実は昔の人のが凄かったとかになりそうな話だ。


「魔法に関心がおありのようなので、身近なところで少し説明いたしますと、この施設の寝台はほぼすべて魔道具となっています。人の生命活動を感知して、まあ主に血流なのですが、それに連動して電力に変換する魔法技術が備わっています。それと、7級になると、施設の仮想現実でなく、魔法技術による仮想現実も寝台の上で使えるようになりますよ。」


ん?血流を感知して電力変換?いやまあ、何かしら流れがあればできるのかもしれないが、魔法でタービン回すだけの力に変換できるってこと?うーん。昔そんな映画もあったような。あれは人が飼育というかただの栄養源にされてるような仕組みになってたか。そこに仮想現実って、うーん、現世が夢、幻のってわけじゃないよな。魔法を使うには心を解き放てってか。

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