第17話 彼らの反応は
入出管理局の一室で温かい麦茶を飲んだ後、ラルタはセルジに問いかける。
今はラディもディオークも同席している。
麦茶を用意したのはラディで、まず落ち着けと促したのはディオークだ。
「それで、あなたの魔法、今どれくらいのことがわかっているの?」
マモルを案内して戻ってきてからラルタに詰め寄られた後、ディオークの言葉で少し時間をもらえたラディは答える。
「日本語というのは、とても語彙の豊富な言語だね。故事成語がけっこうあるせいか、訳せない言葉もあったし。あとは英語と言う他の言語も同時に扱えるようにしたら、サーテ語で表せる言葉のほとんどは訳せると思う。むしろ、サーテ語にそんな言葉あったんだと思わせる内容まで出てきた。かなり制限しないと情報量の多さに眩暈がしてくるほどだよ。」
ラルタは入出管理局内での仕事上ではあまり見せない棘のある視線を向けて口を開く。
「あなたわざとはぐらかしてない?地球というのがどういう世界で、日本と言うのがどういう状況なのかを聞きたいのだけど。」
セルジは棘を受け流すように微笑みながらさらに流すように口を紡ぐ。
「言葉を知ることは世界を知ることだよ。日本語と英語は相互に言葉を翻訳できる状況になってて、それに互いにそのまま言葉を使う場面もある。かなり情報共有されてる世界になってるみたいだね。」
ラルタはあきれたように、いやあきらめたようにして促す。
「続けて」
「言葉としては英語のほうがサーテ語に近いみたい。アルファベートを文字として使ってるし。でも発音とかは結構違うね。日本語ではローマ字という扱いで日本語の発音を表現するヘボン式というのがあるらしいよ。」
ディオークがわって入る。
「ほう、サーテ語を覚えてもらうのに都合が良さそうだな。」
セルジは少し考えてから答える。
「いやぁ、似て非なるものは学習の妨げになる人もいるからね。読み書きは能力次第で問題なくなりそうだけど、会話するのは素で覚えるのは時間かかる印象かな。」
マモルと会話したときの英語の発音とそこから得たイングリッシュの情報を突き合わせると、話すことにかなり苦労するだろうなという印象をセルジは持っていた。
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「人の数は多いね。世界で77億を超えてるらしい。そのうち日本は1億2千くらいと表現されてる。超高齢化社会、災害、環境問題、格差社会、コロナ禍などが言葉として使われることが多くなっているようだよ。」
問題のありそうな言葉を並べるセルジ。
「コロナ禍だけ聞きなれない言葉ね。高齢化社会に超がつくのもかなり問題な気はするけど。」
「いや、77億に驚いたほうがいいんじゃないか?」
ラルタに対するディオークの言葉にセルジは口を挟む。
「我々の持つ情報では20億いかないくらいでしたか。それが100年足らずで約4倍みたいですからね。そっちを驚いたほうが良いかも。」
ラルタは首を傾げてセルジに問いかける。
「ん?20億って1000年前の話よね。それが100年足らずってどういうこと?」
セルジはしゃべった後に麦茶に一口つけていたが、顔を上げて手に持ったまま答えた。
「それはマモルさんも驚いていたな。すぐにこちらの年、時間の単位を確認してきたよ。」
「やっぱり頭の回転はそこそこ速そうね。あなたと違った方向で的外れなことは言いそうな雰囲気あるけど。」
「あれ、僕のもけっこう天然なんだけどな。そんなに計算高いつもりはないよ。」
「二人ともけっこう失礼な発言だな。あれは、一つの思考に進むと他のことを忘れるだけだろう。」
ラディは3人とも初対面の人に対しては失礼だなと思うが、評価としては妥当とも思う。
話は聞いても参加するつもりはなさそうである。
「とりあえず、1000年前にソビエトから来たと言われている転移者の時代から、向こうでは長くても100年後くらいの人らしいよ。マモルさんは。」
「こっちと向こうでは時間の進み方に差はなさそうなのに、来る時期が違うか。1000年前は向こうとこちらの距離が近くて、それから遠ざかってたとかか?」
ディオークが思うままに口を開く。
「まあ、転移と移動じゃ、考え方変えないといけない気もするし、必ずしも時間と距離と速さだけでは語れない事象もあるから、正直なところわからないね。それに、距離が近くて来るのはわかるけど、離れてるのにこちらに来るのはどんな力が働いてたのやらってならない?」
「そこはひとまず報告できるようにして後は専門家に任せましょ。でコロナ禍って何?」
ラルタはバッサリと話を切り落として引き戻す。
「コロナは流行性感冒の一種かな。それが全世界に広まって大変な時期だったみたいだね。」
「なるほどね。そこに格差社会の言葉もあったから、なかなか生き辛い人もいる世界ね。」
「ま、それはこっちだって変わらないよ。生存権はあるけど、ただ生きるだけでは満足できないのが人だもの。」
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