第8話 身分証の発行

部屋に戻るとラルタさんはおらずディオークさんが手を組んで座っていた。


「戻りましたか。ラルタももう少ししたら戻ると思いますのでそのあと説明を再開しましょう。」


はて、ラルタさんもお手洗いかな。

ほどなくしてノックがされ、ラルタさんも戻ってきた。


「すみません、お待たせしました。」

ラルタさんが席に着く。

「では説明を再開いたします。」


「身分証と権利と義務、保障とその制限のお話までしましたが、まずは身分証を作成させていただきます。念のためお聞きしますが、保障は受けられるでよろしいですか?」

「はい、保護を求めてる今の私ではその選択しかないようですし。」


「ではまずは、目の前の卓に両手を置いていただけますか。

これは基本的には手の指紋を採取しますが、ここまでは保障を受けなくても手順としては変わりません。身分証の本人確認に必要な手続きとなります。

指紋は完全一致する人がいないとみなされていますので、本人以外が勝手に身分証を使えないようにするのが目的となります。

指紋の採取は大人であれば滅多に更新の必要はありませんが、成長途上の子供のときに採取した人や、手に傷を負いやすい方は更新をお願いする場合がありますので心に留めておいてください。」


「わかりました。」

「ではそのまま、次は卓に示された印を見ていてください。

目と顔の情報を取得させていただきます。

目は虹彩情報といって指紋と同じく同じものを持った人はいないとされています。

顔もそのまま本人確認のために使います。

これらは保障を受けない方は任意ですが、本人認証の一環ですので、身分証に記録する人は多いですね。

あとこちらも事故などで顔が変わってしまった場合は更新をお願いする場合があります。」


なるほど、複数の認証手段が実用化されているということかな。事故ね。この分だと整形もありそうだ。


「さて、身分証のための取得情報としてはあと2つです。

今マモルさんの生体情報を取得していますが、その中には遺伝情報も含まれます。

遺伝情報は親から引き継いだ生体としての設計図のようなものです。

あなたの姿や能力のうち先天的に決まっているものを取得しています。

これらの生体情報は同意がなければ身分証以外には記録できないことになっています。

保障を受け取らない方は拒否される方が多いですね。

受け取る方は生体情報の記録を街に提供することが義務となります。」


えーと、手で触れるだけで遺伝情報までとれてる?口内の粘膜とか髪の毛とかじゃないんだ。


「では最後、4桁と3桁の数字を思い浮かべ、覚えてください。

卓に出ている数字がこの世界での番号を数えたときの文字となります。

ご理解しているようですが、念のため、左から0123456789です。

それは身分証の合言葉になります。

人には教えてはいけませんので、生年月日を流用することはお勧めしません。

他人からは推測しにくく、自分で忘れない数字としてください。」


数字なのに合言葉って。まあパスワードか。しかも合わせて7桁。これはあれか、短記憶では7つが限界とか言われるが、誰しもそんな簡単に覚えられないから2つに分けてわざわざ言ってる感じかな。まあ、7桁なら電車用のモバイルアプリに使ってたあれでいいか。数字は一緒なんだな。漢数字とかでもないと。あ、当たり前だけど10進法だね。まあ、指の数も変わらないんだし、そこは同じになるか。


「覚えましたか?忘れない数字ができたら、卓の上の番号を4桁、3桁の順で表示された番号を押してください。

数字がここに表示されますので、問題なければ左側にある下矢印のついた枠を押してください。

我々には見えないように衝立を立てますし、見ないようにしますので終わったら声をかけてください。」


頷くと、衝立がたてられたので、番号を押して表示される数字があっていることを確認し、ボタンを押すと数字の表示が消えていた。そして完了のメッセージが読めた。あれ、日本語表示に応してる?それとも魔法の効果でそこも変換されて読めてる?


「終わりましたか?」

「はい、完了のメッセージが出ています。日本語に読めるのですが、これは魔法の効果ですか?」


ラルタさんはセルジさんを見る。そしてセルジさんが答える。

「そうです。今の魔法の効果はマモルさん自身にかかっていますので、マモルさんが見聞きしたときの情報をかけた翻訳魔法が見た目も音声も変換して届けています。しばらくは見聞きできないと困るでしょうから、効果が持続するように処置しています。

教育でこの国の言語を覚え始めるまで、早くて明後日くらいだと思いますが、明日、明後日は私が朝、魔法をかけなおさせていただきます。」


魔法の効果は寝たら切れる?それとも時間経過で消える?


「それは寝たら魔法の効果がきれるということですか?」

「翻訳魔法についてはそうですね。

まあ寝たらというか、表層意識が途切れてしばらく時間がたったらというのが正確なところです。

寝なかったとしてもある程度の時間が経つと切れるようになっています。

まあ、長時間続く魔法でも永続する効果と言うのは聞いたことはないですが。」


ふむ。自分が見ているものが実際は違う状況というのはなんか変な感じだな。この見え方だと魔法がかかっている間は真実を見ることができないのじゃなかろうか。ん、まさかさっきのピクトグラムですら変換かかってたとかないだろうな。文字も絵も、同じ概念を与えているなら言語とみなしていても。。うん。この思考はなんか許容量を超えるという意味で危険な気がする。今見えて聞けて話に困らないなら考えるにしても後回し。


「わかりました。明日明後日でひとまず教育を受け始められるということですね。」


ラルタさんから返事が返ってくる。とともにカードを差し出された。


「この券が身分証となります。銀色が表面、白色が裏面となっています。表の左上にあるのは国の印と発行した街、つまりその2つでハルサーテ国、トーチカ街を示す印となります。」


なぜ楕円なんだろう。国旗としてみたら、丸じゃないのか?、まあ丸だったら、半分は日本人が関わってると思えてしまう配色だが。赤楕円に半分白。半分緑とは。あ、イタリアは使っている色的には同じか?緑に赤丸もどっかにあったな。でもそうか楕円か。なんか由来がありそうだ。

そしてトーチカ街?なんだか物騒な場所に聞こえるのはどうしてか。そして印といってもこれは、なんというか、そうQRコードみたいな印象をうけるな。白黒ではないが。スマホがあったら読み取れてもおかしくないかもと思わせる。


「それではこの券の左側を親指で触っていただけますか?指紋認証によって登録された情報が確認できるはずです。」


言われたように触れてみる。すると、"7697/02/01"と"7732/04/30"が表示される。どうやら表示されるのは誕生日と発行日のようだ。本人が触らないとわからないようになってるのか。


「親指を当てた状態で手に取っていただき、裏面を見ていただけますか?」


他にも情報があるのね。まあ、通貨としても使うなら金額かな。

すると、10000ⓛと表記されている。ん?疑問符が浮かぶ。1万?あとエルが単位なんだよな。丸に棒線?あ、小文字って棒線か。あれ、アルファベットってどこまで使われてるんだっけ。


「今は1万エルとなっているかと思います。

そちらが国民口座の残高となります。

一月7万エルの振り込みですが、正確には週の初めに1万エル、月初にプラス2万エルとなります。

といっても、受け取る方の大半は住まいの費用として1万は差し引かれます。

また人によっては、借金返済としてさらに最大1万徴収されます。

今日は4月の末日ですから、明日は3万エルが振り込まれる予定ですが、そのうち1万は住まいの費用となりますのでご注意ください。

週は6日なので、月5週の5万と月初の2万で7万となります。」


そうか。5万以上減らして使ってるとみなしてるって言ってたけど、週1万以上使って、それが次の月も継続してるときって意味なのか。つまりひと月はゲストとして迎えるが、居つくなら何かしら仕事見つけろよという意味にもとれるな。お金をもらえるのに世知辛いと感じるのはこれいかに。

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