第7話 食事に期待

ラルタさんが笑って言うが、まあ、それもそうかと思う。

「で」

と言いかけたところでドアがノックがされる。

「はい。」

ラルタさんが答える。

ガチャリとドアが開き、ラディさんが姿を見せる。

台車を押してきている。なんだかよい香りがするな。


「さて、食事の準備ができたようですので、一旦説明を中断いたします。すみませんが我々も一緒に食事とさせていただきます。」

「かまいません。ありがとうございます。」


気になることが多すぎてお腹の空き具合も意識してなかったが、おいしそうな香りで胃が動いた感じだ。

ラディさんはいないと思ったら食事の用意をしてたのかな。でもこれだけ立派な門のある街の入出管理に俺だけに人が4人付いて他にいないというのも考えにくいからひとまず配膳係になっただけかな。

そして目の前に運ばれてくる食事は、スープにピザだった。ピザはすでに取り分けられていた。

なんだろう。この違和感は。いや、元日本人がいた世界なのだから、きっとたぶん、食事に関しては現代日本並のものがいくらかあってもおかしくないのか。米もそのうち食えるかもしれない。

腹は減っているのだ。ありがたくいただこう。すると、手を合わせている姿が目に入った。


「ラルタさんもいただきますをするのですね」

「そうですか。これは日本の習慣ということでしょうか。私は大叔父がやっていたのを見て、理由を聞いてからそれに倣うことにしてます。」

「なるほど。」


自分も手をあわせて小さくいただきますを呟いてから手を付けることにした。


スープは綺麗な琥珀色のコンソメスープか。味も相当良いように感じる。ほっとするあたたかさよりも先に感嘆するほどの美味しさだ。これが簡単に出てくる世界なのであれば、生産力というかコスト面の問題を考えても技術的にかなり進んでいる気がする。

さてピザは、と思って周りを見ると、皆手掴みでいってる。よかった。手拭きも用意してあるから、そこに違いはないと思っていたが、気軽に食えそうだ。

ふっくら厚めの生地にトマトをベースにした味付けで、まあ、マルゲリータとかいうやつかな。

フィレンツェから来た人たちがいたならピザはあってもおかしくないのか。あれ、トマトが普及した後の人なのか?いや、そこは元日本人もいる世界だし、何があっても不思議じゃない。


なんにせよ、お腹が空いているし、とてもおいしい。飲み物は冷えた紅茶だった。

食事中はみな静かだった。腹八分程度にはなったかな。

ラルタさん、セルジさんと俺は同じタイミングでごちそうさまでしたの仕草をした。

ディオークさんは食べるのが早いようだ。

ちなみにラディさんは配膳が終わったら出て行っていたのでここにはいない。

と、見計らったかのように、ノックがされラルタさんが答えると、ラディさんが姿を現した。


皿などを下げ始めた。自分のからだったので、お礼だけ言ってその場は手を出さなかった。

ラルタさんらは自分達でワゴンに食器を片付けていた。

特にしゃべることもなくラディさんは退出。


「ところで、お手洗いのほうは大丈夫かい?」

セルジさんが聞いてくる。

「いや、あー、そうですね。案内してもらえますか?」

少し迷ったが、行けるときにいっておきたい。それにこういうときは言った人が行きたいという場合があるからな。勝手を知らないのは自分だけなのだから、タイミングが合うなら誰かの都合にあわせたほうがスムーズだろう。


セルジさんについて行き、トイレに行く。

こちらの世界にもあるんだなあのマーク。えーと、ピクトグラムだったっけ。

あー、ということは何か、東京オリンピックより後の人が転生者だったのか?

いや、なんとなく、少なくとも平成を知っている人が大分前に来てた可能性が高いのは気のせいだろうか。

まあ、ニホンと発音する人なら、江戸時代とかそんな昔ではないのは確実だが。それに、情報通信が発達した世界なら変わるときは5年も掛からず時代は移り行く。変わるだけなら1年でも1か月でも、それこそ災害にあえば1日であっさりと。その後の生活習慣としてどう定着するかはわからないが。

というわけで、聞いてみる。


「入り口にあるようなトイレを示すマークはいつ頃からあるのでしょう?」

「ん?ああ、この街が作られたときにはあったらしいですよ。」

案の定、一緒に用を足しているセルジさんは簡単に答えた。まあ、一応使い方を示してくれたのだが。トイレは日本の公衆トイレとほぼ同じ。そして一つあけて用を足す。

手を洗うときに補足してくれた。

「関羽像ができたのが500年前と言ったけど、街ができたのはそれより100年前らしいです。そしてああいうマークはここから広まったと伝えられています。」

「そうなんですね。」

これはあれだな、500年前の探求者とは別の転生者がいた可能性もあるな。

いや、魔法のある世界か。寿命が延びてもおかしくないのか?

そしてここでも驚いている。見た目でほぼ同じとは思ったが、トイレも手洗いも水の流れはセンサー式だ。日本の田舎より進んでいるが、そろそろこの程度では驚く必要はないのかもしれない。もしかしたら現代日本より便利な世界。さきほど聞いた仕組みでうまく回ってるとしたら制度的にもより進んだ世界なのかもしれない。だってあるんだよ?ハンカチなくても平気なやつがお手洗いの場所に。洗って乾かすまでが自動らしい。洗面所そのものから風が吹いてる。


と少し現実から逃げていたが、自分の顔に違和感を感じている。

これ本当にオレか?

いや、俺なのはわかるけど、一日が終わろうとしているのに髭も生えてきてないし、肌艶もこんなによかったはずがない。歩いているときに自分の腕の体毛が薄いなと思ったときに、やっぱり一度死んでるのかなとは想像したが、これ体のつくりが変わってないかな。


「その様子だと、自分の見た目に違和感ありって感じですか」

「あ、すみません、お待たせして。そうですね。自分の意識では年相応の見た目だと思ってましたが、これだと若く見られても不思議ではないですね。転移といっても再構築なんですかね。だとすると、若く構築するのはそのほうが早いからだったりするのかも。」

「それは、確かに一部ではそんな説もあります。その考察は興味深いので、後日またお話させていただきたいですね。ひとまず今は戻りましょうか。」


あれ、口調が丁寧語のままだ。あ、俺が切り替えてないからか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る