第5話 転移なのか転生なのか
「関羽雲長」
その門の100メートルほど手前で地面に立たされ、門番のように立つ石造に思わずつぶやいてしまった。
「なるほど、日本語ではそのように発音するんだ。」
セルジさんのほうを見る。あれ、発音?日本語では?ということはもしかして。
「固有名詞はそのまま聞こえるだけで、翻訳する魔法がうまく効かない場合があるんですよ。」
自分の疑問を言葉にするよりも早く解説された。
まさか関羽がこの世界に飛ばされた?それとも、
「なぜ関羽の像が門番のようになっているのでしょう?」
結論を出すには早すぎるのでそのまま疑問を聞いてみる。
「関羽の像そのものは、クレマさんの言う中国から来た4000年前の少女が商売の神様として広めたと伝えられてるね。門番になっているのは500年ほど前に活躍した探求者が、この人は軍神だからと言って、この街の守り神として自費で作ったと言われてる。」
おおう。時代背景がさっぱりわからないが、4000年前の少女は少なくとも三国志時代よりは後の人で関帝廟を伝えて、500年前の探究者は、関羽の情報を知っていたということか。ところで
「探究者とは職業なのでしょうか?」
「そうですね。500年ほど前は冒険者が一般的だったと記録がありますが、探検家とか探索者、狩人、採取人のことを一まとめに呼ぶときに探求者と呼ぶようになっています。私達は探求者であり、狩人ですね。」
なるほど。なんだか引っかかるものがあるが、思考を巡らそうとしたとき、ラディさんは俺についた胸の装置を無言で外し、とっとと先に歩いていってしまった。門番とかに事情を説明しに行くのだろうが、まだここで話しても良いのだろうか?
「さ、詳しい話はまた後にして、ひとまず門のほうに行きますか。そこでいろいろ説明と事情聴取が必要ですからね。」
む、促されたら行くしかないか。頷いて歩き始める。そして、関羽の像にばかり目がいっていたが、裸足の自分にはこの道のほうがびっくりだ。この感触、アスファルトじゃね。小石や凸凹がないことを祈ろう。
精神的に疲れてるのか思いのほか歩くな。それとも像が大きいから遠近感間違ったか。
もっと近くに下ろせなかったのかと思っていると、セルジさんが振り返る。
「歩かせてしまってすみませんね。街付近での飛行は禁止されているのでもう少し頑張ってください。」
「はい。」とうなずいとく。やはり気配りの人だ。・・・監視のためとかじゃないよね。
門の付近まで近づいても、扉は特にないように見えるのに、街の様子は曇りガラスのようにはっきりとは見えなかった。
門の横には観光案内かと思うような場所があり、その近くにある扉らしき場所にセルジさんが近づくと勝手に開いた。何かを感知する自動扉らしい。おとなしくついて行く。
結構奥行きがありそうな通路だったが、一番手前の部屋に入った。そこで足を洗ってもらえた。そういうのは魔法じゃないのかな。水で洗い流せる場所だった。特に怪我はしてなさそうだった。そして履物を用意してもらって、今度は隣の部屋に入った。ちなみに履物はスリッパだった。
なんだか取調室みたいな部屋だな。まあ、事実、初めて街に入る人の事情聴取に使うのだから当然なのか。
椅子は折り畳みできそうな形状をしている。あれ、ここ本当に異世界なの、と思うほどテレビで見るような既視感ある部屋だった。
中には二人ほどいて、セルジさんが挨拶していた。そして紹介される。
「こちら、クレマ マモルさんです。発見時刻は4月30日 17時00分、場所はエスターテ草原の識別箇所ベータです。翻訳魔法が効きましたので事情聴取可能です。地球転移者の模様。日本という国から来たそうです。」
二人とも、なんだかすごくびっくりした顔をしていた。どこに反応したんですかね。
「マモルさん、こちら入出管理局のお二人です。」
「入出管理局のラルタです。」
「同じく入出管理局のディオークです。マモルさんにはこれから簡単な事情聴取と今後に向けての説明をさせていただきます。よろしくお願いします。」
「クレママモルといいます。よろしくお願いします。」
なんだか、文系女子と体育会系男子と言う感じ。いや、ディオールさんは文系の人が大人になってから体を鍛えたマッチョマンか?警備兵ってわけではないのかも。
「よろしくお願いします。どうぞお座りください。セルジも座ってください。」
ラルタさんがしゃべり、それぞれ席に着く。ラディさんはどこへいったのやら。
「さて、さっそくですが、あなたは地球の日本という国から来たということですが、事実ですか?」
「はい、セルジさんが言ったように、地球の日本から来ました。」
既に言われたことなので素直に答える。
「そうですか。来る前に何をやっていたか。あるいはどんな状況だったか覚えていることを話してもらえますか?」
「ええと、寝て起きたら草原にいました。」
「寝る前は?」
間髪入れずに聞いてくるな。早く済ませたいのだろうか。
「小説を読んだあと、風呂に入って歯を磨いて寝ましたね。」
あれ?言っててこんなことが聴きたいのだろうかと思いながら話す。
「・・・日常の生活はどんな感じだったでしょうか。」
ちょっと違ったようだ。でも意図を考えるのも面倒なので思いつくことをそのまま話そう。
「朝起きて、軽く食事をして、仕事をして、食事をして、漫画や小説を読んで、風呂入って寝るですね。たまに出かけることはありますが、あまり変わり映えしない生活でした。」
「仕事はどういったものをしていましたか?」
「…システム作りですかね。」
言っておいてなんだか疑問府がつくのはなぜだろう。俺は本当にシステムを作っていたのだろうか。
「System?」
ありゃ、発音が違う。もしかして日本語として通じてない?いや俺の声そんな発音に聞こえてんの?
「WEBシステム、あるいはWEBアプリケーション、日本語で何ていうか、例えば商品の販売管理をするための仕組みとか、契約する人の情報を管理する仕組みとかの機能を作る仕事ですね。」
「それはなかなか大変なお仕事をされていたようですね。健康状態はどうだったでしょうか?」
「えーと、体力不足ではあるかと思いますが、特に重い病気とかは持っていませんよ。」
なぜ過去形で聞かれたのだろう。
「わかりました。質問の意図を気にされているようですので事情をお話します。
実は、今まで転移された方の中には、自分が死ぬ直前あるいは自分は死んだはずだという証言が残っているのです。
ですので、あなたももしかしたら、そういった状況にあったのではと思い質問させていただきました。」
まあ、物語の中だとあるあるな話だな。それはこっちに来て草原を歩いている時にも思っていたことだ。寝ている間に心筋梗塞があった可能性だって、ゼロではない。
「そうですか。しかし、実際に死んでいたとしたら、それは転移と言って良いのでしょうか?」
「それは、言葉の問題かもしれませんね。そして、言葉の問題よりも元の世界に戻れるかどうかは気にしないのでしょうか?」
ん?首をかしげて考える。今まで読んだ小説に元の世界に戻った転移者は、何人かいるな。ほとんどが神のような力を持ってたけど。
「それは今後に向けての説明というところで聞けるのかと思いました。質問に答えて整理いただかないと、どういう今後を想定されるのか私にはわかりませんし。」
「冷静なご判断ありがとうございます。実は転移と区別している現象があります。この地に生まれた者でも別の記憶を持っているとしか思えない言動をする方々がたまに現れるのです。そういった方は転生者と呼んでいます。ただ世間では天才だとか、何々の偉業をなした方、何々の発明者などのように認識されているだけの場合が多いです。あと、妄想癖とか、虚言癖のある人と認識されてしまう方がいますが、転移者の記録を知る者の間では、一定の割合で転生者がいるのではないかと認識しています。そして私には、今なら転生者だったのだと思える親戚がいましたが、私が最後に会ったとき残した言葉に"ニホン"という発音があったのです。そのときは誰も意味が分からなかったのですが、国名なのですね?」
ラルタさんのほうが冷静ではなさそうな早口だが、衝撃が走った。いる、じゃなくていたんだ日本からの転生者。
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