第4話 飛ぶことって一種の憧れ・・・
「7732年とは、随分長い歴史のある国なんですね。」
そう、国歴と言ったのだ。つまり、セルジさんの所属するその国はそれだけ長い期間、興亡したわけでもなく連綿と続いてきたという解釈ができる。
「そうですね、そしてその話をしてしまうと長くなるので、そろそろ移動できるか確認しましょうか。」
気になる。気になります。情報を制限したわけじゃないよね。先ほどのポーションみたいな経口補給液のおかげか、疲れがとれているのでまだ話してても良いとは思ったが、さらに暗くなってきたし、立ちっぱなしだし、移動には賛成だ。
セルジさんはラディさんを呼ぶと、ラディさんもこちらにきてセルジさんがまたラディさんに向けて何か話した。まあ状況を説明してるんだろう。そしてラディさんが口を開く。
「ラディだ。よろしく。」
あれ、ラディさんにも魔法をかけたのかな。本人以外でも翻訳魔法が効くようだ。優れものだな。というか、意味がわかるのとしゃべれるようになるのは全く違う次元な気がするのだが。よく発音に問題がなくなるもんだ。
「よろしくお願いします。」
もしかしたら、自分の言葉のほうが勝手に彼らのわかる言葉に変わってて、自分のほうが彼らの言葉をわかるようになっているのかな。
まあ、不思議現象には違いない。
「クレマにはこれをつけてもらう。」
「これはね、さっき言った飛ぶ魔法のための補助道具なんだ。それによって、地面との距離を測ったり障害物がないか確認しやすくなるからね。特に自分以外の人やものを飛ばすのに、それがないと維持するのが大変なんでね。もっと言うと、夜間だとそれがないと飛べないからね。」
「わかりました。」
なんだろう、セルジさんの言葉が砕けてきた。ラディさんは見た目通りと言うか、必要なこと以外しゃべらなそうな雰囲気。そして、あの道具はセンサーみたいなものということか。でも結局それを魔法の使用者がどう受け取るのかまったく分からないんだが。いや、それ以前に。
「どこにどうつけるのでしょう?」
説明しとけよみたいな顔をセルジさんに向けた後、ラディさんは俺の胸の真ん中にその道具を押し付けた。なんか、三分たったら点滅しそうだ。あれに比べたら小さいけど。
「押し付ければ付く。それ、付けた本人以外は外せないようになってるからな。」
えっという顔をしてしまうが、まあ魔法的なつながりがあるのかもしれん。勝手に外したら飛ばせられないとかも。飛んでる途中に紐なしバンジーなんて嫌だしな。勝手に外せないほうが良いかもしれん。
俺の顔を見たセルジさんがラディさんに説明が足りないよと言う顔を向けた後、また俺を見て
「納得したようだけど、それはある種の安全装置だからね。向こうについたらもちろん外すし、本人以外はというのもちょっと大げさな言い方だよ。基本的には外せないけど、外す手段はあるので安心してね。」
なるほど、まあいいコンビなんだろう。
「わかりました。すぐ移動ですか?」
「そうだね。今日のところはエモノが見つからないようだし、このまま移動だね。」
セルジさんがそう言うと、ラディさんは何かを呟き始め、そして
「おお」
自分の体が空へと浮き始めた。
なんというか引っ張られる感じもするし、下から押し上げられているような感じもする。
というか特定の部位に圧力がかかっているように感じない不思議な状況だ。
「なるべくそのままの姿勢を維持しててね。下手に動かすとちょっと力を余計に使っちゃうからね。」
「はい」
セルジさんに軽く返事をして考える。この状態で空気抵抗とか関係あるのかな。
セルジさん、ラディさんは向きを変える。そして俺の体も前に倒れ、先へと進む。
飛んでるわ。なんか空気抵抗も感じないけど、操られている感のせいか感動が薄い。
まあ、指は動くし、動かそうと思えば体は動きそうなんだけど、この魔法は他の用途もありゃしませんかね。
そのままの姿勢だから、暗くなった地面を見ることになっているが、これ、前のほう向いていいのかな。
横を飛んでるのがわかるセルジさんのほうを少し目をやると、どうやら顔の向きくらいは大丈夫そうだ。どっかのスーパーマンみたく手は前にする必要もないようで。しかし、鳥とかにぶつかったりしないんかな。
飛行機のバードストライクと生身のバードストライク。果たして深刻なのはどちらか。糞のストライクは経験あるが、あれは服へのダメージも考えると気分として最悪なもんだ。
なんてことを考えながら、特に会話もなく進んでいくと、前方に明かりが見えた。
どうやらあれが目的地らしい。服の見た目や歴史の話からなんとなく、進んだ文明に思えたけど、火の明かりという感じでもないし、照明装置が発達しているのか、それとも魔法的な光なのか。ん、魔法的な明かりでも照明装置に違いはないか。その場合は魔道具ってことだけど。
「クレマさん、あの明るいところが目的地だよ。」
なかなかのスピードで進んでいるようだ。徐々に近づいてくると、それは城壁というか、鉄壁のように見える。石積みのような線が見当たらない。そして、おそらく入り口なんだろうけど、その両脇に、人の像のような構築物がある。そこだけは素材が石のような気がする。
「なんだか大きな石造があるように見えますがあれは、」
と言いかけて、なんとなく見覚えのあるお顔だと思った。
寺院の門の仁王様のように立っているその石造は髭の長いあの有名な武将にとてもよく似ていた。
「関羽雲長」
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