第3話 言葉って意識しないと覚えない。

疲れが取れると言っていたが、魔法的な効果もあるのかな。ということは、これはポーションというやつか?


「美味しいですね。美味しく感じます。これってポーションですか?」


「ポーション?いえ、経口補給液です。ん、ああ、ポーションがうまく訳せないようです。固有名詞とも言えないようですが、何か違う言葉のように聞こえますね。」


「ああ、日本語と言っても、他の国の言葉と混じって、どこまでが日本語かって状態ですからね。ポーションは外来語を元にしてますからね。元の意味は、、なんだっけ。よくわかりません。」


「それは中国語とも違う言葉ということですよね。何という言葉になるのでしょうか。」


「多分、英語、Englishですかね。ただ、外来語というだけで、もしかしたらドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語とかいろいろ可能性はあるんで正確にはわかりません。」


「そうなんですね。何かその外来語の言葉をもっと言っていただけませんか?」


おや、もしかして、翻訳できる言語を増やそうとしてる?まあいいか。

「英語で言えば、"ハロー"がこんにちはの意味ですね。フランス語だとメルシー?違うな、ボンジョールかな。」


「なるほど、英語の単語をもっと教えてくれませんか?」


ああ、このやりとりで英単語のほうが知っていると思われたようだ。その通りだよ。

しかも単語と指定してきた。会話ですらない。見抜かれてるぜ。

よし。

「マイネーム イズ クレマ マモル。アイ ドォント ノウ チャイニーズ エクセプト ニーハオ」

先ほどまで書いていた地面を指して続ける。

「サークル イコール サークル」

「クロス イコール クロス」

「サークル ノットイコール クロス」

「サークル ニアイコール スクエア」

「ラングエージ インクルード ジャパニーズ ニアイコール チャイニーズ パートオブ ラングエージ」

「アイ キャン ウォーク」

「アイ キャンノット フライ」


あれ、こんなもんで翻訳できるようになったのか。AIも真っ青な学習能力だな。さすが魔法。


「こんなもんでどうでしょう」


セルジさんは再び呟いた。そして、


「そうですね、ポーションと言う言葉の意味もなんとなくわかりました。"割り当て"とか"分け前"みたいな意味ですかね。」


「え、そうなんですか?俺が知ってるものは回復薬としてゲームの世界ではよく使われる単語というか商品名みたいなやつなんですが。」


「あれ、ああ、そうすると、"料理の一人前"という意味でもなさそうだし、"薬の一回に飲む量"という意味からとったのかな。似たような発音ですけど、別の単語みたいですね。」


おお、そうなんだ。でもそれなら納得だ。日本人には微妙な発音の違いなんてわからない。言い過ぎました。俺には発音の微妙な違いなんてわからない。


「ちなみにゲームというのも英単語ですよね。」


「そうですね。元は試合とか勝負とかの意味だけど、使ったのは遊びという意味だね。」


「ん、日本語は丁寧な言葉と砕けた言葉の扱いが結構違いますね。このままの話し方で大丈夫ですか?」


どうやら語尾の違いを拾ってきたようだ。


「あ、このままで大丈夫です。でももし失礼な発言になっていたらすみません。セルジさんが私を連れて行くにあたって困るような内容であったなら教えてください。」


なんだか、すぐに言葉が通じるようになっているし、体力も回復しているようなので緊張感がとれてきたようだ。まだ何もわかってないんだし、少し気を引き締めないと。


「今のところ、困ることはないですね。むしろ、こういう例では話がかなり早い印象です。複数の国の言葉を知っているというのもあまり例はありませんし。」


それはあなたの翻訳魔法が優れているからですよと、心の中で思うものの、それよりも気になってしまう。


「こういう例、ということは、やはり中国の人とか、もっと別の国の人とかが同じように来たことがあるということでしょうか?」


「中国というのが、"ニーハオ"を使う国のことなら、その地域の人はいましたね。国が同じかまではわかりません。そういった国名、ああ、チャイナというのも同じですか、それは記録にないですからね。あと有名なのはフィレンツェから来た人たちですね。他にはソビエトから来た人もいましたね。それ以外は遠くの国から来たという話しか残ってないですね。」


国名地名のところだけ日本人のアクセントと違うのだが。それよりフィレンツェって、イタリアか?ソビエトって、つまり世界大戦や冷戦時代のロシア人か。

そんで遠くの国か。直近の事例はあまりないんかな。ソビエトの人が何年前の人かによるが。


「その人たちって、もう亡くなってますかね?」


「はい、さすがに。国名がわかる例はソビエトの人が最後でしたが、もう1,000年は前の話です。」


・・・驚きで思考まで止まってしまった。え、ということは時間の流れが違う?

年の単位が違う?いや、翻訳の魔法は意味的なものも含めてできている気がするから、さすがに年の単位が違う可能性は低い気がするな。


「私が知るソビエトなら、国がなくなったのは、ほんの数十年前の話なのですが。。一年は365日であってますか?」


「いえ、360日ですね。ちなみに一月は全て30日です。うるう年というのですか。そういうのもありますが、3年に一度、うるう秒というのがあるだけで調整できてますね。」


えーと、暦が違うだけじゃないよな。今さらながら異世界確定でいいよな。うるう秒を調整って、それなりの文明がないと無理だよな。だとして、太陽のような恒星からの距離はほんの少し地球よりは近いのか。そこあんまり今思うことじゃないか。


「それにしても、数十年ですか。過去の記録ではむしろ違う年代の人が同時期に現れたらしいので、もっと先の時代の人かと思いましたが。あ、ソビエトという国はどれぐらいの歴史があったのでしょうか?」


「たしか、91年に崩壊したと習ったけど、いつからだったっけ、国としては100年もたってなかったんじゃないかな。」


「それは、驚きです。いや納得とも言いますか。その人からもたらされた思想で一時期混乱してたらしいですからね。」


その思想って共産主義ってことか。そして、千年も前の話がしっかり記録に残っている。これはなんだろう。凄い世界に来たのかも。異世界中世ヨーロッパ風とかそんな時代ではなさそうだ。それよりも前の話はもう少し確認しておきたい。


「ええと、少し戻って確認したいのですが、1日は何時間ですか?1分は?1秒は?」


「そこの概念と単位は同じようですね。1日24時間、1時間は60分、1分は60秒です。それと、こちらのうるう秒は一回当たりだいたい30秒ですね。」


この星の自転は地球とだいたい同じということか。


「今は何時ごろなんでしょう?あ、その前に何月何日なんでしょう。」


彼はにっこりとした顔で言い放った。


「今は国歴7732年、4月30日、18時前といったところですね。」


中国四千年もびっくりな歴史があるらしい。

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