第2話 未知との遭遇?

これ見つかったから飛んできたのか?

いや、あの土が露出しているところに降りるらしい。

あ、こっちを向いた。やっぱり俺のことを認識しているようだ。

手招きの仕方は日本と同じか。

良い人、悪い人、半々の確率だけど、見知らぬ人を探してわざわざ声をかける人たちか。

どっちもありえそうと思うのは詐欺の手口をテレビで見たのがそうさせるのだろうか。

まあ、見つかってて呼ばれてて、座して死ぬよりと動いた結果なのだから、行ってみるしかないね。手の平が上を向いて手招きされてたら近づくと危険な人だと思っただろうけど。


なんとなく、ここの地形と彼らの来ている服がマッチしないと思うのだが、どういう文化なんだろう。いや、現代でもアフリカにもアマゾンにも洋服着た人たちいるんだからただの先入観かな。


土が露出しているところの手前に来て、一先ず日本語で声をかけてみる。小石交じりの縁がある。やはり人手で作った場所なんだろう。

「こんにちは」


理解できない表情、理解できない言葉が返ってきた。

念のため、

「ハロー、ニーハオ」


おや、少し反応が違う。

您好こんにちは


ありゃ中国挨拶が通じてしまった。困った、ニーハオ以外の言葉しらんぞ。

很高兴认识你はじめまして


あー、どうする。

「はじめまして、私は暮間と言います。残念ながら、ニーハオ以外の中国語はわかりません。」

そもそも中国も北京や広東とかいろいろ差があるらしいしな。どう違うのかもわからんレベルだ。

相手は再び理解できない表情。

そりゃそうだよね。言葉通じると思ったのに、またわからない言葉で話されたら、戸惑うよね。

しかし、沈黙していたら何も進まない。

かといって、日本語を話していても、身振り手振りでどこまで通じるか。

少し考えて、縁にある小石をとって、土の上で記号コミュニケーションをとってみる。


"○=○"と書きながら、丸と丸は同じと言う。

"×=×"と書きながら、バツとバツは同じと言う。

"○≠×"と書きながら、丸とバツは同じではない、丸とバツは違うと言う。


"〇≒□"(□は少し丸みを帯びて)と書きながら、丸と四角は似ていると言う。


"ことば⊆日本語≒中国語⊇ことば"と書いて、日本語という言葉と中国語という言葉は似ていると言う。その下には、

"こんにちは=ニーハオ"と書きながら、こんにちはとニーハオは同じと言う。


最初はすごい怪訝そうな顔をしていたが、何をやっているか、理解してくれたようだ。

ちょっと時間をかけてしまったが、あとは何が同じで何が違うか確認しながら、

現状とこれからを認識できるといいな。

などと思っていると、身振りと言葉で何か伝えてくる。


口に手を添えて手を開く素振り。

说说更多もっと話して

俺の手元の地面を指さして、手を動かす素振り。

写更多もっと書いて


どうやら、もっと話して書けと言っているっぽい。

では、

"暮間"と書いて、「俺は暮間と言います。」と指を自分に向けながら言ってみる。

「"クレマ"是吗ですね


「あなた、は何と呼べばよいですか?」と手を向けながら、聞いてみる。

「"セルジ"と言う


おや、と思いながら、

「セルジさんですね。よろしくお願いします。」


手を出して続けてのジェスチャー。これ意味同じだよな。

風貌と、中国語が通じるということに違和感があったが、名前もどうやら中国圏という感じには思えない。やはり母国語は別にありそうなので、ここが中国という可能性は低いだろう。まあ、空飛んでたし。

となると、俺と同じような境遇の人が中国から来た過去があるということだろうか。。

と考察は後回しだな、ぐずぐずしていると暗くなって文字で伝えることもできなくなる。

経緯を伝えるよりも先に安全を確保したほうがいい気がする。


「私は草原の向こうから半日ほど歩いて来ました。できれば安全で休めるところに連れて行ってもらえると助かります。」


一通り言い切ってから、「歩く」の言葉とともに、歩く真似と疲れた態度を、「休む」の言葉とともに頭に手を添えて休むジェスチャーをした。

そして、聞いてみる。

「セルジさんは北のほうから飛んできたみたいですが、私を連れて行くことはできますか?」

セルジさんに手を添えて、自分を指さして、北に向けて両手を向ける。


「"クレマ"、"あるく"と"つれていく"はおなじ、おなじでない、ちがう」?


なんか聞かれた。この場合、手段が一致するなら同じだが、彼が飛んでいくつもりなら同じじゃないな。

「俺は歩くことはできます」と言いながら、できると書き、

「俺は飛ぶことはできません」と言いながら、できないと書く。

間に≠を書く。

できるの下に、棒の人マークで歩くさまを描き、できないの下に飛ぶさまを描いた。

「セルジさんは飛べてましたが、俺を連れて飛べるのですか?」

セルジさんに右手を向けて、飛ぶさまの絵を指し、左手で自分を指してから右手に添えた。


我明白了なるほど、連れて飛べます」


すると、セルジさんは手を俺に向けて、何かを念じてから問いかけた。

「これでことばがそれなりにつうじるようになったとおもいますが、どうでしょう」


おや、普通に日本語だ。流暢に話せる人になっている。飛べることに対する魔法じゃないんかい。翻訳魔法かい。

「あ、わかります。」


「あるていどのことばをきかないと、どういうないようなのかわかりませんからね。じめんにかいていただいたので、なかなかわかりやすかったですよ。」

「え、使ってない単語まで通じるようになるんですか?」

「そうですね。そういうまほうです。ああーと、るいすいするというのかな。あなたがつかった言葉からよそうしているので似ているものならできるようになります」

「魔法って言葉で良いんですね。飛べるというのも魔法ですか?」

「すこし道具も使ってますけどね。きほんてきには魔法によって飛んでいます。クレマさんを飛ばすのにも補助道具があればできますよ。」


魔法って便利だな。でも思い描いていたほど便利でもないような気がするな。


「あらためて、わたしはセルジ。あちらでまわりをみているのはラディです。おつかれのところでしょうがもう少し私と言葉をまじえていただきたいとおもいます」


おっと、すんなり連れて行ってはくれないようだ。事情があるんですかね。まあ、のこのこ付いて行ってひどい目にあう可能性もあるので、情報収集は必要だしな。今のところ悪い人には見えないが、こちらにとれる選択肢も少ないし、話を続けるしかない。

ということで、

「こちらこそ改めまして、暮間守と言います。ラディさんが周りを見てるというか、警戒しているようですが、ここに危険はないのですか?」


「危険というほどの危険はないですね。彼がいればたいていのことは防げますし。あと警戒というのとはちょっと違いますね。ここは狩場でもあるので、目当てのエモノがいないか遠視で観察しているというところです。まあ、あの顔だとそうとらえるのもわかりますが。」


なるほど、俺に話をしにきたというよりも、もしかしたら、単に狩りのついででたまたま見つけたので話をしてみたということなのかも。あれ、そうすると、

「ええと、もしかして俺がいることで狩りの邪魔になったりしません?大丈夫ですか?」


「ええ、それは問題ないです。今はまだ識別のためですからね。明るいうちに対象を決めて、夜になったら寝ているところを捕らえるのです。一旦離れないと警戒心が残ってなかなか眠らないエモノなので。ですから、彼が識別し終えるか、今日はエモノが見つからないとあきらめるまでは言葉の精度を上げるのに話を続けましょう。と、その前に」


セルジさんは腰に巻いた道具入れを回して、カップのようなものを取り出した。そして何かを呟くと液体がそのカップの縁から注がれていく。


「どうぞ、経口補給液です。飲めば疲れもある程度とれると思いますよ。」


なんというか驚いているのだが、"経口補給液"という単語のほうに驚いている自分がいる。普段の会話で使うことないしな。疲れが取れるというのは栄養ドリンク的な?ただの水のようにも見えるのだが。

「ありがとうございます。ただの水というわけではないのですね?」


「ただの水がどういう状態を指すかによりますが、塩分、糖分、鉱物質など、人が吸収しやすい成分になっているらしいです。」


鉱物質?・・・ミネラルのことかな?

なんとなく、なんとなくだが、頭が良い人の言い回しに聞こえるな。理屈屋とも言う。でも受け売り的な言い方だ。まあ、聞き覚えのない言語を数分で操り、察しが良く、気遣いができるのだから、頭が良いのは確かだろう。そんなことを思いながら、ありがたく補給する。

うむ半日ぶりの水分だ。染み渡る。

特に魔法的に光ったりというエフェクトはないようだ。

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