ヴェーレンフューレン ~異世界体験日記~

川辺 明石

第1話 ある日こんなところで目が覚めたら

「知らない天井だ」

いや、ここ数十年生きてて、青空のもとで起きたことなんぞ記憶にない。

青天井ということなので、知らないわけではないが。


なぜこんな平原に寝ていたのか。

昨日は普通に家で寝たと思う。

なぜ自信がないかって?

夜遅くまでネット小説読んでて意識がそっちの世界に飛んでたからさ。


はは。現実逃避もそれぐらいにしよう。いい加減、体がチクチクする。

ほっぺをつねるとかじゃなくて、草に現実を教えられた気分だ。

服は、寝間着にしてる黒のジャージ姿だな。

靴もなしにどうやってここに来たんだろう。

そもそも来た記憶ないけど。

あれか、あれなのか?

神隠しってやつか。

違う。異世界転生ってやつか?それもっと違う。異世界転移ってやつだな。

おお、ネット小説の影響だ。ここが異世界だなんてまだ決まっていない。


遭難した場合は動くな、体力温存しろとは言うけど、

ここが異世界なら助けはこないよな。

座したら死を待つだけになりそうだ。


仮に地球のどっかだとしても、言葉の通じる地域なのだろうか。

ん、そもそも人がいる世界なのか?あるいは地域なのか?

地球だとしても人がほとんど住んでない地域まだあるもんな。

このとりあえずは寒くない気候で、見渡す限り草原ってのが残っているかは知らないが。


太陽はあるしな。複数あるわけじゃなし。大きさも地球から見たのと変わらない気がする。季節にもよるだろうけど。

異世界なら季節すらないとかあるのかな。。


んー。ここが何かしらの特異点だった場合は、下手に動くと帰れないとかあるのかもしれない。

でもなぁ、動くのが正解なのか動かないのが正解なのか不明だが、最初の直感のほうが結果的に良かったこれまでを振り返ると、、動くことにしようか。


ふと風に背中を押された。

あ、後ろ向いたら山があった。遠いけど。この風は山から降りてくるのかな。

山に向かうのがよいか。反対側に行くのが良いか。


まあ、地球にいるとして、けっこう高い太陽だよな。昼ぐらいだろうか。だとしたら、太陽に向かって右側、つまり西に移動しようか。

徒歩ではたいして変わらないが、少しでも日が長いほうを選ぼう。

夜になったら動けないだろうし。

山の反対側に向かえば、きっと海だろうけど、どれくらいかかるかわからないうえ、海じゃ水が飲めないもんな。山に向かっても人がいる可能性は低いだろう。

山から流れる川があることを期待して移動だ。東側が正解だというならたぶん死ぬだけだ。座して死ぬのと変わらん。と勇ましい言葉を思いつくが、虚勢というか、逃避だな。覚悟というにはほど遠い心境だ。

時間の読みだとか方向とか、見当違いな判断をしている可能性もあるんだが、考えても正しい答えが出るわけじゃなし、とっとと動くべさ。


裸足で草を踏む感触懐かしいな。でも、不安しかないこの状況で、どれだけ歩けばいいかわからない今、小石踏んだだけで詰みそうだ。草で足を切らないとも限らないし。

おかしい、異世界転移には期待に胸を膨らませていたはずなのに。


動物は見当たらないな。

まあ、自分の観察眼に自信はないので見落としているだけかもしれない。

腹が減ったら食べるものないぞ。草は多分苦くて食えないやつだ。普通の人間には植物のセルロース細胞を分解・吸収できるようにはなってないらしいからな。俺じゃ普通に下しそうだ。まあいろんな種類の草が生えてるんだろうけど、それを見分ける知識も経験もない。

あっ。定番のネタをやってない。

「ステータスオープン」。。。



何も起きなかった。

「ブック」。。。

なわけもなし、

「さくせん」、「どうぐ」、「つよさ」。。

も違うね。他になんかあったっけ。

「メニュー」、「マップ」。。

無理か。そうか。レベルはないか。アイテムボックスも期待できないし、地図もわからんし、チート能力も授かれないか。

そもそも神様に会ってないもんな。世界の声も聞こえないし。

魔物なんていませんように。野蛮な人もいませんように。はは、言葉を持たないやつが怖いのか、通じないやつが怖いのか。そうすると、頭が良すぎるやつも言葉が通じない可能性があるのか。ま、いませんようにと祈るより、話の通じる方に出会いますようにと願うほうが前向きかな。


うーん。疲れ具合からいって、一時間くらいは歩いただろうか。

普段たいした運動なんざしないからもっと短い可能性もあるが。

目印になるものは右に見えるうっすらと見える山と左上に見える太陽だけ。

こんな開けた場所にいる経験少ないから距離感がわからん。


そしてまたしばらく歩いていく。

おお、なんか平原に凹凸が見えてきた。

近づいてみると、樹がまばらに立っているようだった。

いきなり森じゃなくてよかった。

んん?なんか動いている。

ここって、モンゴル的な平原なのか、サバンナなのか。

それでどんな動物がいるかイメージ違うよな。そんな熱くないからサバンナのイメージなかったんだが、なんとなーく、集団で動く土煙りがあがっているように見えるから、肉食獣がいそうな動きしてる気がする。


身一つで肉食獣がいる平原って、必至な感じ?いや、詰めろな感じ?いやいややっぱり必死な感じ。

とはいえ、肉食獣が生きられるほどきっと食える動物がたくさんいる地域に突入した証でもある。

狩るより狩られる未来を先に想像してしまったが。

それなりに日も傾いてきてるし、少し暗くなってきてるな。

肉食獣は夜目がきくのもいるだろうし、下手に近づくのはまずいか?それとも樹に上って夜をあかしたほうがいいのか?木登りが得意なやつもいるかもな。。

とは言え、ここが安全とも限らないし、情報得るのにもう少し進もう。

進むと、草原もまばらになってて、少し先には、土が露出している。なんとなく形に人工的なものを感じる。今まではチクチクする草で足が切れる心配もあったが、今のところは無事だった。しかし、土の上を歩くとなると、別の意味で足へのダメージが心配だ。

引き返して草原で体を休めたほうが得策かもしれない。獣がどうあれ、樹の上で体が休まるとは思わないからな。


ん?鳥か?いや大きい気がするな。そして、人型に見えるな。

どうやって飛んでるかって?

そうか、剣はわからないが、ここは魔法のある世界らしい。

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