とびきり甘美な誕生日•前編
「わぁ!大きい船〜」
遥香は感嘆の声を上げる。
港には大きな豪華客船が就航していた。
今日は遥香の誕生日。
雅明はお祝いにとナイトクルージングに連れてきてくれた。
今日は金曜日。仕事終わりに待ち合わせしたので雅明はスーツ姿だ。遥香はおしゃれしてヒールのある靴を履いてきている。
雅明は遥香の手を取り、エスコートする。
「そろそろ時間だ。船に乗り込もうか」
連れ立って船の搭乗口へ足を向けた。
二十歳の誕生日、素敵な時間が始まる。
***
船内に入ると、まるでホテルのロビーのような豪華なエントランスがあった。そこで、コートを預ける。搭乗員たちの洗練された動きに遥香は若干気後れした。
雅明は普段と変わりなくにこやかに名前を告げ手続きをしている。これが社会人と学生の違いかと遥香は思う。
「お待ちしておりました、藤森様。レストランはこちらの階段を上がって右手にございます。どうぞ、素晴らしいひと時をお過ごしください」
添乗員のお姉さんの優雅な動きに見惚れながら、雅明について階段の方へ向かう。
「遥香、口開きっぱなし」
雅明にからかわれる。
「だってこんな船初めてだもの。雅明はこういうの乗ったことあるの?」
「一度だけ結婚式に呼ばれた時にね。記念日のディナープランがあるってその時知ったんだ」
「へぇ。結婚式もできるんだぁ」
確かに、船の上に高級ホテルが載っかったようなそんな内装だ。海の上のウェディングなんてなかなか素敵だと思う。
レストランも広々として華やかだった。窓際の席に案内される。
席に着いてすぐに船が港を離れる。船はこれから湾の夜景スポットを巡る。
しばらくして、ウエイターがシャンパンを持ってやってきた。
遥香は思わず雅明の顔を伺う。クリスマスの日、知らずに酒を飲んでしまって寝てしまったことを思い出したのだ。
「せっかく二十歳になったのだし、少しくらいなら大丈夫じゃない? 飲めそうにないなら飲んであげるよ」
「じゃあ、少しだけ」
ウエイターは心得たとばかりに気持ち少なめに遥香のグラスにシャンパンを入れる。
ウエイターが去ったあと、遥香と雅明は乾杯する。
「遥香、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
シャンパンを一口飲む。弾ける炭酸の甘い刺激が心地よい。
「おいしい!」
「飲みやすいけど、あんまり飲み過ぎたら足にくるから気をつけてね」
「わかってますよぉ」
遥香は口を尖らせる。
「飲むのはまたの機会にね。今度二人で家飲みしようか」
雅明の提案に思案顔になる。
「私また寝ちゃうかもよ?」
「寝たらその時だよ。だから遥香、他の人の前で飲んじゃ駄目だからね?」
確かに自分がお酒に酔った時どうなるかちゃんと知っていないと外で飲むのは不安かも、と遥香は思った。
「わかった。そうする」
遥香は素直に頷いた。
料理はコース料理で、あまり食べ慣れていない遥香はドキドキしたが、どれもすごくおいしかった。
食べ終わって、上階のテラスに出る。冬の夜なので風が冷たいが、少々お酒が入ってテンションが上がっているからか、そんなに寒さを感じなかった。
船はライトアップされた橋をくぐり抜けるところだ。
「橋を下から見るのもまたすごいね」
遥香は本日、何度目かの感嘆の声を上げて、手すりまで走り寄る。
「結構風が強いね」
雅明はすぐ追いついてきて、両腕で手すりを持って遥香を囲う。
しばらく海からの見る街の夜景を楽しんでいたが、不意に雅明が顔を寄せてきた。
「この間あげたネックレス付けてくれたんだ。よく似合ってるよ」
ピンクゴールドのオープンハートのネックレス、はクリスマスの時に雅明からもらったものだ。
「私、いつも貰ってばっかりだね」
先程食事の時に雅明からプレゼントをもらった。小さな小箱には透明なリップにドライフラワーが埋まっている凝ったもので、付ける人によって発色が違うらしい。よくこんな女子力高めなものを見つけるなと感心する。
「遥香もクリスマスはご飯とケーキ用意してくれただろ」
「まぁ、そうなんだけど」
それにしても結構お金を使わせてるのではないかと遥香は思う。
「俺は遥香とこんなふうに一緒にいられればそれで良いから」
雅明は遥香の耳元に顔を寄せる。
遥香は自分の脈が早くなるのを感じて、キュッと目を閉じた。
「さて、体が冷え切ってしまう前に室内に入ろうか」
雅明は何でもないように顔を離し、遥香を促した。
「うん……」
遥香はもう少しくっついていたかったなと思いつつ、素直に室内に戻り、残りの時間で船内をいろいろ見て回った。
2時間程の航海を終え、船は港に戻ってきた。
「本当に今日はありがとう。素敵な誕生日になったよ」
遥香は改めてお礼を言う。
「喜んでくれたなら俺も嬉しいよ」
雅明は優しく微笑んだ。
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