08.TASK = "わがまま会議" ;
新たなメンバーとしてりん、アレイを迎え入れ、プロジェクト規模は少数ではあるがある程度の大きさとなった。だが、進捗に関しては未だ手探り状態。ここからどう舵を切るか少し考える時間がほしいとガイトは思っていた。そんな矢先。
「ドクって言ったわね。今、そのルイズに仮実装をしているみたいだけど、どんな具合?」
「お、なかなか強気なお嬢さんだなぁ。そうだねぇ、簡単なスキルは一通り取り戻したようではあるゾ。まだC言語のみだがな」
「……驚いた。ドク、あなた多言語対応もちゃんと視野に入れていたのね」
「そりゃあなぁ。ルイズ様方ガールズSDKは多言語でほぼ同じ使い方ができるのが最大の特徴だからねぇ。可能なら魔法少女スキンとかあるとモチベーションがもっと上がるんだがね」
「ふぅん、そう」
ドクの趣味には全く興味がないといった風でモニターを眺め続けるりん。
実装自体の進捗には特に異論がないようで、あぁしろこうしろという指示は出ていない。
ガイトとしては『機関』由来の知識や情報の共有が欲しいところではあるが、下手に聞き出そうとして不信感を抱かれてしまうのは避けたい。
「どうしようか……」
「あらあら〜?ガイトくん、お困りのようね。お姉さんに話してみたらどうかな?」
思わず声に出てしまっていたようだ。どうもこの部屋にいると心の声が外に出てしまう。
自称お姉さんには哀しさを感じるが、こういう気遣いができるのはしっかり先輩といったところだろうか。
ガイトはやや躊躇いつつではあるが、一人で悩んでいても煮詰まってしまうばかりかも知れないと思い、ここは言葉に甘えて相談してみることにした。
「あ、えぇと……、そうですね。りんさんから何か『機関』に関連する情報でも聞けたら、少しはプロジェクトの助けになるんじゃないかなと思っていまして」
「あー、なるほどねぇ。確かに、有益な情報を持ってそうね。それで、どうして聞かないの?」
「こう言うのもちょっと変ですけど、嫌われたくないなって」
「あらまぁガイトくん、意外と怖がりなのね。一ついいこと教えてあげる。あの娘みたいな女の子は、お仕事とプライベートの人間関係にしっかり線を引くタイプよ」
「なんでまい先輩にそんなことが分かるんですか?」
「あら失礼ね。私だってこう見えて人生経験長い方なんだから」
「いやまぁそれなりに長い方かと」
「何て?」
「いえ何も……」
まいの言うことも分からなくはない。それに、個人的理由で嫌われることを恐れているわけではなく、貴重な戦力をこちらから失うのが怖いだけだ。
「……そうですね、分かりました。ちょっと聞いてみます。嫌われるんじゃないかっていうのはなんか違う気がして来ました」
「うふふ、お役に立てたのなら何よりです、チーフさん」
「からかわないでくださいよ」
「からかってなんかないわよ、実際チーフでしょうに」
まいの言う通りだ。ここではガイトがチーフであり、彼が旗振り役なのだ。
「あのー、りんさん。ちょっといいかな?」
「ん、何?」
りんの返事には無関心さが表れていた。ドクのコーディングに見入っているようだ。
「『機関』のことなんだけど」
「な、何よ!何も答えられないんだから!」
「おわっ!?と、突然そんな。答えられないっていうのは?」
コーディングから目を離し、バツが悪そうに俯くりん。
『機関』からの転職、そしてこの慌て方と落ち込み具合。ガイトはりんが何かを抱えていることに気が付いた。
「りんさん。あっちならどうかな」
こういう場合はプロジェクトメンバーとはいえ人前だと話し辛いこともある。
「……忙しいから、手短にね」
どうやら受け入れてくれるようだ。
「さて、こんな狭い会議室ですみません。少しでいいので、知っていることを共有できたりしませんか?」
「知ってること、なんて漠然としてるのね」
「あぁ、確かにそうですね……。それじゃあ、ガールズSDKのオリジナルについてなんですが」
「オリジナルなら消えたわ」
「えぇ、オリジナルは消え……え、消えた?」
「そうよ。もう、この世界にはいない」
「ちょ、ちょっと待ってね。理解が追いついていない」
りんの口から唐突に放たれたのは、ガイトはもちろん、プロジェクトメンバー、いや、おそらくはIT系エンジニア職のほとんどが驚愕するものだった。
「もう!あのね、驚いてるのはこっちよ。いるはずのない、消滅したはずの彼女達が、二人だけとはいえ復活しているんだから!」
「えぇと……、つまり、『機関』としてはオリジナルはこの世界から消滅してしまっていて、今運用しているのはコピー、ということ……に、なるのか」
「な、なんで知ってるのよ!」
「え、いや、今りんさんから聞いたことをまとめただけで……」
「りんが機密事項を話すわけないでしょ!」
「機密だったのか……」
「なんでそのことも知ってるのよ!?」
「……」
りんはどうも自爆体質らしい。
「このプロジェクトについてはどこで聞いたんですか?」
「りんは人脈がすごいの。大体の情報は手に入るわ」
「うーん、なるほど?」
「あんたは仮にもチーフなんでしょ?ガールズSDKに認められる存在なんて架空のものだと思ってたけど」
「架空?」
「そ、そうよ。りんが愛読するこのファイルに載ってるの」
りんはそう言いながら手に持っているタブレット端末を操作して一つのファイルを開き、ガイトに見せる。
「これは?」
「ガールズSDKの、仕様書よ」
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