07.TASK = "ツンノリ仕様" ;
ルイズはドクの手腕によって次々と基本スキルを取り戻していく。
すっかりドクに慣れたのか、ルイズの表情は明るい状態が続いている。
「次は何を思い出させてくれるのかしら?」
「おぉ!ルイズ様からおねだり……だと……!?俺様明日死ぬのか?」
「は、早くしなさいよね」
「承知ィ!」
どうやら楽しくやれているようだ。
ステファニーもその様子に喜んでいる。このままプロジェクトが進めば、という期待がメンバー全員に芽生えていた。
「ガイトくん、私ちょっと飲み物買いに行ってくるわね」
「あ、はい。分かりました」
まいが席を外し、部屋のドアが開放された瞬間。
「きゃっ!」
まいの小さな悲鳴に気を向けてガイトが視線をやると、ドアのすぐ向こう側に一人の美少女が佇んでいた。
「な、何、あ、あなたは?」
「……」
まいの動揺を無視し、部屋の中を凝視する美少女。
その格好は会社員というよりは研究員のようで、白衣を纏っている。
「……あ」
美少女の第一声だった。
「ちょ、ちょっと!ここは関係者以外立ち入り禁止よ」
「関係者……?あぁ、これのこと?」
「あのね、社員証だけ見せればいいってものじゃないの。ここは極秘プロジェクトを」
「それ、オリジナル?」
「話を聞きなさい!」
まいの警告を完全に無視しつつ、ドクがいじっているPCに人差し指を向けて質問を投げてくる美少女。
オリジナルという単語が出てくるあたりでガイトは関係者の可能性を見出した。
「君は……?」
ガイトは失言に気付く。いくら相手の見た目が自分より幼いからといって君呼ばわりはまずかったかもしれない。
「ムッ」
やはり。美少女の表情が強張る。もしかしたら見かけによらず、すごい腕でこの業界を渡り歩いてきた方なのかもしれない。
「いや、その、すみません。お名前を伺ってもよろしいでしょうか……」
慌てて取り繕おうとするガイトだが、美少女の表情は変わらない。
「えーと……」
「それは、オリジナルなの?」
どうやら質問を質問で返されたことも不満らしい。
「関係者だと分かればお教えします」
だがガイトとしても極秘プロジェクト責任者として、部外者への情報漏洩はしないよう注意を払う。
「……はぁ。あのね、今日ここに配属になったりんのことくらい知っててくれていいじゃない!なんで知らないのよ!?バカなの!?もう!」
メンバー全員が驚きのあまり動きを止めた。ルイズだけが意気揚々とドクに実装してもらったスキルのテストをしている。
「おかしくない!?この会社どーなってるのよ!あの極悪非道な『機関』から世界を救う素晴らしいプロジェクトが始まったって聞いてわざわざ『機関』の優秀枠から抜けてここに転職してきてあげたっていうのに!」
まさか驚きが二段構えになっているとは思っていなかったメンバーはさらに硬直時間を延長した。
「え、転職……?それも『機関』からって……。すみません、ちょっと混乱してきました」
「私もちょっとまだついていけてないわね」
「何だかよく分からないが、このお嬢さんもメンバー入りってことかい?」
三者三様に捉え方が分かれる。どうやらこのりんという名前らしい美少女はこのプロジェクトに参画したいようだ。
機関の元社員ということらしいのでスパイの線も捨てられないが、さっきの言動を見る限りではそんなに器用な真似ができるような性格だとは思えない。
「あーっ!こんなところに!すみませんお騒がせしちゃいまして」
開いたままのドアから一人の青年が勢いよく入ってきた。
極秘プロジェクトにしてはドアロックも何もない……。今のところは盗まれて困る情報がほとんどないので何とも言えないが、もうちょっとセキュリティを意識した方がいいのではないだろうか。
「えぇと、あたなは?」
「あ、すみません申し遅れたっス。自分、アレイって言います。去年入社したばかりのフレッシュPGです!」
「え、あ、あぁ、なるほど?」
「そんなことよりうちの新人がすみません。ほらりんちゃん、こういう時は謝るんだよ」
「しつこい!りんはここに配属になってるの!それにあんたと同い年だって何度も説明したでしょ!?」
「でも昨日入社したんだし、新人っしょ?」
「ああもう!」
どうやら転職してきたというのは本当らしい。このアレイという社員が言うことを汲み取ると、昨日転職してきたようだ。
「先輩!あの、りんちゃん、悪い子じゃあないんですよ。ちょっとこう子供っぽいところがあると言いますかわがままと言いますか」
「ちょっとあんたこっち来なさい!」
あまりにも聞くに耐えなくなったのか、りんはアレイの袖を引っ張ってドアから出て行った。アレイが一礼しながらドアを閉める。
「先輩方の前で緊張してたのは分かるけど」
「してないわよっ!何であんな人たちに緊張する必要があるのよ!?りんの方ができるんだから!」
「こーら、そういうこと言わない。実力だって今まで学生だった自分たちより先輩方の方がなぁ」
「だからりんは『機関』からの転職だって何度言えば」
ドアの向こうの会話は筒抜けだ。あまりにもりんが可哀想になってきたので、疲弊する前にプロジェクト参画を許可してあげることにした。
「りん……さん、でいいんだよね?どうぞ、入って」
「……はぁ、やっと分かってくれたのね」
「え、先輩、いいんですか?」
「まぁ、『オリジナル』なんて単語が出てくる時点で無関係ではないと思うし、何よりこれ以上はちょっと可哀想で」
「そんな!とんでもないです、ありがとうございます!これからどうぞよろしくお願いします!」
「いやいや、全然……え?」
ガイトはりんのアサインを決めたはずだったのだが、アレイから挨拶攻撃を食らった。
教育係的な保護者目線なのだろうか。
「え?このプロジェクトに参画できるんですよね?」
「あ、えと、はい」
「ですよね!いやぁよかった。りんちゃんの配属先探しでまさか自分まで配属先が決まるなんて思ってもみなかったっス!」
なんと。
「いや、その、えぇと」
「すみません、あのー、自分ここに配属になったっぽいです!よろしくお願いします!」
ガイトの困惑をよそにまいとドクへの挨拶を済ませるアレイ。
「ガイトくん、諦めなよ。ここまでやる気を見せてくれているのに断るのは、それこそ可哀想じゃない?」
まいが半分呆れた表情でガイトを諭す。
ドクは仲間が増えることには興味がないのか、ルイズの基本スキル奪還を再開している。
「ガイト、プロジェクトのメンバー枠はまだ空いてるんじゃないかしら?」
りんのスパイの可能性を危惧していたのか、しばらく黙っていたステファニーだったが、ここで口を開いた。
どうやら問題ないとして認めるらしい。
「あれ?もしかして自分はお呼びじゃない感じですか……?」
絶妙に拒否しにくいタイミングで状況に気付いたアレイ。
逡巡の挙げ句、ガイトはアレイのアサインも許可することにした。これから調査だったりドキュメント整理だったりで人手が必要になる場面などもあるだろうと見越してのことだ。
「……よ、よろしくな、アレイくん」
「おぉっ!ありがとうございまっす!」
かくして、メンバーは五名体制となった。
りんはドクの背後に立ち、彼女が『オリジナル』と呼ぶ漬物石PCのディスプレイをじっと見つめている。
「いやぁ、何だかやり辛いですなぁ」
「美少女に見つめられて嬉しいとか考えてそうっすね」
アレイはどうも考えるより先に喋るタイプのようだ。
「ん?美少女……?何かのギャグかい?冗談キツイなぁ少年」
「は?」
ドクもドクで現実の女性に興味がないためか、なかなか失礼な物言いな気がする。
りんも今の発言には少なからず不快感を覚えたようだ。
「一応言っておくけど、りんはあのいかにも婚期逃してそうなおばさんより未来はあるので!美少女じゃないって言われるのは心外ね」
「りんとか言ったかしら?少しお茶でもしませんこと?(暗黒微笑)」
りんはりんで比較対象としてちょうど良かったのか、まいを引き合いに出す。
まいの手元にあるマグカップにはお茶など入ってない。
「大丈夫かなこれ……」
半ば強制的に決まったメンバーではあるが、決定権はガイトにあったわけで。
ガイトはこれからのプロジェクトに不安と期待を募らせながら、賑やかになったフロアに目を向ける。……不安の方が若干多め。
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