05.TASK = "資料スキル" ;
「じゃあ、ガイトくんはこういう趣味をお持ちで?」
完全に何かを勘違いしているまいはガイトに対して突然の攻撃を放つ。
かと言って、「ガールズSDK」に関することを一から説明するのもなかなかに面倒で、ガイトは説明に迷い始めた。……と、そんな中。
「彼女さんじゃあ、ないのね」
「え、あ、あぁ。違うぞ」
助け舟も出せる人間関係が上手なSDKに救いの手を差し伸べられた。
「ねぇ、私の質問に答えなさいよ」
「えぇっと、言っておきますと俺にこんな趣味はないです」
「本当かしら。画面の娘と会話するエンジニアって、そういう人多いの知ってるわよ」
そういう人の方が珍しいと思うのだが。どうやらまいは普通ではない世界の人らしい。
独り言が多いエンジニアはたまに聞くが、画面と会話するのとはまた違う……。その前に返事が返ってきていることに違和感はないのだろうか。
「ステファニー、簡単に自己紹介とかしてもらえるかな?俺の方からじゃあ、何を言っても誤解されそうで」
「そうね、そろそろ開放してあげる。プロジェクトも進めたいし」
泳がせていたのか……。前世は人間だったに違いない。絶対にだ。……バイナリに転生できるのかどうかは棚に上げておこう。
「私はステファニーよ。初めまして、ユーザーさん」
説明にはなっていないが、まさかSDK、というよりバイナリのプログラムで構成されている少女の映像が意思を持っていることに驚いたのだろう。まいは目を丸くして立ちすくんでしまった。
「言ったでしょう、先輩。これは俺がどうこうした結果ではないんです。俺だってまだ信じきれないくらいで」
「なんていい子なの!」
「え?」
「このご時世にきちんと挨拶ができるのは素晴らしいことよ!」
「最近の若い人は挨拶できないみたいな言い方はちょっと」
「私だって若者なんだから!私、まだガイトに挨拶してないわよ?」
「あ、はい、そっすね」
面倒になってきたのである程度のところで話を流す。
突然、画面が白くなった。コンソール画面ばかりを見ていたからか、眩しさを感じる。
「な、なんだ?」
「あら、お兄さん、まだいたのね。定時じゃなくて?」
「まだ今日は来たばかりだよ、ルイズさん」
「そうだったかしら。まぁいいわ。仕事がないって暇ね」
これまでのプロジェクトでは忙しかったのだろうか。
あくびをするルイズに見入っていると、ステファニーが機嫌悪そうに画面に現れる。
「さ、そろそろ始めるわよ」
「おう、やるか」
「何が起こるか、楽しみね」
まいは、ガイトが昨日作成したプロジェクトの新概要と具体案を眺めつつ微笑んでいた。
「……まい先輩、理解できました?」
「んー、全部ではないけれど、大体はね。君が作ってくれた資料が分かりやすいから」
「そ、そうですか」
ストレートに褒められることにあまり慣れていないガイトは、不覚にもまいに対して微笑んでしまった。
「あれあれ〜?私に褒められて、もしかして嬉しくなっちゃった?もう、可愛いところあるじゃない!」
「し、資料が他人目線でもよくまとまっててよかったなと安心しただけですよ」
「はいはーい、そういうことにしておきますよーっと」
まいが参入して早速のやりづらさを感じつつも、仲間が増えることには素直に喜びを感じていた。
「ガイト、今日は他の妹も呼びもどしてくれるの?」
「いや、昨日ルイズを呼び戻してみて思ったんだが、呼んだところで今のとこと何もできないっていう状況だと効率が悪なあと」
「効率って?」
「あぁ、昨日見てみたディレクトリ一覧で、結構な数の妹がいるって知って、その全員がある種の記憶喪失状態で呼ばれてしまったら、今のルイズみたいに手持ちぶさたな時間をさせてしまう気がしてね」
「なるほど、さすがねガイト。やっぱりチーフの素質あるんじゃない?」
客観的な視点を持つガイトに対し、チーフとしての素養を認めるステファニー。
ガイト本人としてはそんなつもりはなく、条件反射のような行動のようだ。
「そうかな……。ま、まぁ、それで、呼び戻せた妹に対してある程度の基礎スキルを思い出してもらおうかなと思ってるんだ」
「つまり、まずはルイズの基本的なスキルを開発、ということね」
「そういうこと」
当のルイズは画面の端へと追いやられた白地のメモ帳ウィンドウをじっと見つめたまま、黄昏ているようにも見えた。
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