04.TASK = "仮実装" ;
カタカタと、文字通りカタカタと音が鳴るキーボードを打ち続け、ガイトはプログラムの処理単位である「関数」を一つ試しに開発した。
開発と言っても、難しい論文に従ってごちゃごちゃと配線を巡らせたり怪しげな薬の調合はしていない。
ただ単に目の前にある漬物石PCに文字を打ち続けただけにすぎない。
「どう?慣れてきた?」
「まぁ、いつもこんな感じだったし…慣れが必要なほどでもないかな」
「そうなの?けれど、ここに配属になるってことはそこそこできる方ってことだな!」
「いやだから…」
まだ出会って数時間しか経っていないが、ステファニーとは打ち解ける雰囲気になっていた。
ただ、この場所への配属が会社としてどの立ち位置になるのかは、よく分からないまま。
ガイトにとっては窓際族の一環でないことを切に願いたいところだ。
「あら、可愛らしいお兄さんじゃない。ありがと」
「な、何だよ急に…。……え、誰?」
ガイトがステファニーに目をやろうとして画面の端を視線で追ってみると、そこには見慣れない美少女が。
「どうして私の時には『美』が付かなかったのか説明しなさい」
すみませんでした。
「誰って…、チーフさんでしょ?お兄さん。よろしく」
「え、いや、あの…?」
状況は飲み込めないが、美少女は画面のあちこちを散歩する。
「あっ、ルイズ!?」
「あら、ステファニーお姉ちゃん。久しぶりね」
「え、この娘が、ルイズ?」
「そ。私がルイズよ。よろしくね、チーフのお兄さん」
なんということか。
ガイトの開発したひとつの関数で、一人の「妹」が戻ってきた。
「私、文字列に関してなら一通りのことは出来てたから、そういうことで」
「え、それはどういう…?あれ、というか『出来てた』?」
「そ。今は出来ないの」
「おぉう…」
どうしてそんなに自信気になれるのかはさておき、目の前にあるものから考察して状況を整理する。
開発してみたのは「コール」と呼ばれる関数。その名前から推察、というよりルイズが画面に現れたことからしても、おそらくガールズSDKの呼び出しと言ったところだろう。
「このコール関数で君たちが呼び戻せるってことなのかな?」
「そうみたいね」
「『そうみたい』って、他人事みたいな」
「自分自身がどうやって呼ばれていたのか、全く知らないの」
「そういうもんなのか…」
リファレンス的な文書もなければ本人たちも知らない。
これまでのメンテナンス作業が完全に極秘裏の引き継ぎであったことを示唆しているような気がした。
「ルイズさん、何かこう、仕組みというかなんというか、覚えていることはないかい?」
「あら?『さん』付けしてくれるなんて可愛いのね。特に覚えてないわ」
やはり堂々と回答される。
だから何故そんなに自信がありそうなのか。
それも気にはなるが、やはり何も記憶というか記録していないらしい。
コール関数に関してはステファニーの源ファイルの記述にあったものを真似て開発してみたが、その他の関数に関してはステファニー特有のものであるような関数名で、関数名の先頭に「_Stefanie」が付いていた。
ただ、ものは試しだ。
書き写してみることにした。
「えーっと…」
ステファニーとルイズは気ままに画面中をうろうろしたり時折立ち止まって何かをしていた。何をしているのかは休憩時にでも聞こうと思う。
「どう?ちゃんとやってるー?」
不意に、部屋の入り口の方から声がした。
ステファニーやルイズの合成音声ではない。
聞き覚えのあるものだ。
「げ!まい先輩!?」
「『げ』とは何よ失礼ね。先輩であり、かつ同年代、そしてこうして君を気にかけてあげている優しい優しいお姉さんよ?もっといい反応があるんじゃないの?」
「あ、はい。すみません」
「もう、照れ屋なんだから」
半ば強引に部屋へと入ってきたのは、まい先輩。
さっきの半自己紹介のような発言からも分かる通り、若干面倒な先輩。
だけどまぁその、ガイトにとっていい先輩であり、嫌いではない。
社内の男共からはよくチラ見されるとか自慢しているが、容姿は悔しいことにそこそこ良い方だ。
この状況も、他の社員からみればある種の羨望を買う可能性がある。
「ところで、何しに来たんですか」
「何しにって…、ここに配属になったの」
「え」
「そんなに嬉しい!?」
「いや…」
「あら、彼女?」
「ちょっ、ステファニー!?なんてこと言うんだ、この人はただの先輩で」
「なにこの娘!画面の中にいるの?」
「えーっと、あぁもう!」
急な来訪者、もといプロジェクトメンバーの参入により、この日の業務はここで終業を告げた。
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