第39.5話

 穂波ほなみ月菜るなは部室棟の廊下を走っていた。

 ツインテールと一緒に涙が風に乗って流れていく。

 

 どこか目的地がある訳でもなく、今はとにかく優兎から物理的な距離を取りたかった。


「はぁ~。割り切っていたとは言え、やっぱり付き合い出すと辛いな~」


 作戦だと強がってみたものの実際に長年想いを寄せていた相手が他の女の子と交際を始めるのは辛い。

 それを覚悟の上ではあったが月菜るなの心もさすがにもたなかった。


「ゆうお兄ちゃんにはせいぜいデートで失敗を重ねてもらって、ルナとの初デートやファーストキスを最高のものにしてもらうから」


 階段を下りて上って廊下を走って、慣れない部室棟で現在地が分からなくなった頃にはすでに気持ちを切り替えていた。 


「あれ? でも……」


 生ぬるい春風のはずが体温が下がるのを感じる。

 顔色はすっかり青ざめてしまっていた。


「デートくらいならいいけど、キスの練習はマズい! ルナにとっては初めてでも、ゆうお兄ちゃんは初めてじゃないって、なんかイヤ!」


 そう決めてしまえば月菜るなはすぐに行動に移す。

 優兎や未亜、文芸部から逃げたはずなのにすぐさま部室に向かって走り出した。

 廊下を走る月菜るなを注意する兄ポジも今ここには居ない。


「やっぱりすぐに別れてもらおう! そう、これは告白の練習。ルナに思い切って告白する練習だったのよ」


 奥手だと思っていた未亜も油断できない。

 恋人になった途端にタガが外れてビッチ化して優兎をたぶらかせるかもしれない。

 パッと見おとなしそうな女の子ほど危険であることは同じ女子である月菜るなはよく理解していた。


「ゆうお兄ちゃんはルナとの初恋が破れたって言ってた。でも、それってつまりルナの初恋もダメだったってことじゃん」


 初恋を破らせる作戦の重要なポイントに自分も当てはまることに気付いて自然と口元が緩む。

 自分の初恋を自分で終わらせていた事実を棚に上げてもはや勝利を確信していた。


「昔のルナは全然バカじゃなかった。正妻になるための準備をあの頃からしてたんだわ!」

 

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妹ポジから正妻を目指す物語 くにすらのに @knsrnn

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