第29話
もうすでに僕らが読むべきページは終わったし、しっかりと後輩の頭も撫でた。
自分達から終わりを宣言するのもおかしな気がして
目の前にいる
手持ち無沙汰にしているとようやくこの沈黙が破られた。
パチパチパチパチパチパチパチパチ
「うふふ。素晴らしい朗読だったわ。聞いてるこっちまでドキドキしちゃった」
オーディションを見守っていた時と同じ笑顔でお褒めの言葉を頂き少し照れ臭い。
「なんていうか、エロかったっす。って、いてて!」
「言葉を選びなさいよ!」
突然エロいと言い出した
「
「それわかります。背とか私より小さいのにすごく大人っぽく見えたっていうか、大人の階段を何段か登ったみたいな」
「あらあら。何があったのかしらね~」
その視線がいたたまれないのか
「そんなことよりさ、オーディションしてみてどうだった?
強引に話題を本来の流れに戻す。
なんでこんな恥ずかしい思いをしてまで部員の前で朗読して後輩の頭を撫でたのかと言えば、部活説明会でどちらが朗読するかを決めるためだ。
断じていちゃいちゃを見せつけるためじゃない。
「う~ん。実を言うとかなり迷ってるのよ」
右手で頬を押さえながらため息を吐く
こうなった時の
「二人はどう?」
「難しいっすね。穂波さんは声がよく通ってたし、椿さんはエロかったし。いだっ!」
「だから言葉を選びなさいっての。椿さんは引っ込み思案の後輩が勇気を振り絞る感じが伝わってきてこっちまでドキドキしました」
「そうなのよねぇ。二人とも
「待って! 僕を好きなんじゃなくて小説の中の先輩ね!」
「あらあらごめんなさい。でも、あながち間違いじゃないんでしょう?」
それに対して
僕が近くにいたら背中に隠れてしまいそうなくらいだ。
「部長! ルナから提案があります」
しかも提案があるときたもんだ。どうせろくなものじゃない。
「先輩方が迷っちゃうのもよーくわかります。
「あのな。それじゃあオーディションの意味が……」
「そう? ルナも
「えと……わ、わたしは」
さすがに見ていられないので僕は
「それじゃあこんなのはどうかな。僕もみんなと同じ一票を投じる。4人だから半々に分かれるかもしれないけど、そうなったらその時に考えよう」
代表の選出方法について
僕の一存で決まるのは遺恨を残しそうだし、客観的な意見を取り入れることも本来の目的である部活説明会には重要だ。
あまり神妙にならず、冷や汗をかきながらも笑顔で話したみたけど反応はどうなるだろうか。
「俺は賛成っす……けど、それはそれで迷いますね」
「そうねぇ。私達も自分でどちらかを選ばないといけないもの」
「まあでも、
投票形式には賛成してくれるようで内心ホッとした。
この場の雰囲気で僕が選ぶのを強いられたらどうしようかと若干の不安はあったが、どうにかうまい具合に舵を切れたらしい。
「むぅ……4(よん)-0(ぜろ)で負けたらルナのこと慰めてくれる?」
「まだ負けると決まったわけじゃないだろ」
「だってぇ、ゆうお兄ちゃんは絶対に
「そ、それは……」
後ろに隠れる
今の
「それにもしルナが多数決で選ばれても、ゆうお兄ちゃんに選ばれなかったらやっぱり負けたって思うし」
「…………」
多数決になりかけていた部室の空気も少しずつ揺らぎはめているのを感じる。
「よし! 決めたわ。多数決にしましょう。私が責任を持って決を採るからみんな目をつむって」
「えー! それじゃあ不正があるかもしれないじゃないですか」
「
「……ゆうお兄ちゃんがそう言うなら」
「それじゃあ頼むよ部長」
「ええ、任せて」
そういう信頼の元で行われる多数決。
だから僕も安心して瞼を下す。
心の中でどちらを選ぶかはすでに決まっている。
あとはみんなの判断だ。
「まずは穂波さんが部活説明会に出た方がいいと思う人、手を挙げてください」
手を挙げたのかもしれないし、ほんの少し体が動いた結果生じたのかもしれない。
視覚からの情報が遮られて聴覚が敏感になっているせいで、とにかく音から得られる情報に敏感になっていた。
「次に椿さんが出た方がいいと思う人、手を挙げてください」
できるだけ音が出ないようにゆっくりと手を挙げる。
今回のオーディションで僕が
僕が
それをちゃんと結果として残したい。そんな想いを込めて僕は腕を突き上げた。
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