第26話
なんとなく二人並んでドアを開けるのは恥ずかしくて、部室から出る時は逆に僕がリードする形で部屋に入る。
数分前のわちゃわちゃとした雰囲気は継続していた。
一つ違うのは
妙に勘が鋭いからしつこく追及されたら絶対に逃れられない。
後ろめたいことではないけど、できれば二人の秘密として心にしまっておきたい出来事だった。
「さ、二人が戻ってきたことだし早速オーディションを再開しましょうか」
頭の切り替えが早い美桜さんがそう言うと部員はそれに従うしかない。
押しの強い
「
「は、はい」
用意されているのは二冊だけ。
そうなれば必然的に貸し借りすることになる。
「それなら僕のを」
僕が使った本を
あえてそうする必要もないけど、何となくその方が丸く収まる気がした。
「あの……
「当然よ! だてにゆうお兄ちゃんの妹ポジ歴が長くないもの」
腰に手を当て胸をででんとアピールする。
背は
「でも、負けない……です」
いつも僕の後ろに隠れていた
「ふっふー。ルナを越えられるかしら?」
それに対して
すでに名演を終えた
普段なら調子に乗るなと注意するところだ。
でも、これは
「あ、そうだ。部長に一つ確認なんですけど」
「なあに
「オーディションってあくまでルナと
「そうねぇ。
「ありがとうございます。なんとなーくですけど、ゆうお兄ちゃん、ルナの時より上手に朗読できそうな気がしたので」
本当に勘が鋭いやつだ。
「まあ二回目だしな。
僕にとって都合の悪い空気を変えるべく、ゴホンと大きめの咳払いをして弁明する。
ただ、妹ポジはそれでなっとくするような玉じゃない。
「それもそうなんだけど~。休憩してから雰囲気が変わった……的な?」
「たった数分で変わるわけないだろ。お前は大人しく
「そういうことにしておいてあげる」
まるで何かの確信を得たように
ただ、このやり取りで火が付いた男もいる。
「
「別に何もないよ。お互いに頑張ろうって気合を入れただけだ」
「わざわざ部室から出ていってっすか~?」
こういう時に止めてくれるのが
「はいはい。いろいろ気になることはあるかもしれないけど時間がないわ」
「そうだぞ。ほら、来年は
「あとで教えてくださいね」
声量の小さい
ただ大声を出すだけでも
「さ、二人とも準備して。あと
「あ! ありがとうございます」
美桜さんに指摘されて慌ててリボンを直す
お互いに頭を撫で合ったことに意識を持っていかれて全然気付かなかった。
僕もさらっとそういうことを指摘できる先輩にならないと。
「
「たまたまだろ。
「ふーん? つまり、
あっけらかんと発言しているわりに
もしかしたら僕は余計なことを言ってしまったかもしれない。
「まあいいけどね。さ、二人の朗読を聞かせてください」
オーディションの前に随分と心を揺さぶってくれるじゃないか。
「
小さいけど芯のある力強い声。
「そうだな。がんばろう」
後輩に励まされるなんて、我ながら先輩なのに情けない。
でも、先輩と後輩という上下関係から対等な二人になれたような気がして嬉しかったのも事実。
この小説は
一番うまく朗読できるのは僕らに決まっている。
お互いの位置に付いて目で合図を送る。
僕が小さく頷くと、
「『こうじょうは……』」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。