第25話
パチパチパチパチパチパチパチパチ
部室の中に拍手の音が響き渡る。
不甲斐ない自分にはこの拍手が攻撃のように聞こえてしまい胃が締め付けられる。
「お疲れさまぁ。
「えへへ。ありがとうございます」
「新入生が部活説明会に出るって言い出した時はどうなるかと思ったけどやるじゃん」
「
「おいおい! 俺には去年小説を書き上げた実績があるんだからな」
「それは私もなんですけど」
この場の主役は間違いなく
「
彼女の瞳から不安が伝わってくる。
「あはは。僕の方が緊張してたみたい。
思いを寄せる後輩の前では頼れる先輩でいたい。
そんな
「…………」
「あの、ちょっと休憩してきていいですか?」
裾を掴む手にさらに力が込められていた。
「え? ええ、もちろん。特に
「ありがとうです」
必然的に一緒に部室から出ていくことになる。
「お、おい」
僕の制止も聞かずに
「ゆうお兄ちゃん
「ねえ
「え? えっと……」
僕の手を掴もうとした
文芸部の本来の活動内容は朗読ではない。
他の新入部員と同じように小説の続きを考えるのは当然だ。
僕と一緒にいたいという理由だけ入部するのは大変だと思う。
そういう意味でも
「突然ごめんなさいです」
「ううん。僕も気分転換したかったし」
早歩きで少しずつ部室から遠ざかりながら
すたすたと
どこに向かっているのか全く見当が付かない。
「なあ
休憩時間はまだ残っていると思うけど、あまり悠長なこともしていられない。
しびれを切らしてストレートに問いかけた。
「どこ……なんでしょう。どこも人がいて……」
さすがにどの部も活動中で、誰もいないかと思ったら部室から人が出てくるみたいなことを繰り返していた。
「
「は、はひ!」
廊下の行き止まりに辿り着くと、
僕の好みに合わせて思い切ってイメージチェンジしてくれた髪からふわっと優しい香りが漂う。
化学部の部室の前だけど、中から人の気配は感じない。
運動部と同じで部室は荷物置き場になっていて、実際の活動場所は別の場所というパターンなんだと思う。
「ちょっとだけ誰かに見られても、平気ですか?」
「ん? うん。たぶん」
ちらりと後ろを見ると何人か歩いている生徒が目に入った。
この人達に一体何を見られるというのだろう。
それに僕らに注目する様子も感じられなかった。
「
そう言って
同時に、彼女の細い腕が僕の頭へと伸びていく。
「頭を撫でてもらうのって、すごく安心するです」
真っ赤になった後輩の顔を見つめながら、僕はなすがままに頭を撫でられている。
体勢としてはかなりアンバランスなのにとても心が落ち着く。
もしかしたら『部室棟でキスしてるやつがいた』なんて噂が明日には広まるかもしれない。
実際はキスではないし、僕らは
でも、そんなデマでも
そんな風に思えるくらい心が満たされ穏やかになっていく。
「あ! でも、誰でもいいわけじゃなくて。その……」
「うん。ありがと」
お礼という訳ではないけど、僕も
とても恥ずかしいことをして心臓だってバクバクと音を立てているはずなのに、不思議と冷静な自分がいた。
「
「はい!」
部室棟の端に夕陽は差し込んでいないけど、小説の世界以上に僕らの心は通じ合ったと思う。
本の読み合わせ以上の経験を積んだ
そんな確信を持って、二人並んで部室へと戻った。
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