第23話
「こんにちはー」
自分自身の緊張を少しでも和らげるためにいつもより大きな声で挨拶をしながら部室のドアを開けた。
先に走っていった
「遅いっすよ先輩。先輩はどう転んでも朗読するんですから」
「そのセリフ、来年は
「ぷくく。
それを想定して小説を一本書き上げるのも悪くないな。
「はいはい。今日は
「オーディションは本番を想定してそれぞれに本を持ってもらいます。昨日みたいに密着しないから、声を遠くに届けることを意識してね」
「最後のシーンはどうすればいいかな。僕が立ち上がって近付く?」
「あらあら。後輩の頭をナデナデする気満々ね」
「ち、違うって。そういう朗読劇だから確認してるのであって」
「うふふ。初めてだと緊張するけど、もう何度目だから大丈夫みたいな?」
まるで昨夜の練習やさっきの廊下での出来事を見ていたかのように僕を煽る
ここで迂闊に反論すれば負けるのは僕なので大人しく引き下がるしかない。
真相は闇の中に葬ってやる。
「
「こら
「あはは……」
耳を引っ張られる
単純に僕と
「それで、先に朗読するのはどちらにしましょうか?」
「あー、それなら……」
「はい! ルナからいきます」
僕が言い出す前に
本番には強いけど本番前に弱いので早めに終わらせてやりたい。
そんな兄ポジ心からの提案をする前に本人から申し出てくれた。
「
「あ、はい」
反対に
作者として作品を理解しているからこそ、考える時間を与えた方がより良い朗読になると踏んでいた。
僕の思惑と二人の性格がうまく噛み合って難なく順番が決まってホッとする。
「部室だと狭いからギリギリなんだけど、端と端に椅子を置いたわ。当日もたぶんこれくらいの距離感だと思うのだけど」
そこまで広くない文芸部の部室の隅に置かれた二脚の椅子。
「これなら
「ひっどーい! ゆうお兄ちゃんだってドキドキして鼻の下伸ばしてたくせに」
「
僕が促すと
「よしっ」
少しでも声を前に飛ばせるように浅く腰掛ける。
背筋の伸ばして本を構えると一気に緊張が押し寄せてきた。
「準備はいいかしら?」
「はい」
「うん」
こういう息の合い方をするとカップルだなんだとはやし立てられたものだけど、オーディションの緊張感がそれを防いだようだ。
ありがたさ半分、拍子抜け半分といった心持ちで深呼吸をする。
「
きっとこいつなりに小説の世界に入っているんだろう。
僕は
だけど、だからといって
妹ポジの全力に応えるのが兄ポジの役目だから。
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