第15話
「“構造は同じはずのに全然違って見える教室。ここは先輩が普段授業を受けている教室だ。今、この場には私と先輩しかいないのに妙な緊張感に襲われていた”」
地の文も担当することになった
ハキハキと大きな声が読むので舞台映えはしそうだと思う。
だけど、僕が想像したヒロイン像、勝手に
「『夕陽が差し込む教室ってなんだかドキドキしませんか?』」
いつもタメ口で年上に対する敬意がない
それだけでギャップを感じてしまうのに、妙に演技派で
「『わかる。それも二人きりだしな』」
ここらで
「“ここで会話は終わってしまう。でも、不思議と居心地は悪くない。無言だけど気持ちが通じ合っているような。私の勝手な思い込みかもしれないけど、この瞬間の積み重ねがとにかく愛おしい”」
「『ねえ先輩。私が後輩の中で特別になるには、どうすればいいですか』」
地の文はお世辞にも情景が浮かぶという感じではないのにセリフ回しだけは妙に魂が入っている。
演技なのか素なのか境目がわかりにくい。
この先のセリフに
「“先輩は腕を組んで天井を仰いだ。遠回しな告白みたいになってしまったことに言ってから気付いて体が熱くなる。私の顔は今どんな色になっているんだろう。もし赤く染まっていても、今なら夕陽のせいにできる。今まで読んできた恋愛小説の登場人物が夕方に告白してきた理由が少しわかった気がした”」
「『俺が留年でもすれば同級生になって、もう一回留年したら先輩になるな』」
「『そうじゃなくて』」
「“冗談を言ってはぐらかそうとする先輩に顔をグイっと近付けた。この人にはこれくらい積極的にならないと気持ちが通じない”」
一冊の本を二人で共有して朗読している以上は逃げの行動も取りにくく、
「“先輩の耳が夕陽色に染まる。その反応が嬉しくて私の心が躍り出す”」
これはあくまでフィクションであると頭ではわかっていても体は正直に反応してしまう。
そう考えると体はさらに熱くなり隣にいる
「『後輩の中で特別だろ? じゃあ妹っぽくなれば特別感が出るかな』」
現実世界ではすでに妹ポジにいる
こういう私情を消すには練習するしかないんだろうな。
「『妹っぽくって……お兄ちゃんって呼んでみたりですか?』」
普段のゆうお兄ちゃんとは違う、すごく甘えた感じのお兄ちゃん呼び。
人生の中で何度も何度もこの声にそう呼ばれ続けたはずなのにとても新鮮で、
「どうしたんですか? ドキドキして言葉も出ませんか?」
「こら。そんなセリフはないだろ」
「いてっ!」
突然アドリブを入れられたので、おかしな流れに持っていかれる前に実力行使。
口調は小説の主人公と同じだが内容の意地悪さは完全に
それに同じ本を読んでいるんだからオリジナルのセリフを言えばすぐに分かる。
いろいろなバイアスがあるとは言え僕をドキドキさせるんだから巧いものだと感心していたのに、まったくこいつは……。
「こらこら。集中しないとダメだぞ」
顔は笑っているのに目が笑っていない
時間がない中、せっかくいい具合に練習が進んでいたのに中断したら部長としては気が気じゃないだろうな。
「ごめん。
「ひっどーい! ルナを盾にするなんて」
「そうよ
「えぇ……僕が悪いの」
こうやって年上のをうまく取り込むように立ち振る舞わせたら右に出るやつはいないだろうな。
「ゆうお兄ちゃんってばアドリブに弱すぎ。もしルナがうっかりセリフが飛んじゃったらゆうお兄ちゃんがどうにかするんだからね」
「朗読は本を手に持った状態でやるからセリフが飛ぶことはないぞ。演劇部じゃないんだから、
「もう。またもっともらしいこと言って~」
「なんで僕が悪いみたいな雰囲気を出してるんだよ」
口を尖らして拗ねる姿はとても妹っぽい。
後輩にしては生意気だけど、長年妹ポジに就いていただけあって妹らしい所作はすごく自然だ。
「『お、おにい……ちゃん』」
急に視線を逸らして意を決したように声を振り絞る
何の前触れもなく練習に戻るのでリアルなのか演技なのか判別が難しい。
「『お、おう』」
次の僕のセリフが戸惑う感じでよかった。
偶然にも今の心境とセリフがシンクロして、真に迫った演技になったと思う。一言にも満たないけど。
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