第14話
「時間がないのでオーディションは明日にします。今日一日練習をして、その成果をみんなに披露してね」
「そんな急な」
「う~ん。でも、どっちが朗読するかをきちんと決めてからが稽古の本番だと思うのよね」
「それはそうだけど……」
国語の授業で教科書を読むのとは訳が違う。
僕だって大勢の前で朗読なんて初めてだし、一日で
「ゆうお兄ちゃん、練習しよ。これを読めばいいの?」
そう言うなり
シーン選びに参加していなくても付箋が張ってあればここだとすぐにわかったのだろう。
迷うことなく文字を読み進めた。
「ふむふむ。ルナとゆうお兄ちゃんなら自然な演技ができそうね」
「どこがだよ。このヒロインとルナは似ても似つかないだろ」
「そう? 先輩のことを想う物腰柔らかな後輩ってまさにルナだと思うんだけど」
「お前がそう思うならそうなんだろ。お前の中ではな」
この小説のヒロインは
人見知りで引っ込み思案なヒロインが部活で出会った先輩に恋をする物語。
読めば読むほど頭の中に
「なら、まずは
「おいおい。本当に新入部員が部活説明会の練習するのかよ」
「
僕の指摘に
二人の対立を煽っているように見えたけど、実のところは
その言葉に僕はホッと胸を撫で下ろす。
「よし。そこまで言うなら
「むむぅ。どっちかって言うと
「僕は
僕の問いかけに部員一同が頷いた。その中には
顔色は少し悪く不安そうな目をしている。だけどその瞳の中には決意の炎が燃えていた。
気持ちの準備さえできればきっとやってくれる。
僕は
「少しお芝居をするっていう話だったけど、それは最後のシーンだけでいいと思うの」
「そうっすね。俺ら演劇部じゃないし」
「むしろ最後の最後で『それする!?』みたいな方が驚きが大きいかも」
「僕としてもその方が助かる。朗読の経験もないのにあれこれできないよ」
こういう時に人望がある
その辺のバランスを見つつ、良い方向に舵を切ってくれるのが
「いいか
「ルナがゆうお兄ちゃんに甘えて、みんなをドキドキさせればいいんでしょ?」
「ものすごい拡大解釈をしたな」
「まあだいたい合ってるんじゃないっすか。1年生が部活紹介に出てるってだけでも珍しいし」
「改めて言葉にするとすごい状況ね……」
常識人寄りの
こういう場合、常識人が折れるのが世の常。覚えておくといいよ
「セリフはルナとゆうお兄ちゃんが担当するとして、それ以外はどうするの?」
「ああ、地の文か。基本的にヒロイン。この小説の場合は主人公か……だからルナと
「そうね。女の子の気持ちを描写してるわけだし、オーディションをするんだから地の文は女の子担当で」
僕にだけ見えるようにこっそりウインクする
「それじゃあ
「はい!」
「うん……で、僕の分は?」
「それは明日までに用意しておくわ。倉庫のカギを借りないといけないから」
「部室に保管してるのって一冊だけだっけ? ああ! そうだった」
文化祭用に製本したものはすぐに取り出せるように過去10年分は本棚に保管して、残りは倉庫に行ってもらっている。
残念ながら余ってしまった数冊も同じく倉庫だ。
「えーっと、これはこの一冊を二人で大事に使うってことだよね?」
「そうね。本番では体育館全体に声が届くように椅子の位置は話すけど、今日は初日だし。ね?」
うふふと笑う
教科書を忘れた人に見せてあげるみたいに、二人が身を寄せ合って一冊の本を読む。
僕らが密着するのも
「えへへ。ゆうお兄ちゃんに家庭教師してもらってたことを思い出しちゃうね」
「……そうだな」
残念ながら反対側からだとうまく文字が読めないので仕方のないことなんだ。
「家庭教師と生徒っていうシチュエーションもドキドキしたけど、先輩と後輩っていうのも素敵だね」
「それならゆうお兄ちゃんじゃなくて
「えー? ルナがゆうお兄ちゃんって呼ばなくなったら、誰からもお兄ちゃんって呼んでもらえなくなっちゃうよ?」
「僕はそれでも一向に構わないけどな」
まるで
ブレザー超しとは言え胸の膨らみが腕に当たりそうになるのでさりげなく椅子をずらして逃げるものの、
「そろそろ準備はいい? この後は椿さんとの練習もあるんだから」
「はーい。ルナはいつでもおっけーです」
「僕もオッケー」
「むふふ。ルナの可愛い後輩っぷりに悶絶するといいわ」
咳払いをして
これから文字を読むから仕方ないとは言え、体温が間接的に伝わってくれば嫌が応にも鼓動が早くなる。
好きな人の前で恋愛小説を妹ポジと朗読するという羞恥プレイがいよいよ始まってしまう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。