第13話
「る、
「ゆうお兄ちゃんが運動部に入ってるとは思えないから文化部を一つずつ見学してたの。ゆうお兄ちゃんが素直に教えてくれればこんな苦労しなくて済んだのに」
唇をとがらせてぶーぶーと不満を漏らす。
部活説明会は今週末だけど、別に見学をしてはいけないというルールはない。
むしろ、中学と同じく野球をやりたいとか、高校に入ったらラグビーをやりたと決めてる新入生は早々に仮入部を始めている。
「うぅ……なんでここに」
安全地帯と思われた文芸部の部室に天敵が現れたのだから当然の反応だと思う。
「えーっと、ゆうお兄ちゃんって
「まあ、そうなるな」
あまり状況が飲み込めていない
人を指差してはいけないと指導する力も湧いてこず、僕は無気力に肯定した。
今この部室に男子は僕と
「妹さんいたんすね」
「本当の兄妹じゃないけどな」
僕がそう言うと
「こら
「いでで……」
「すまんすまん。そういう複雑な話じゃなくて、妹みたいなポジションの幼馴染ってだけだ。血縁はないし、親族でもない」
「ほら見ろ。
「そういう問題じゃないから」
僕が
今からこんな様子じゃ将来も絶対に尻に敷かれるな。
「はいはい。せっかく新入生が来てくれたんだからおもてなしよ」
このスキルは
今度コツを聞いてみよう。
「部長の
「はい。
「おい……って、うん?」
反射的に振り上げていた右手が行先を失ってしまい、無意味に挙手したみたいになっている。
「幼馴染。今、幼馴染って言ったか?」
「うん。ルナ、なにか変なこと言った?」
首を傾げると自慢のツインテールがその動きに合わせて揺れた。
大きな瞳でまっすぐに見つめられると、僕が右手を振り上げたことの方が間違いであったと認めざるを得ない。
「いや、ごめんごめん。うん。幼馴染。
「ほんとっすか~?
「まったくあんたってやつは」
懲りずに僕と
もはやわざとやっていると疑うレベルだ。
「あらあら。
ほっぺに手を当て、
僕と
「
「優しいのね
「兄ポジとしてカメと
僕は
ゲスなカメと出会ってほしくないのも理由の一つであるけど。
「ルナはもうここに入るって決めたもん」
「お前、本なんて読まないだろ?」
「こ、これから読むもん。高校生になったしね」
「そうかそうか。それは殊勝な心掛けだ」
「それに、ここには
「ひっ!」
僕の幼馴染である
部活説明会に向けて不安の種が増えてしまった。
「こら。先輩を威嚇するんじゃありません」
「え~? 威嚇なんてしてないよぉ。ルナは
「仲良くなるのは僕としても歓迎だけど、この様子を見る限りじゃなあ……」
完全にカツアゲする側とされる側の構図である。
これで
「それに言ったでしょ? ゆうお兄ちゃんと
僕と
おそらくこの言葉に嘘はない。
「応援した結果、二人に何もなかったり、ゆうお兄ちゃんがルナを選んだら……」
ふるふると震えている
言葉はなくとも行動で示したということだろう。
「ゆうお兄ちゃんが優柔不断なのがいけないんだよ?」
僕が
頭ではわかっていても、今の関係が壊れてしまうのが怖くて勇気を出せない。
「はいはい。なにかお取込み中みたいだけれど、いい加減そろそろ練習を始めましょう」
「練習? なんの?」
「ちゃんと新入部員に来てもらうために部活説明会で小説の朗読をするんだよ」
「椿さんが書いた恋愛小説で、ちょっとした実演も交えるんすよ」
「へー。そうなんですか。誰と誰がです?」
「そりゃあもちろん作者である椿さんと、椿さんご指名の
少しずつ状況を掴んだ
僕らの応援をするというなら絶好のチャンスじゃないか? なぜそんな怒りと嫉妬が混ざったような暗い笑顔なんだ?
「あの、ちょっといいですか?」
「なにかしら?」
それどころか口元がかすかに緩んでいて、今の状況を完全に楽しんでいる。
「ルナを正式に部員にしてください。それで、ゆうお兄ちゃんの相手役をルナにしてください」
「はあ!? 新入生が部活説明会に出るってそんなのダメに……」
「いいわよぉ」
「「「ええ!?」」」
予想外の展開に突入したと感じたのは僕だけではないらしく、
「えーっと、
「いやいや
「もう文芸部に決めたのなら説明会なんて聞かなくても……ねえ?」
「さすが部長! 話がわかってますね」
長年妹ポジにいるだけあって年上に取り入るのがうまい。
「あ、あのっ!」
声の主は僕の後ろで震えていた
「わたしだって、できます。これはわたしが書いた小説だから」
「うふふ。そうよね。自分の作品だから自分で朗読したいわよね」
「えぇ!? 部長はどっちの味方なんですか」
「うーん……文芸部の味方かな?」
頬に人差し指を当ててわざとらしく考えるポーズを取った
まるでこうなることが予想できていたかのように、ひょうひょうと答えた。
「でも困ったわね。原作者である椿さんと、舞台でも堂々と振る舞えそうな
「それならオーディションなんてどうっすか?
「
「そうね~。そうしましょうか。うん。オーディションをやりまーす」
文芸部の味方と言っていたけど、僕にとっては敵に見えて仕方ない。
気持ちとして
こうなったらオーディションまでに
だって僕は、先輩なんだから。
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