第11話
「念のため確認だけど、本当にやるのね椿さん」
「はい。去年書いたわたしの小説を朗読するなら……ですけど」
あくまで小さいのはボリュームの話であって、その声には力強い決意のようなものを感じる。
「椿さんはああ言ってるけど、
うふふと不敵な笑みを浮かべる
それに僕が
修学旅行中の『誰にも言うな』は実質無意味な約束だからだ。
「わかった。やるよ。
「~~~っ!」
僕が渋々承諾すると
あまり感情を表に出す子ではないのでわかりにくいけど口元が緩んでいる。
「
それこそ
続きを書いてみたいと思ってくれる新入生が現れるかは別の話だけど。
「わたしが思い描いた展開と別のストーリーを考えてくれる人がいたら、おもしろいかなって思って」
「そっか。
「よ、よろしくお願いします」
ものすごい勢いで深々と頭を下げるものだから
普段は隠れているその部分は妙に色っぽく、僕はごくりと唾を飲んだ。
「あの、わたし何か変なことしました?」
「い、いや。なにも。とにかく頑張ろうな。僕も人前で朗読なんて初めてだし」
「はい。わたしも想像しただけで緊張します……」
さっきまで頬が緩んでいたその表情はすっかり固くなってしまっている。
新入生である
他にも陽のオーラが溢れる新入生はいくらだっているだろうし、本番を想像すると僕も胃がキュッとなった。
「演技指導は私と
「
「椿さんの妹演技か~。楽しみだな~」
人前に出ないことが確定した部員は三者三様に勝手に盛り上がっている。
2年生組は
「とは言っても各部の持ち時間は5分までだし、活動内容の紹介も含めると朗読に避けるのは3分くらいかしらね」
「そうなるとどの部分を選ぶかが重要っすね。
「おい
「
「なんでそれを朗読するのが確定みたいになってるんだよ」
「
僕だって
「はいはい。部活紹介は今週末よ。あまり時間がないから朗読する部分を選びましょう」
いつまでもわちゃわちゃとしている場合ではない。
朗読をやると決まった以上、しっかりとやらなければ元からの入部希望者からも敬遠されてしまうかもしれない。
「
「さすが
「ふふふ。来年はお前が僕と同じ目に合うのかと思うと笑いがこみ上げてくるよ」
「来年も朗読するかどうかは先輩の出来次第っすけどね」
「てめぇ」
文芸部内でのお調子者っぷりは緊張を和らげたい時には本当に助かる。
内弁慶みたいなところはあるものの、カメに近い存在感がある。
「えと、わたしのお気に入りのシーンなんですけど。……ここです」
去年の文化祭で製本したオリジナル小説をぺらぺらとめくりながら
「わたしが選んだところなら優兎先輩は朗読してくれるんですよね?」
見開いた本を僕に見せつけるように
文字のみが羅列したそのページから一瞬で情報を読み取ることは難しく、その内容を把握するのに少しの時間を要す。
「マジか……」
小説の内容は概ね把握してはいたけど、よりにもよってこの箇所を朗読するのかというのが正直な感想だった。
「どこどこ。どのシーン」
読み進めていくうちに
「俺にも見せろって」
次は
部員の前で隠しても何の意味もない。
「
「ありがとな」
「あらあら。私にも見せて」
最後に
あまり表情を変えずに読み進めていき、付箋を貼ってページを閉じた。
「うふふ。椿さん、とても良いシーンを選んだわね」
「ありがとうです」
褒められた
この仕草も可愛くて抱きしめていいなら抱きしめたい。
だけど僕らは恋人ではないし、兄妹でもない。ただの先輩と後輩だ。
「せっかくなら朗読だけじゃなくて少し実演もしましょうか。その方が臨場感があっておもしろいわ」
「いやいや! それはさすがに!」
「椿さんはどうかしら?」
「えと……わたしは実演があっても良い……です」
「マジか」
物語の主人公ならともかく、冴えないフツメンの僕があんなことをやって場の空気は凍り付かないだろうか。
恥ずかしさと恐怖が入り交じって頭の中でぐるぐると回り続けた。
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