第9話
「あらあら
わざとらしい泣き真似をするカメの背後にぬるりと現れた長い黒髪のスレンダーなクラスメイトは、おっとりとした言葉遣いとは反対に怒りのオーラがだだ漏れている。
「お、おう
「うふふ。新学期から新入生をナンパだなんて元気ねぇ」
落ち着いた話し方とうふふ笑いで男子から隠れた人気がある
カメと同様に1年生の時から同じクラスになって、カメ経由で仲良くなった僕にとっては貴重な女友達の一人だ。
「違うんだ
「そのわりにはお胸の大きい新入生をしっかり覚えているようだけど?」
お調子者のカメすらも委縮させる迫力に僕みたいなやつが何かできるはずもなく、ただただ二人のやり取りを見守ることしかできない。
カメから
僕みたいな恋愛経験皆無の男からすれば二人はまるで夫婦のように思える。
実際、去年の修学旅行でカメの好きな人は
カメの顔に釣られた女子にゲスい下ネタを連発してドン引きさせるのは、振って傷付けるのではなく相手から離れてもらるカメなりの心遣いらしい。
「
「
「お姉ちゃんって……私そんなに老けて見える?」
「すごくしっかりしてるからさ、クラスでも部活でも」
「幼馴染がこれだと苦労が絶えなくて……はぁ」
女子大生、いや、人妻のような
その雰囲気からクラス委員長に選ばれ、僕が所属する文芸部でも当然のように部長に選ばれた。
たぶん
「カメがモテるのって顔だけだし、早めに本性を知ってもらうには良い機会だったんじゃないかな」
「それもそうね。彼女いない歴=年齢を今も更新し続けてるものね」
「
「何も貫けない剣と何かを守り続ける盾。どちらが優秀かは
「俺はこれから何度だって貫くんだよ」
「あらあら、浮気宣言かしら? 最低ね」
僕自身は
そうでなきゃこんなゲスナンパ野郎にお節介を焼かずに愛想を尽かしている。
「はいはい。微妙な下ネタはここまで」
「ごめんなさい。
長いこと
基本的には
「
「あらあら。それなら私を妹扱いしてくれないかしら」
「
「なんで僕に振るんだよ」
「
「ええ!?」
なぜか二人の痴話喧嘩が僕に飛び火した。やっぱりカメと
早く付き合って将来的には結婚してしまえばいいのに。
そんな考えが脳裏に浮かんだ時、ブーメランのように自分の心に突き刺さった。
「なあ、もっちーってば!」
「お、おう」
「幼馴染に苦労させられている私では妹になれないかしら?」
「え、えーっと」
二人の顔がめちゃくちゃ近い。
僕にだいぶ近寄っているのはもちろん、カメと
ナチュラルにこの距離感でいられるってもう付き合ってるじゃん!
「世の中にはしっかり者の妹もいるだろうし、
「そう言ってもらえると嬉しいわ。
うふふと不敵な笑みを浮かべてカメに宣言した。
「へへっ! 兄の言うことは絶対だからな。そうだろ? もっちー」
「むしろ僕はいつも振り回されてるけどね」
「なにっ!?」
「だ、そうよ。積年の苦労を身をもって味わってもらおうかしら」
「なあ
カメの表情がキリっとしたものに変わる。
聞きようによっては告白とも取れるその言葉にクラス中の聴覚がカメに集中していた。
「
「え? 違うの?」
「飼い主と犬みたいなものだと私は思っていたわ」
「えーっと……犬っていうのは」
カメからの問いかけに
この様子を見守るクラスメイトからはくすくすという笑い声も聞こえる。
「まあ俺は飼い犬の枠に収まらないけどな!」
「飼い主の命令を聞けない駄犬ってことねぇ」
もはや犬であることを認めてしまったカメと、そんなカメを駄犬扱いする
何度でも言うけどこれ夫婦だよな……僕が知らないだけで実は付き合ってるんじゃないの?
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