第59話 あなたは母より綺麗だから
「え…?」
「いまからあんたがただのめんどくさいヴァージンだって証明してあげる!!ひゃはっーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
私は思い切りそのビキニを剥ぎ取る。ユリシーズの大きなおっぱいが衆目に晒された。
「そんなぁ!きゃああああああああああああああ!!」
すぐにユリシーズがビキニアーマーの下に来ていた安全下着のヌード防護機能が発動して、乳首に謎の光が差さってその姿を隠してしまった。まじでちゃんと脱げても乳首を晒さずに済むなんて科学の力は本当に素晴らしい!だけど女の羞恥心はたとえ安全であっても自然と湧き出てしまうものなのだ。ユリシーズはせっかく掴んでいた剣を放して両手で胸を覆い隠す。そしてユリシーズは隙だらけになった。私は彼女の肩に向かって蹴りを入れる。
「ぐっ…!」
ユリシーズは地面に叩きつけられて、痛みに耐えながら見悶えていた。
『…いや…今のはねぇわ…ドン引き…こんなダーティーな戦い方したサキュバス、オレ初めて見たわ…ないわー』
『『『『ブーーーーーー!!』』』』
会場いっぱいからブーイングが響き始める。さらには紙コップやら、紙屑やら、ポップコーンの空き箱やらがガンガン投げ入れられる。精気の流入も完全に途切れてしまった。観客は我に返っているようだ。だけどそんなのどうでもいい。客を喜ばせるために戦ってるわけじゃない。勝つために戦っているのだから。私はぺたりと女の子座りで地面にへたり込んでしまったユリシーズの所に悠然と歩いていく。気分はまさにヒール!
「くくく、とんだベビーフェイスね!ねぇねぇさっきまで私の弟とヤるってイキってたけど!そんなんで本当に男とヤれるの!?ひゃはははは!無理無理無理!たかが乳首くらいでそんなに恥じらっちゃうお嬢さんに男と寝る度胸なんてあるわけないわ!!あはは!あーははっはは!!」
「あなたは何を考えてるんですか?!なんでわたくしにこんな辱めを?!人前でこんな…服を剥ぎ取るなんて!!」
「あら?それが素の喋り方?いいわね!とってもかわいいわよ!リリィちゃあああん!!あははは!!」
ユリシーズの素の喋り方が出てきた。普段のえせ王子様っぷりに比べたらこっちの方がずっと可愛く見える。
「あなたはそれでも女ですか?!誰だって胸を晒して堂々となんてしていられません!わたくしだけじゃない!あなただってそうでしょうに!!」
「あなたと一緒にするな!!見なさい!我が勇姿!!ビキニキャストオフ!!!」
私はビキニアーマーの上のビキニカップを自分の手で剥ぎ取って捨てた。当然パークの規定上乳首には謎の光とモザイクがかかってしまう。だけど私は隠しはしない!
「私の体に恥ずかしい所などない!!さあ見ろ!みんな見ろ!私のおっぱいを見るがいい!!おーほほほほほ!」
私は両手を挙げて、会場に向かっておっぱいをブルンブルン揺らしてアピールをする。お客さんたちは皆私を唖然とした表情で見ていた。そしてちっとも精気が飛んでこない。今の私にみんなちっとも興奮してないってことだ。いっそ笑える。
「あなた馬鹿なんですか?!」
「ええ…馬鹿で結構。私は途方もない夢を見たのよ。恥ずかしさなんて感じる余裕はもうないの。さあ見なさい。私のおっぱいを…」
ユリシーズは私のおっぱいから目を逸らす。
「そんなはしたないもの見たくありません」
「いいから見なさい!!私の胸を!あんたの母親よりも大きいこのおっぱいを!」
怒鳴られたユリシーズは私の方におそるおそる目を向けてきた。
「そしてあなたも自分のおっぱいを見なさい。わかるでしょ?もう私もあなたも母親よりも胸が大きく膨らんでるのよ。お母さんよりもおっぱいが大きい女なのよ!だからね。お母さんの胸に蹲って甘えるなんてもう出来ない。…リリアン。あなたはここでいい子になって自分を最適化させた。いい子になれば迎えが来る。会いに来てくれる。そんなことあり得ないよ。リリアン。あなたはとても綺麗な女になってしまった。あなたは母親よりも美しいのよ。それはもう仕方ないのよ。出てしまうのよ色気っていうものは。女の体が美しくなるように神様はそうやって人を創ってしまったんだから。だからね、それは厭らしいものじゃないよ。ほら私を見てみなさい。会場の誰も!誰も!私のおっぱいを見て興奮してない!おっぱいデカいだけで厭らしいなら今頃みんなが私に精気をぶっかけてる!でもそんなこと全然ないじゃない!!リリアン!女を抑え込もうとして自分を歪ませるのはやめなさい!私たちは必ず折り合いをつけられるはずよ!たとえおっぱいがでかくても!顔が綺麗すぎても!他人と折り合いをつけて生きていけるはずなのよ!女だからなに?!サキュバスだから何?!あなたは自分を抑えつけなくてもいいのに!母親に気に入られるように自分の美しさを隠すようなことなんてしないでリリアン!あなたはとても綺麗なんだから!!」
私はかつてここに来たばかりの頃に、確かにこの女の優しさに助けられたのだ。あの時見たこの女の横顔は確かにとても素敵なものだったから。
「さあ立ちなさいユリシーズ。決着をつけましょう…!」
私は十手を地面に捨てて両手を構える。ユリシーズは私を見て、微かに笑った。
「あなたは…ははっ…こんなことした人初めてですよ…こんなおバカで…でもわたくしの傍に居てくれた人はあなたが初めて…!」
ユリシーズは立ち上がり、拳を構えた。端から見れば限りなくバカな光景だろう。おっぱい曝した女が二人、互いににらみ合いをしているんだから。一応乳首は謎の光で隠れているから許してほしい。
「「いやぁああああああああああああああ!!!」」
そして私たちは殴り合いを始めた。本当にただの馬鹿だっただろう。男の子同士なら格好もつくかもしれない。でも女同士の殴り合いなんてきっと世界一ダサい行為に決まってる。でも不思議と楽しかった。
「げぶっ!こんのう!」
「やりましたわね!このう!!」
そして気がついたら観客席から声が響いていた。
『負けんなユリシーズ!!』『行けぇミサオちゃん!!』『どっちもがんばれぇ!!』
声援と怒声とが入り乱れる会場の熱気が酷く心地がいい。だけどそろそろフィナーレは近い。私たちはもうお互いに膝がガクガクと震えているのだ。そして私はありったけの力を込めてアッパーをユリシーズの顎に向かって放つ。対してユリシーズは私の頬にストレートをぶち込んできた。
「「ぎゃぼぅ…」」
『クロスカウンターーーーーーーーーーーーーーーーー!てかなにこれ?!これってサキュバスの戦いだよねぇ?!なんでボクシングみたいになってんの?!泥臭すぎィ!!』
『はは。なんだろうなこれ…マジでやべぇわ…後で二人とも説教だな…』
そして私とユリシーズは同時に地面に倒れ込む。目の前にユリシーズの顔が見えた。
「やっぱりあなたは綺麗ねリリアン。…王子様よりお姫様の方がきっと似合うわ」
ユリシーズは微かに笑みを浮かべていた。可愛らしい女の子の穏やかな笑顔。とても綺麗でよく似合っている。
「ありがとうミサオ。ならこんどのパレードではあなたが私の王子様をやってみてよ。きっとあなたには王子様が似合うと思うから…」
「…考えておくわ…。ところで…私の…勝…」
だんだんと目の前が真っ暗になっていく。そして遠くの方から試合終了のブザーが鳴り響いてきたのが聞こえる。
『試合終了…!判定の結果!勝者は…』
実況の声がドンドン遠くなっていく。そしてそこで私の意識は完全に闇に落ちてしまった。
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