第55話 空気の読めない武芸崩し!
私の刀とユリシーズの諸刃の剣が交わり火花を散らした。
「「やああああああああああああああああああああ!!」」
お互いに剣を振るい、払い合って、一進一退の攻防を続ける。
『いやあ、すごい攻防ですねぇ!!新人らしい粗削りな剣捌きに押されているのか、ユリシーズの剣にもいつもと違って荒々しさが見えているような感じがしますね!』
『そうだな。ユリシーズはいつもと違って気合ががっつり入ってる。いつもの王子様っぽさがないっていう意味では新鮮で面白さそうな試合になりそうだぜ!』
『本日の実況開設は、帝都サキュバス・パーク序列第11位、サキュバス・ナイト。ローランドと!』
『序列第1位、サキュバス・クイーン。ロミオがお送りするぜ!!』
私はユリシーズに対して、ひたすらを振るい態勢を崩そうと試みていた。
「光辰流!!
刀に魔力を流し込み攻撃力と速度を上げて、私は剣を振りぬいた。だが。
「帝国海兵隊式魔導剣・
ユリシーズは剣を地面に突き刺して、そこから円形に魔力の盾の陣を展開し、私の剣技を防いだ。
『おお!ユリシーズの防御技が見事に決まりました!!流石に新人に簡単に見せ場を作ってはくれないようですね!』
『今回のユリシーズはガチだからな。だけど…。新人の技の冴えもなかなかのもんだと思うぜ!見てみろよ!ユリシーズの脇腹を!』
私の剣技はユリシーズの防御陣の発動の前に少しだけ彼女の体に届いていたのだ。私の斬撃がユリシーズの脇についている鎖帷子を微かに切り裂いていたのだ。そこから彼女の滑らかできめ細かい綺麗な肌が覗いていた。
『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』』
お客さんからの興奮の叫びが響き、それと同時に多くの精気が放たれた。それらを私は快感と共に吸収し、自らの能力強化に振り分ける。今の剣技で私はお客さんたちを愉しませたのだ。いっぱい剣技の訓練を積んだ。だからこの吸精に楽しさを感じる。だがやっぱり悔しいことがある。目の前のユリシーズが悲し気な微笑を浮かべていた。そう、客から放たれた精気の多くが、ユリシーズに向かっているのが見えた。ユリシーズは普段はボーイッシュに振る舞い、肌も見せない。だからこそこうやって服が剥がれて肌が見えると、客はそのギャップに興奮してより多くの精気をユリシーズに与えるのだ。それが腹立たしい。どんなに剣を磨いても、結局男が見ているのは女の肌に過ぎないのだから。
「これがサキュバスの現実って奴だね。ここにいる誰もがボクの技も、君の剣も見ちゃいない。君はさっきからちょこちょこ精気を吸ってるよね?ビキニアーマー。胸が揺れるし、お尻は際どい。アーマーという癖にちっとも身を守ってくれやしない防具でも何でもないそれは、僕たちサキュバスにとっては武器なわけだ。でも君はわかってない。女は肌を曝すべきじゃない。チラつかせる方がずっとずっと男たちの目を惹き寄せられる。君のその肌の晒し方は、擦れていない処女の思想そのものだよ。肌を見せればいいんでしょって?いう処女の傲慢」
ユリシーズは皮肉気な笑みを浮かべて、私に剣を振るって来る。上半身を狙ったわざとらしい横振り。私はそれを上体を大きく逸らして避けた。その時私のビキニに包まれた胸が大きく揺れた。
『ひゅー!いいぞ!ユリシーズ!!』『もっと揺らしてやれ!!』『おっぱいおっぱいおっぱい!』
男たちが興奮したらしく、私に向かって多くの精気が向かってきた。私はそれを舌打ちしながら、吸収する。さらにユリシーズが振るってきた剣を側宙とバク転を利用して回避し、いったん距離を取った。これらの動きも多少は客の心を掴んだらしく、わずかながら精気を吸収できた。
「へぇ。なかなか外連味のある避け方を身に着けてるね。ロミオの薫陶はうまく生きてるみたいだ」
「お褒め戴き光栄だわ」
「でも決定的に攻撃力が足りてないね。オリヴィアさんに師事してるんだろ?なら何かしら見せてもらわないと。ボクも脱ぎ損は嫌なんだよね。衣装代だってわりと馬鹿にならないんだからさ。そろそろ見せてくれないかな?ボクの防御を突破できるような手段って奴をね!」
挑発的に笑うユリシーズはゆったりとした構えに切り替えた。私が男から奪った戦闘経験から判断すれば、ユリシーズの構えは恐ろしく隙だらけに見える。だけど私はすでに見ている。彼女はあの構えでわざと敵の攻撃を受け止めて、派手に艶やかに自分の服を剥いでいって、精気を大量に吸収するということを。実際ここにいる多くの客の目の色が変わった。ユリシーズの戦闘方法はすでに一つの『芸』だ。お客さんたちはユリシーズの艶やかで美しい脱ぎっぷりに魅了されている。みんなそれを見に来ている。だから。
「いつまでもワンパターンが通じると思わないでね。貴方のやり方って一発ギャグの芸人みたいで寒いのよ!!覇ぁあああアアアアアアアアアア!!」
私は剣に魔力を通して、ユリシーズに向かって跳ぶ。剣を体の右横に構えて、左で思い切り振りぬいた。
「待ってたよ!こんなワンパターンいくらでも受け止め…空ぶり?」
私は左手の刀をユリシーズの前でワザと空ぶらせた。そして右手の拳を思い切り振りかぶりユリシーズの腹に向かって突きをぶち込む!
「ぐはぁ…だけどプレート越しの拳なんて!!」
「甘いのよそれがぁ!!浸透頸発動!!流れろ!!」
私はプレートメイルの上から気功をユリシーズに向かって流し込む。そして気功がプレートメイルを貫通し、ユリシーズの内臓に直接衝撃を与える。
「ぶふぅ!!がはっ!!気功法…?!…嘘だろ…いつの間にそんなものを身に着けた?!」
「自分が何者か忘れたの?!私たちはサキュバス!男の知識も技も経験も!すべては我が糧!我が搾取の対象!!あなたはパークに引き篭もってるから、そんな初歩の初歩も忘れちゃうのよ!!」
私は怯んだユリシーズに対してさらに浸透頸を乗せた蹴りを太ももに放つ。それによってユリシーズは膝をついた。私は当然その隙を見逃さない!そのままバク宙をしながらユリシーズの顎に向かって蹴りを入れる。
『『『わあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』』』
観客の大興奮の雄たけびが上がった。
「んっ…んん!あはっ…!!」
同時に私に向かって過去最高っていうレベルの大量の精気が集まってきた。快感の深さに思わず声が漏れてしまった。
『うおおおお!決まったあああ!!新人のバク宙回転キックだ!!しかし今の一体どういうことなんでしょうかロミオさん?なんで新人のタダシはわざわざ気功を使って殴ったんでしょうか?』
『あれはユリシーズのサキュバス風『武芸』への対策だな。もうみんなお約束に慣れてるから忘れてるけど、ユリシーズの魅了のテクって、超高度なストリップなんだよ。ようは服を剥がなきゃいいんだ。そうすればユリシーズの吸精を阻止できる。浸透頸は服や鎧を壊さずに体へ直接ダメージを与えられるテクだ。新人はユリシーズの『武芸』を完全に封殺するつもりだ。客の求めてるものに砂を引っかけるような空気読めてないやり方だよな!さすがはイキリビッチミサオちゃんだぜ!ちっとも色気がないぜ!!ぎゃははは!』
『ちょっとちょっと!クイーン!新人の源氏名はタダシですって!本名は…』
『知ってか?貞ってかいてミサオって読めるんだぜ?オレあいつの源氏名ダセェから嫌い。ミサオでいいよミサオで!ぎゃははっは!』
ロミオが解説席で私の本名を普通に暴露してやがった。やっぱり私に向かってメッチャメッチャ怒ってるんだな。私の本名はどうせネットで調べれば出てきてしまうから、お客さんの中にはときたま本名で私のことミサオと呼ぶ者もいる。
『へぇ本名はミサオっていうんだ』『そっちの方が可愛くない?』『だよな!』『ぶっちゃけタダシよりミサオの方がよくね?』『やっぱ先輩はミサオじゃなきゃ!!ミサオせんぱーーーーーーーーーーーーーーい!!』
『『『『ミサオ!ミサオ!ミサオ!ミサオ!ミサオ!ミサオ!』』』』
あっと言う間に会場にミサオをコールが鳴り響く。
「頼むから源氏名で呼んでよぅ…せっかく考えたのにぃ!かわいいじゃないタダシだって…わーん!!」
どうやら私のことを源氏名で呼んでくれる人は皆無らしい。そのことに実に微妙な気分になったのだった。
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