第41話 イキリビッチートの真価
男性を避ける方法を確立した後の私ははっきり言って無敵だった。男に群がられなくなって警戒されなくなったので、道行く女性たちは私からティッシュを快く受け取ってくれたのだ。中には私の顔や肌を見てマッサージの内容について興味を強く示して私に話しかけてくれた人もいた。。用意したチラシとティッシュのすべてをさばいて私たちは院瀬見さんのお店に戻った。
「やばっ…めっちゃ疲れた…きゅぅ…」
私はう空いているベットの一つを借りてそこに寝転んだ。
「それは男性を避ける方にサキュバスの生態特性を使ったせいだね。あんたたちの身体動作や感情表現は男を惹きつけることに特化している。精神構造の在り方も嫌な言い方をすれば男受けに全振りしているわけさ。心と体は男を欲しがってるのに、その逆をやってる。だからその反動がきて疲労が強く溜まっちまうんだ。これがあるから外の世界で生きづらいんだよね。あんたたちの魅了の力はまさしく呪いそのものだ」
店の受付カウンターに座るオリヴィアさんはしみじみと語る。確かにこの身に宿ったサキュバスの生態特性は呪いそのものだ。たちが悪いのは破滅するのは私だけではなく、周囲も盛大に巻き込むってところ。
「ビッチの呪いとか勘弁してほしいですね。呪いとかなら男の子の中二病の如く体の中で魔王や悪魔を飼う方がいいなぁ。ビッチを飼うとか私みたいな品行方正で清く正しく美しい処女には恥ずかしすぎかなって。私もお股じゃなくて右手とか瞳とかを疼かせたいですね」
私ときたら右手が疼く前にお股がぐちょぐちょ疼くし、瞳に紋章が浮いたり色が変わったりする前に頭の中がピンクに染まる。かつて異能の力で女の子を発情させて、エッチな力で強くなったり強くしたりする男の子が主人公のアニメとか漫画とか読んでしまったことがあるけど、私の場合それがディフォルトだし、なんなら男の子のボディタッチとかいらないし、すごく経済的だと思う。是非機会があったらそういうエッチなパワーで強くなる男性にはそういうプレイに誘っていただきたいですね。その時は思い切りそういうエッチパワーを女の子から搾取する男の子の股間を『私はセルフエロパワーで強くなれるんだよ!』って言いながら思い切り蹴り飛ばしてやる。
「あんたみたいなイキリ女にはビッチの称号はぴったりだと思うよ」
受付の方から私の顔を見てオリヴィアさんが引き笑いでそう言った。この人きっと私がロクでもないことを考えていることを察してるんだろうな。まじで師匠って感じ。
「あっん!いい!すごくいい!」
「お客さん…柔らかくなってきましたよ…俺がこのまま綺麗にしてあげます!」
「ああああーーーーーーーーーーーーーん♡」
店の奥から女の人の気持ちよさそうな声が響いてくる。私は思わず生唾をごくりと飲み込んでしまう。私のティッシュ配りは効果があったようで、店に帰ってすぐにお客さんが何人か来てくれた。最初院瀬見さんの顔をみてお客さんびびっていたみたいだけど、私とオリヴィアさんがいたから安心して施術を受けてくれた。お客さんは施術を受けた後鏡の中の自分の顔を見たり、肌を撫でたりしてとても満足気な笑みを浮かべていた。その気持ちはよくわかる。なんだかんだと化粧が決まったり、衣装が自分の雰囲気にあっていたりして、自分が綺麗になったって実感できると嬉しいし楽しいし気持ちがいい。
「いやぁ。千客万来ってまさにこの事っすね!操さんと監督には感謝してもしきれません!新しく来てくれたお客さんたちリピートしてくれそうですし、とても嬉しいっす!ありがとうございます!」
院瀬見さんは私たちにとても嬉しそうにお礼を言った。その時サキュバスの感覚が疼いた。吸精は十分以上に可能。
「なあ操。今の功久の喜び方なら、スキルのコピーは可能なんじゃないかい?」
「はい。大丈夫です。いけます」
サキュバスが男から魔法やその他異能の力をコピーするには条件がある。それはサキュバス自身の力で相手を強く悦ばせることだ。悦ばせ方はなんでもいい。とにかく相手を強い幸福感に包ませることが必要。その幸福感が高ければ高いほど、吸えるスキルはより高度なものになるらしい。だから今店の常連が増えて嬉しい功久さんからならスキルを引っ張ってこれるだろう。
「なら吸っちゃいな」
「了解!」
私は功久さんに吸精のターゲットを合わせる。そして精気を吸いあげる。
「あ…気持ちいいィ…」
院瀬見さんの顔が柔らかに安らいだ。とてもリラックスしたような表情になる。
「…んっ…院瀬見さんの精気…すごく濃くて…ねばねばしてて…ひっかかっちゃうよぅ…でも…ごく…ごくん…すごくおいちぃ…あんっ!あはぁああん!」
「俺の精気ってねばいの?!つーか何処に引っかかってるの?!ちょっと監督ぅ!この子やばいって!いちいちエロ過ぎですよ!」
「操!!まじめにやりなさい!」
でも精気を吸うのって生理現象だから真面目にとかちょっと無理かなって。院瀬見さん本気で嬉しくなってくれてたみたいだから精気の感触がすごく心地よくてその上すごく美味しいの。
「んぐっ…ぷはぁ…!この一杯の為に男にビッチしてる!」
「で、ちゃんとスキルは吸えたのかい?」
「ええ、見てください」
私は体内で気功を練り上げて、それを掌に放出させる。淡い光が私の顔を優しく照らした。
「これでちょっと試してみな」
オリヴィアさんは蜜柑を一つ私に渡してきた。私はその蜜柑を掌に乗せて。
「ふぅううう。はあぁ!!」
私は蜜柑に浸透頸を通した。一瞬蜜柑は淡く光り輝いた。だが特に見た目には変化がない。その蜜柑をオリヴィアさんが私の手から取って、皮をむいて中身を確認する。
「どれどれ…。ふむ。お見事。成功だね」
蜜柑の皮をむいた瞬間、中から果汁がどろりと垂れてきて、オリヴィアさんの手を黄色く染めた。中の果肉が私の気功の力でグチャグチャになってジュースになったのだ。だけど周りの皮には傷一つついていない。気功が皮だけすり抜けて中身だけを破壊したのだ。
「すごいっすね。マジでチートだ。俺が浸透頸をそのレベルで扱えるようになったのって気功を習い始めて五年くらいかかったんですけどね」
「政府がビビるのもわかるね。習得のための労力もリスクもなしでいくらでも戦闘技術を蓄積できるだなんて武道家からしたら冒涜にも等しいズルだよ」
サキュバスでない二人にはこの技能はやはり脅威に見えるだろう。私だってこれがすごくヤバイ技能だってわかってやってる。サキュバスの恐ろしさの真価はここにあるのだ。
「マッサージ技術の方もコピーされたりしてるんすか?気功はともかくあっちの方はあんまり外で使ってほしくはないかなって…あれ一応俺のオリジナルなんで…その…秘密にして欲しいなって」
院瀬見さんが気まずそうに私に頼んできた。もっともな心配だ。だけどそれについては大丈夫だった。
「安心してください。マッサージの方はコピーできませんでした。相手がスキルの伝達を強く拒絶してる場合は、うまく吸えないみたいです。院瀬見さんのマッサージ術はこの店でしか受けられないここだけの素敵な秘密のままですよ」
私は人差し指を唇に当ててそう言った。院瀬見さんはそれを見てほっと息を吐いた。気功術の方はコピーできたけど、マッサージ技術の方はまったくコピーできなかった。私はお客さんを喜ばせるこの人だけの技術をコピーできなくて良かったと心底思えた。もし吸えてしまったら罪悪感に苦しんだことは間違いないだろう。
「そうですか。じゃあ改めて操さんには感謝を。うちのマッサージは嫁さんも使えるんで、子供が生まれて嫁さんが仕事に復帰したら、是非この店に遊びに来てください。一杯サービスしますから!」
院瀬見さんはとても素敵な笑顔でそう言った。それを見て、私は初めてサキュバスでもいいこと出来たなって思えたのだ。こうして気功術を私は手に入れたのだった。
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